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[25750] 【ネタ】魔法少女まじかる☆レジアス ~溢れ出る加齢臭~ (リリカルなのは)
Name: ころん◆5cd4bbd6 ID:4c1f87d3
Date: 2011/02/01 20:42
 深々と椅子に腰かける1人の少女が居た。
 茶のショートカットを揺らしながら、自嘲気味な笑みを浮かべる少女だ。
 その雰囲気は儚げながらも、どこか威厳を醸し出していた。
 彼女は自分以外、動くものがなくなった部屋に居た。
 そして、ただ天井を見上げて、呟く。
「これは、儂への罰か……」
 血を流し、倒れ伏す者達を見て、少女は嘆く。
 どうしてこんな事になってしまったのだ、と。
 こんな筈ではなかった、と。
 少女は嘆き続けていた。


  ○


 第00話 【それは、この世で最も危険な魔法少女なの】


  ○


 時は少し遡る。
 時空管理局地上本部。
 その頂点に立つ男の名は、レジアス・ゲイズ。
 地上の正義の象徴とも呼ばれる男は、現在、眉根を寄せて険しい表情を見せていた。
「中将、ドクターSからこんなものが届きました」
 白髪をオールバックにした初老の局員だ。
 彼は無表情のまま、レジアスの目の前に、正方形の箱を置いた。
「……」
 両腕の肘を机に乗せ、目の前で両手を組みながら、レジアスは"ソレ"を見る。
 実に綺麗な正方形である。
 実に真っ黒である。
 実に怪しげである。
「なんだこれは。まさか爆発物ではあるまいな?」
「内部に金属反応はありましたが、調査した結果、特に問題はないとの事です」
「魔力反応は?」
「多少ありましたが、量も小量な上、攻撃性のものではないとの結果が」
「ふむ……」
 腕を組み、目を閉じる。
 レジアスが熟考する際に良くとるポーズである。
 初老の局員もそれを理解したのか、目の前から人の気配が消える。
 音から判断するに、どうやら部屋の隅に配置されたカップを動かしている様だ。
 コーヒーでも用意してくれるつもりなのだろう。
 思わず口元に小さく笑みが浮かぶ。
 気の利く、良い部下を持ったものだ。
 その信頼する部下からのお墨付きならば、問題ないだろう。
 だがこの箱の送り人は、ドクターSこと、ジェイル・スカリエッティである。
 一言で言うなら――絶対に信用出来ないでゴザル。
 あの怪しさ100%の狂人からの寄贈品など、爆発物か奇妙な発明品と決まっている。
 独断と偏見に満ちてはいるが、間違ってはいまい。
 しかし、爆発物ではないと部下は言う。
……つまり。
 奇妙な発明品か。
「よし、廃棄だ」
『それは少々酷くはないかな?』
 唐突に目の前に通信ウィンドウが出たので、クローズボタンを連打。
 だが閉じない。
 何故だ。
『残念だが、そのクローズボタンは偽物だ』
「ふんぬっ!」
 両手で通信ウィンドウを潰すが、すぐに復活した。
『無駄だというのが解らないのかね、観念したまえ』
「……」
 げんなりとした顔で通信ウィンドウに視線を向ける。
 その中に映る男は、紫色の肩程まで伸ばした髪を掻き揚げながら笑う。
 効果音で表すならば、フサァ……とか、ドヤァ……とかだろう。
 うわぁ、むかつく。
「なんの用だ、スカリエッティ」
『いやなに、例の物が届いたかどうか確認したいと思ってね』
「……"コレ"の事か」
 箱を人差し指でコツコツと叩く。
 すると、通信ウィンドウに映る男――スカリエッティは相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべ、
『そうそう。それだよ、それ。ほら、早く開けたまえ。喜ぶから。私が』
「お前は何故そう、人のやる気を削ぐ事をわざわざ……」
『性分だ』
 そうか、と箱を持ち上げ、投げつけ様と、
「む?」
 振りかぶった瞬間に、空気の抜ける様な音が室内に響く。
 見れば箱が己から、その身を開こうとしていた。
 開く部分が見つからないとは思っていたが、自動的に開く様になっていたのか。
 仕方がないので、手の中で開いた箱を目の前に運ぶ。
 スカリエッティが凄まじく良い笑顔を浮かべていたので、通信ウィンドウの電源を引っこ抜いて消しておいた。
「なんだこれは」
 本日2度目の疑問である。
 眉根を寄せながら、箱の中心に鎮座する赤い玉を見る。
『おや、解らないのかね?』
 舌打ち1つ。
 もう復活したか、というかどうやって復活したコイツ。
 電源を見る。
 抜けている。
『隣の部屋から遠距離通信余裕でした』
「クッ、秘書室の通信ウィンドウか、これは……!」
 なんというハッキング能力だ。
 というよりも、秘書室などという機密も集まる場所をハッキングされるとは何事か。
 後でセキュリティ担当に文句を言ってやらねばなるまい。
『そもそも私に情報戦で対抗しようと言うのが間違いだがね』
『8割方、私の仕事ですが』
『そういうのは言わぬが華だよ、ウーノ』
『そうでしたか、それは失礼を』
『フッ、解ってくれてお父さんは嬉しいよ、ウーノ』
『ところでウィンドウ上で私が見切れてるので、もう少し端に寄ってください、ドクター』
『ハハハ、これ以上横にスライドするともれなく私の腰がテーブルに食い込むよ?』
『そうですか』
『そうなのだよ、ハハハ。って、ちょっと待ちたまえ、ウーノ。何を普通に押し込んで、って、だから食い込ヒギィ』
 通信ウィンドウの中で漫才やってる2人は放置。
 何故かスカリエッティが口から泡吹いて白目剥いてるが放置。ザマァ。
「こんな宝石などで、私を買収でもするつもりか?」
『ドクターが何故か気絶してしまっているので、私が回答を』
 通信ウィンドウ上で、スカリエッティに似た女――ウーノが頭を下げる。
 ふむ、と頷きを返す。
 戦闘機人という事だが、中々に礼儀正しい。
 出仕はともかくとして、是非とも将来的には地上にも欲しい人材だ。
「で、これの正体は?」
『魔法の杖です』
 コツコツと宝石を叩いていた人差し指を止める。
 そして浮かべる表情は、眉根を寄せた訝しげなものだ。
「……なんだと?」
『ですから、魔法の杖です』
 繰り返し無表情にウーノは告げる。
 その横ではスカリエッティが地面に倒れる音がした。
 が、気にせずウーノは、
『その形状は――言うならば、デバイスの待機状態と言ったところでしょうか』
「これはただのデバイスではないのか?」
『はい。ロストロギアです』
「おい待て。そしてハワードもさりげなく退室しようとするな。見捨てるつもりか」
「ハハハ、そんなまさか」
 コーヒーカップを両手に持った初老の局員――ハワードは笑顔で一礼。
 だが、足は出口に向いたままだ。
『ご安心を。暴走の心配はありません』
「レジアス中将、コーヒーが入りました」
 この初老、実に良い笑顔である。
 うむ、と頷きレジアスも笑みを浮かべる。
 清々しいほど爽やかな笑顔だった。
 ハワードが冷や汗を流し、ウーノが一瞬目を逸らすくらい素晴らしい笑顔だった。
 そんな反応にレジアスは満足しつつ、
「ハワード、お前に後で話がある」
 Oh...とハワードが天を見上げるが、説教は決定である。
 しかし、とレジアスは通信ウィンドウの中で無表情を保つウーノを見る。
「何故、儂にこの様なものを送る?」
『是非ともレジアス中将に使っていただきたいから、との事です』
「儂に?」
 疑わしげな表情を隠さず通信ウィンドウの端で引きずられているスカリエッティを見る。
『ドクターの泡を吹いてる姿も素晴らしいわね……ジュルッ』
『クアットロ、涎出てるよ』
『あら、ごめんなさい、ディエチちゃんうふふふふふふふふふふ』
『ウーノ姉、クアットロが危ない。というか、ドクターが危ない。貞操的に』
『放っておきなさい。きっとその内勝手に妄想で鼻血出して倒れるから』
 それもどうなんだ、戦闘機人。
 画面外に消えていくスカリエッティを余所に、ウーノがコチラへ向き直る。
『さて、話を切ってしまい、失礼しました。そのロストロギアは分析の結果、レジアス中将に相応しいとドクターは判断されたようです』
「どういう事だ……?何故儂が相応しい?」
 そう言いながら、背もたれに身を預け溜息を1つ。
「魔力などない儂にデバイスなど無意味だろうに」
『それだそうです』
「む?」
 通信ウィンドウの中で人差し指を立てたウーノは言葉を続ける。
『そのロストロギアは魔力のない人間が、魔法を行使する為の杖だそうで』
「魔力のない人間が魔法を……?」
 そんな事が本当に出来るのか。
 疑問は自然と表情に出ていた様だ。
『疑念が消えぬのは解りますが、ご安心を。信頼と実績のドクターの解析結果です』
「信頼という言葉が最も当てはまらぬ男の解析結果だろう」
 だが、本当に魔力を持たぬ人間が魔法を行使出来る様になるならば、
……夢の様な話ではないか。
 地上本部における、強力な魔法を行使出来る人員の不足。
 ひょっとすれば、それを解決する糸口になるやもしれないのだ。
「では早速これを技術部に解析させてみるとしよ――」
『いえ、まずはレジアス中将がご使用下さい』
「何?」
 レジアスの目が細められる。
「……言っている事が、良く解らんのだが」
 声に険を持たせつつ、
「儂に"コレ"を使えと?」
 赤の宝石を手に疑問を投げかける。
 ウーノは肯定の頷きを返す。
『Exactly(そのとおりでございます)』
「ふざけているのか?」
 地上本部の頭でもある自分に向かって、得体の知れない物体をいきなり使えとこの女は言う。
 攻撃性ではないとはいえ、洗脳装置の危険性もあるのだ。
 未来を切り開くかもしれない技術、とは言えど、不用意に手を出すなど愚の骨頂と言えよう。
 そんな事を考えていると、ウーノは無表情のまま、
『私の辞書にふざけるという言葉はありません』
「スカリエッティにはあるだろう。奴が何を企んでいるかは知らんが――」
『騎士ゼストに関する情報と引き換えと言ったら?』
「――ッ!?」
 瞬間、レジアスの目が見開かれる。
 思考が止まる。
 待て、目の前の女は、今、何と言った。
「今、何の情報だと、言った?」
『騎士ゼストに関する情報です』
「な……」
 待て、と2度目になる自制で、乗り出しそうになっていた身を抑える。
「落ち着いてください、中将」
 ハワードがコーヒーに砂糖を入れつつ、声をかけてくる。
 だが、落ち着いていられる訳がない。
 何故ならば、
「アイツは……ゼストは貴様らが何年も前に殺した筈だ」
『その筈だったのですが――どうやらかろうじて生きていた様でして』
「……」
 信用ならん。
 だが、もしかしたら、という思いもある。
 事実、"あの事件"の後、ゼストの死体は発見されていないのだ。
 そのレジアスの迷いを見透かす様に、ウーノは手元にあるコンソールを操作した。
『コチラがその証拠です』
「!」
 限界まで見開かれたレジアスの瞳。
 その視線の向かう先には、通信ウィンドウ上に表示された1枚の写真があった。
 そこに映るのは、己が良く知る男と、良く知る女に似た少女。
「ゼスト……」
『更に彼らの居場所などの情報と引き換えに、我々を信頼していただきたく思います』
 ウーノは抑揚のない声でレジアスに言う。
 しかし、レジアスはその様な声など届いていないといった顔で呆然としている。
 だが、室内ではウーノに対して動く人物がまだ、居た。


  〇


 初老の男性――ハワードは呆然とするレジアス余所に、通信ウィンドウを自分に向け、
「随分と無理矢理なやり口ではないかな、戦闘機人」
 細めた目と共に咎めるが如く、言葉を放つ。
 だが、ウーノの表情が動じる事はなかった。
 彼女はハワードに視線を返しながら、
『無理ではないでしょう。その為に、封印・支援魔法特化の貴方に運ばせる様、お願いをしました』
「やはりか。何か胡散臭いとは思っていたが……」
『信頼性を上げる為ですので、ご容赦を』
 随分と好き勝手やってくる、とハワードは苦笑する。
 ハワードは、これでも地上本部内では上位の魔導師である。
 それも、封印や解呪、回復魔法に特化した魔導師だ。
 なるほど、確かにここまでお膳立てがされていれば、ほぼ問題はない。
 自分が、妙な動きをすれば即座に封印する、と言えば危険度は激減するだろう。
 そもそも、目の前の"魔法の杖"とやらの放つ魔力は微弱。
 内に秘めている魔力もないと、ここに運ぶまでに解析の結果として出ている。
 ならば、その気になれば洗脳などの仕掛けがされていても、即座に解呪出来る自信はある。
 久しぶりに地上本部に戻ってきたと思ったら、挨拶ついでに渡された荷物にこんな事情があったとは、
……どこまでコイツらの手は地上本部に入り込んでいるのだろうな。
 再びハワードの目が細められる。
 ウーノは無表情を保つだけ。
 考えが全くと言って良いほど、読めはしない。
 さて、どうしたものか、とハワードは黙考する。
 レジアスが、やるというならやっても良し。
 彼を害する理由は、アチラには"まだ"無い筈だ。
 では、なんの為か。
……道楽だろうな。
 即座に頭に浮かんだのは、あの狂人科学者の笑みだ。
 面白いものを見つけたから、面白くなりそうな人物に投げつけてみる。
 奴が考えているのは十中八九、そんな事だろう。
 危険度は恐らく低い、とハワードは結論を出した。
 数十秒の黙考から意識を浮上させる。
 目の前ではレジアスが片手で頭を抱え、片手で宝石を持ち、見つめている。
 どうするか悩んでいるのだろう。
 ハワードが出した答えは、
……レジアス中将の判断に任せるとしよう。
 彼がかつての友人の情報を得る為、自分を信じて危険を冒すのか。
 それとも己の立場を考慮した上で、相手の提案を蹴り、安全な道を走るのか。
 長年彼の下に部下として居るハワードとしても、興味深いところではあった。


  ○


 硬質な音が響く。
 陶器が割れた音だ。
 音の出所は、床。
 そこには砕け散った茶碗があった。
 それを見て、眼鏡をかけた女性――オーリス・ゲイズは何故か固まっていた。
 胸に到来するのは、どこか嫌な予感。
「……」
 気づけば彼女は、割れた破片もかたさずに走り出していた。
「お父さん……!」
 呟きながら走り去る彼女の後方では、割れた茶碗の破片が揺れていた。
 "レジアス用"と書かれた茶碗が。

 ちなみに茶碗はレジアスの趣味である。


  ○


 己の娘が地上本部の廊下を全力疾走している頃。
 レジアスは神妙な表情でハワードへ視線を向けていた。
「ハワードよ、何かあったら、儂を撃て」
「承知しました」
 対するハワードの回答は即座に来た。
 ならば、何も問題はない。
 再び通信ウィンドウに目を向ければ、ウーノが視線を返してくる。
 彼女は無表情ながらも、満足そうに頷くと、
『決まったようですね。ではそちらの宝石を手に』
「うむ」
 レジアスは部下を信じ、危険な道を行く事を決めた。
 鬼が出るか蛇が出るか。
『セットアップ、とそれだけ言えば"ソレ"は発動します』
 瞬間、宝石が光を放出し始めた。
「「え?」」
 疑問の声と共に光り出した宝石に男2人の視線が向かう。
 うおっ眩しっ。
 その現象に対し、ウーノは冷静だった。
 あぁ成程、と彼女は前置きをし、
『失礼、私が言ってしまいました』
「本当に言うだけなのか!?」
 ハワードが思わず突っ込むがウーノは視線を逸らし、
『失礼、忘れてました』
「いや、コッチを見て言え、光が収まらんぞこれ、どうするんだ」
「放出されてる魔力は少ない故、恐らく危険はありませんが」
「そうか。ならば良いのだが流石に眩しいな、これは」
『案外冷静ですね、問題はありません。もうすぐ変化が起こる筈です』
「む?」
 ウーノの言葉と共に、レジアスの衣服が光に包まれる。
『まずは、バリアジャケットの装備から始まる、とドクターは言っておりました』
「ほう、これも自動か」
 身体に変化はない。
 本当に魔法が使える様になるのか。
 淡い期待だったものが、段々と大きくなる。
 懸念のし過ぎであったか。
 これはあの狂人科学者の、ほんの気まぐれ。
 我らに益をもたらしてやろうというのだろう。
 稀には奴も良い事を――、


 胸に赤いリボン。
 まるでどこかの制服の様な服装。
 膝程まで伸びた純白のスカートが翻り、すね毛がどこからともなくやってきた風に揺れる。
 さりげなく鍛えられた上腕二頭筋は、内側より服を圧迫し、パッツンパッツンだ。
 所々にはフリルがつけられており、悪夢の様な可愛らしさを生み出していた。
 勿論、それらを装着するのは、我らが中将レジアス・ゲイズであった。
 知る人が見たならば、思っただろう。
 管理局の若きエース、あの高町なのはのものと酷似した形状のバリアジャケットだと。
 ただし中身に悪夢降臨。
 慈悲も救いもありゃしない。


「ガハァッ!」
「ハワード!?」
 ハワードが血反吐を吐いて、そのまま後方に倒れた。
 まるで形容しがたい狂気の権化を見たかの如く、表情は恐怖に染め上げられていた。

 何事かと鏡をレジアスは見る。
「トブハァッ!」
 レジアスも血を吐いて身体をふらつかせる。
 だが、まだだ!まだ倒れんよ!
 必死に気合を入れ、震える足を支える。
……やはり、罠だったか!?
 おのれ、まさか視覚的、精神的な攻撃を仕掛けてくるとは思いもしなかった。
 なるほどこれならば籠められた魔力は少なくとも、ダメージは甚大だ。
 謀ったな、スカリエッティ!などと言おうと通信ウィンドウに血走った眼を向ける。
 相変わらずウーノは立ったままの姿勢でコチラを向いていた。
 付け加えるならば、口の端から一筋の血を流して、白目を剥いて気絶していた。
 見事な立ち往生である。
……。
 うん、とレジアスは頷く。
 どうやら罠ではなく、予想外の出来事らしい。
 そっと通信ウィンドウを閉じる。
 再び開く事は、暫くないだろう。

「お父さん!」
 唐突に部屋の扉が開かれ、眼鏡をかけた女性が飛び込んでくる。
 その姿を見て、レジアスは慌て、
「オーリス!?いかん、コチラに来ては――」
「お父さん無事だっ、ゴハアアアアアアア――――――ッ!?」
「オ―――リィイイイイイイイス!?」
 何故かコチラに向かって涙を目尻に溜めた安堵の表情で駆け出そうとし、姿を視認した瞬間に吐血。
 そのまま部屋の床にヘッドスライディングをかまして、動かなくなるオーリス。
 外れた眼鏡は床に叩きつけられた瞬間、というか、コチラをレンズに再度映した瞬間、フレームごと粉々になった。
……。
 誰も動く者がいなくなった空間で、レジアスは混沌を体現した姿で呆然と立ち尽くす。
 もうどうにでもしてくれ。
 ぶっちゃけ、今の心境はそんな感じである。
 もう屋上から飛び降りちゃえばいいんじゃないかなー、とか思考が危ない方向に走り始めるが仕方ない事だろう。
 だが、その時である。
<<エラー!エラー!強制魔法少女変身補助装置『リリカル☆ロッド』使用者に相応しくない個体による起動を確認!>>
「誰が、中年親父だ!?というか勝手にこの様な格好をさせておいて、その言い様は流石に胸に突き刺さるぞ!?」
<<個体の修正を開始!プログラム『Such an adult is corrected(そんな大人修正してやる)』起動!>>
「は?」
 瞬間、光が、
「ぬ、お……っ!」
 レジアスの世界に満ちた。


「ぬわ―――――――――――――――――っっ!!」


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▼あとがき
~そして冒頭へ~
ここまで見てくださった方々には最大限の感謝を。
うん。ついカッとなったんです。カッと。
すいませんしたァ――ッ!(ダッ)



[25750] 第01話 【魔法少女に必須のもの。それは、必殺技なの】
Name: ころん◆5cd4bbd6 ID:4c1f87d3
Date: 2011/02/04 03:13
 最初に見えた景色は、白だった。
 一面の白。
 全てを覆い隠す白。
 世界を白に染め上げているのは、光。
 純白の光だ。
 ただただ、白い光だ。
 何者も寄せつけぬかの様に輝く光だ。

――。

 だが、変化は訪れる。
 金属が、擦れる音。
 それが響いただけだ。
 風景が変わる。
 世界を満たしていた光が砕けた。
 それらは粒子となり、宙を舞う。
 まるで雪の如く。
 光は闇を取り戻しつつある空間を照らす。
 光舞う、幻想的な風景の中央には、少女が居た。
 スラリとした細い肢体。
 長過ぎず、短過ぎずと言った長さを持った茶の髪。
 整った顔立ちの中、鋭さを持つ瞳がまるで何かを憂うかの如く細められ、

――――――ッ!

 瞬間、光の雪が全て弾け飛ぶ。
 残るは純白から黒に染まった衣を纏う少女だけだ。
 彼女は闇の如き色のスカートを翻し、服の各所にあしらわれたフリルを風に躍らせる。
 まるで踊るかのように彼女は佇まいを直すと、
「……」
 ゆっくりと、目を開く。
 蒼に染まった瞳は眼前の存在を見据えていた。
 その色彩の深さはまるで、海の如く。空の如く。
 彼女の手に収まった赤き杖が床を叩く音が響く。

――――。

 鈴と。
 凛と。
 世界が、静かに鳴った。
 それは少女の生誕を祝うかの様な音。
 それは聞く者の魂を震えさせるかの様な音。
 音が鳴り響き終わる。
「……」
 静寂。
 少女の無言と視線に応える者は、誰も居ない。
 居る訳が無い。
 故に彼女は動いた。
 まるで世界の王の如き悠然とした動き。
 しかし、表情は何かを嘆くかの様に。
 憂うかの様に。
 いやぶっちゃけ嘆きまくっているのだが。
「どうして……」
 己の姿を確認すると同時に思わず声が漏れる。
 そのまま膝と手を地面について、少女は涙した。
「どうして、こうなった……」
 小さく水玉が弾ける音が、静かな室内に響く。
 死にかけ2名、精神的重傷者1名。
 応える者など、やっぱり居やしない。


  ○


 第01話 【魔法少女に必須のもの。それは、必殺技なの】


  ○


「……ぬぅ」
 少女――レジアスから唸る声が上がる。
 表情は整った顔立ちを若干歪めた、少々いただけないものだ。
 己の身を上から下まで眺め、スカートを指先で抓んでヒラヒラと揺らす。
 凄まじく落ち着かなかった。
 しかも動き難い事、この上ない。
 ちなみに、死にかけ2名は、来客用のソファーに寝かせておいたので安心である。
 恐怖に歪んだ顔のままの男女を運ぶのは少々心臓に悪いものがあったが。
「この様な事になるとは、このレジアスの目を持ってしても見抜けなんだ……」
 鏡の前から未だに意識を失っている2人へ視線を向ける。
 目を開いたまま気絶するとは器用な事だ。
 まぁ、自分の姿を見て、自分で死にかけた程だ。
 意識を天に飛ばした2人にとっては、質量兵器並の破壊力だったのだろう。
 その事実にホロリと一筋の涙。
 腕で跡を拭うと、レジアスは再度自分の椅子に腰かける。
 数分前よりも、明らかに背が低い。
 自分はもしや今、世にも珍しい体験をしてるのではなかろうか。
……いや、間違いなくしているな。
 己の考えを肯定しつつ、通信ウィンドウの電源を入れ直す。
 さて、と前置きし、秘匿回線にて連絡を入れる。
 連絡先は勿論、この姿になった元凶――スカリエッティだ。
「……」
 1秒待って、それから10秒待つ。
 更に何十秒か待つが、反応はない。
 腕を組み、視線を通信ウィンドウへ向ける。
 そこには可愛らしいフォントで、
『暫くお待ちくださいにゃん☆』
 と表示されていた。
 実に少女向けな待ち受け画面である。
 これはスカリエッティの趣味なのだろうか。
 可愛らしいフォントを笑顔で設定するスカリエッティ。
 表示される毎に和んだ顔をするスカリエッティ。
 ファンシーなぬいぐるみに囲まれたスカリエッティ。
 どこの悪夢だ。
 思わず顔を顰めてしまう。
『私の趣味ではないよ』
「勝手に人の心を読むな。あと今すぐ出頭しろ、貴様」
『ハハハ、唐突だね。その時は君も道連れだというのに』
 唐突に表示された通信ウィンドウの中に居るのは、間違いなく目的の人物だった。
 どうやら自分をレジアス・ゲイズと認識しているらしい。
 にも関わらず、相変わらずの飄々とした態度。
 コイツ、全部解っていたな。
 つまり全て計画通りか。
 こやつめ、ハハハ。
 成程、理解と笑顔で頷きを1つ。
「あまり儂を怒らせない方が良い……!」
 怒りが空間を歪ませ、邪悪な色のオーラがレジアスの周囲を包む。
 現在のレジアスの状態は怒りを通り越して、明鏡止水の領域に至り、更にそれを突っ切って1周している状態である。
 つまり、本気と書いてマジで怒りの感情で満ちていた。
 某管理外世界の言葉で言うならば、マジアングリー。
 だが、その怒気を受けつつもスカリエッティは両手を上げながら、余裕の表情を浮かべる。
 彼はやれやれと大袈裟に頭を振り、
『悪気は無かった。今でも反省していない』
「ふんぬっ!」
 両手で通信ウィンドウを叩き潰す。
 弾ける良い音が鳴った後、すぐに復活した。
『学習能力がないのかね、君は』
「良いから早急にこの状況をなんとかせんか、馬鹿者がっ!」
 声を荒げつつ、通信ウィンドウの中の人物を睨み付ける。
 頭に青筋が浮かんでいるのが、自分でも理解出来た。
 というか、これ程の憤怒の感情に襲われたのも久しぶりなのだ。
 浮かんでいなければ、身体的におかしい部分があるとしか思えぬ。
 そんな怒りを全面に出したレジアスを前に、スカリエッティは表情を正す。
「漸くまともに話すつもりになったか……?」
『フッ、そこまでレディに言われて解らぬ無粋な者でもないよ、私は?』
 "レディ"という単語に頭の血管がプッツンするのが知覚出来た。
 が、あくまでレジアスは冷静に椅子の背に身をゆったりと預け、余裕を見せる。
 交渉というのはペースを握られたら、負けだ。
 故に自分には手があるぞ、と態度で示す。
『ふむ』
 その態度にスカリエッティも感心した様に声を漏らす。
 レジアスは彼の反応に満足しつつ、
「約束は果たした。早急に、今すぐに元の姿に戻せ。それとゼストの情報も寄越して貰おう」
 それが儂の要求だ、と言葉を締めくくり、通信ウィンドウを睨む。
『了解したよ。騎士ゼストの情報はすぐに送っておこう』
 レジアスの言葉に対し、相変わらず軽い調子で頷きを返す。
 その返答に、レジアスは胸に何か染みる様な感覚を感じた。
 それは死んだと思っていた友にもう1度会える喜びか。
 はたまた、ゼスト達への償いのチャンスを得る事が出来た喜びか。
 自分自身でさえ、それは解らない。
 だが、もう1度、会えるのだ。
 もう1度会って、全てを話そう。
 今度こそ、後悔しない為に。
 そう胸の中で決意し、レジアスは頷いた。
『あぁ、あと姿を戻す件だが、簡単だよ』
 ふむ、とレジアスは頷く。
 ゼスト達に会うにしても何にしても姿を直さねば始まらない。
 いきなり今の姿でレジアスが会いに行っても、

『誰だ貴様は……!?』
『わ、儂だ、レジアスだ、ゼスト!解るだろう!?』
『解る訳があるか……ッ!俺の知っているレジアスがこんな可愛い筈がない―――ッッッ!』

 何故か妙な発言が混在したが、気にしないでおこう。
 大体その様な事になるのは、火を見るより明らかだ。
 故にレジアスはスカリエッティの次の言葉を待ち、
『うん、それは無理☆』
 笑顔の言葉に対して、盛大にデスクを蹴り飛ばしながら大転倒した。
 下着の色は白かった。


  ○


 蹴り飛ばされたデスクが宙を舞う。
 そのまま来客用のソファーへと放射線を描いて落下。
「アワビッ!?」
 ハワードの腹筋にデスクの全身全霊をかけた体当たり。
 ヘヘッ、良い拳じゃねぇか……。
 アンタこそ、良い腹筋だぜ……。
 そんなハワードとデスクの一瞬の熱き賞賛の応酬。
 心の背景は夕暮れの河原。
 有機物と無機物の心が触れ合った瞬間であった。
 故に笑顔でハワードはデスクを丁寧にどかし、置き直す。
 布を取り出し、好敵手についてしまった汚れを拭く。
 これは心を通じ合わせた者に対する彼なりの敬意。
 やがて、デスク上に付いた汚れが全て除かれる。
 そして彼は、ふぅ、と一息。
 流れる様にソファーに腰を下ろす。
 項垂れ、
「燃え尽きたぜ……真っ白によ……」
 真っ白に染まりつつ、再び気絶を続行。
 この間、僅か十数秒の出来事であった。


  ○


 鍛え上げた我が身体よ、さらば。
 人々の記憶の中で永久に生き続けてくれ。
 ただし魔法少女コスチュームバージョンは除く。
 脳裏に浮かぶのは、サイドチェストのポージングを決める魔法少女の姿をした、かつての己。
 表情は、世界に輝く極上のスマイル一択。
 正しく悪夢だった。
「ガハァッ!?」
『何を遠い目をしていたと思ったら唐突に吐血しているのかね。馬鹿なのかね?死ぬのかね?』
「や……やかましい……それより、無理とはどういう事だ、貴様……!」
 ぜぇぜぇと息を荒げながら口元を拭い、なんとか立ち直る。
 その際に何故かハワードが白くなっているのを見かけたがスルー。
 放置しておけば勝手に復活するだろう。
 と、再び通信ウィンドウに視線を向ける。
 視線の先には、相変わらずの笑みを浮かべたスカリエッティ。
 彼は白衣の裾を揺らしながら、
『そのロストロギアには面白い性質があってね』
「……面白い性質?」
 レジアスの細い眉がピクリと跳ね上がる。
『そう。そのロストロギアは魔力――リンカーコアの無い人間にも魔法を行使出来る様にする為の物、というのは聞いたね?』
「あぁ……あの戦闘機人もそう言っていたな」
『戦闘機人ではなく、ウーノだよ、中将』
「……ウーノが言っていたな」
『いきなり呼び捨てとは、まさか好みだったのかね……!』
「違うわッ!?」
『冗談だ。で、話の続きだが……リンカーコアが無い人間にどうやって魔法を行使させるか、という点だが』
 通信ウィンドウの中、スカリエッティは人差し指を立てる。
 どこかウーノと似通った動作だった。
『そもそも魔法とは魔力ありきのもの。それを姿を変える事により、行使出来る様にする……つまり――』
 レジアスはそこまで聞いて、理解する。
「魔力を生み出せる体に無理矢理改造する、という事か」
『解答だけ取るとは、鬼畜の所業だね……!?』
 さめざめと嘘泣きを敢行する狂人科学者は無視。
 つまり現在、己の体には人工的なリンカーコアが埋め込まれている訳だ。
 成程、先程からの妙な感覚が魔力というものか。
 気のせいかもしれないが、力が、漲る。
……姿はともかくとして。
 これは、素晴らしい技術なのではないだろうか。
 人工魔道師や戦闘機人の様に倫理に反する事もない。
 夢の様な技術。
 今のレジアスは、まさにその体現であった。
 姿はともかくとして。
「姿を元のままで改造する事は出来んのか」
『出来るよ』
「なん……だと……」
 じゃあ、現在進行形で少女している自分の姿はなんなのだ。
『少しばかり、変身機構に細工をしてね。私が最近目をつけている子を元にしたのだが』
「だから心を読むなと……む?元にした?」
 ドヤ顔で胸を張る男へ、訝しげな表情のまま意識と視線を向け直す。
 彼はそんなレジアスの視線に対し、フフンと鼻を鳴らし、
『中将殿の魔法少女姿が視覚的に凶悪過ぎる破壊力を持つ事は想像に難くなかった故、仕掛けておいたのだが……』
 笑顔でサムズアップ。
『正解だったようだね!』
「ふんっ!!!」
 通信ウィンドウを地面に叩きつける。
 ゆっくりと目の前に戻ってきた。
『急に何をするのかね。ほら、興奮していないで、良い事をした私をもっと褒め称えると良いよ?』
「するかぁっ!!!!」
 通信ウィンドウを地面に叩きつける。
 別ウィンドウが即座に目の前に開いた。
『まさか、これがツンデレという属性かね……実物を見るのは初めてだな……』
「感慨深そうな顔をしているところ悪いが、率直に言うぞ――戻せ」
『ハハハ、I☆YA☆DA☆NE』
 通信ウィンドウを拳でぶち抜いた。
 無論、相手には何の影響もない。
『暴力的になったね……これが若さか』
「やかましいぞ、若造」
『今は君の方が若いがね、美少女レジアス君?』
「誰が原因だと思っている……」
『恐らく君の魔法少女姿が見るに耐えなかったせいだね……』
「貴様ァ――――――ッ!!!」
 絶叫が響くが、叫びの行く先は素知らぬ顔で、
『さて、一通りやりたい事はやったし、そろそろ通信を切っても良いかね』
「少し待て。今、最高評議会に直接抗議する」
『あぁ、あのご老体方なら、今電気を使った脳マッサージ中だよ?』
 通信ウィンドウの中、更に小画面が開き、
『おぉ、これは効くな……』
『脳髄に染み渡りますなぁ……』
『極楽極楽……』
 画面内では、3つの脳がプルプルと小刻みに震えていた。
 そう、まるでスプーンで突いたプリンの如く。
 そりゃあもうプルンプルンと。
 気持ち悪さを通り越して、シュールな光景であった。
……既に根回しは済んでいたという事か……!
 というか、
「何をやっているのだ、最高評議会……」
 思わず頭を抱えるが、スカリエッティの勝ち誇った顔に変化はない。
 このままでは負けっぱなしで試合終了だ。
 何か逆転の手はないのか。
 そう長年の経験により鍛え上げた脳をフル回転させる。
 数秒の黙考。
 が、打開策を打ち出す事が出来ない。
 相手にペースを握られ過ぎているのだ。
 このままではどうやっても相手の思い通りにしかならない。
 だが、この問題は早急に片付けねばならないものだ。
 もしも、この姿のままで部下が訪れたとしよう。


  ○


 脳内に浮かぶのは、デスクに腰を下ろした己の姿。
 静かな室内に扉が空く音が響く。
『レジアス中将、お預かりしていた案件について、ご報告したい事が――!?誰だね、君は!?』
『儂は……レジアスだ』
『君の様なレジアス中将がいるか!?冗談は……ハッ!?オーリス三佐!?』
 年若い局員の視線が向かうのは、吐血の跡が残る気絶した愛娘。
『君、いや、貴様がやったのか……!許せん!者ども出合えー!出合えー!』
『『『『『ウオオオオオオオオオオオオオ!』』』』』
 どこから沸き出て来たのか、室内に飛び込んでくる大量の局員。
 瞬く間に、男臭さ99%の空間の出来上がりである。
 残り1%は勿論、己の愛娘だ。
『突撃ィイイイイイイイイイイイイイ――ッ!!!!』
『ま、待て!ちょっと待――ぷぎゅっ!』
 レジアスはそのまま潰されて確保されて牢獄に叩き込まれて、一生を終えた。


  ○


 頭を抱えたまま、ガタガタと身を震わせる。
 いかん、このままではいかん。
 どうにかせねば、己の寿命が勘違いでマッハだ。
『まぁ、冗談はさておき』
「む?」
 抱えていた頭を開放して、通信ウィンドウに再度視線を向ける。
 画面内でスカリエッティが、やれやれと嘆息。
 嘆息したいのはコチラの方なのだが。
『中将殿も大分参っている様子……だが』
 安心してくれたまえ、と前置きした上で、
『こんな事もあろうかと、もう1つ、それにはプログラムを仕込んでおいたのだよ』
 彼は前のめりになりつつ、人差し指をウィンドウに押し当てる。
「その、"こんな事"を仕込んだのは、貴様の筈だが」
『私は姿を指定しただけだ。強制変身機構自体は元からだよ。元から』
 ハハハと彼は笑うだけ。
 ハハハ、殴りてぇ。
 だが、今は自制。
 機嫌を伺うのは気に食わないが、頼みの綱は目の前の男だけなのだ。
 故にレジアスは表情を硬くしつつも、問う。
「で、なんだ。そのプログラムとは」
 あぁ、とスカリエッティは頷きを1つ。
『簡単に言うと、使い魔生成システムだよ。それも素体要らずのね』
 ほう、とレジアスが思わず感嘆の声を上げる。
 自分は魔法にはそこまで詳しくはない。
 だが、"素体無し"の使い魔生成プログラム――その凄さは理解出来る。
 ある意味、それは何も無い空間から新たな命を生み出すという事なのだから。
『元の姿に戻る方法については……調査しておくとして』
 手をヒラヒラと振りつつ、まぁ、暇があればね、と彼は付け足す。
『暫くは使い魔を、中将殿の身代わりにしてくれたまえ』
 成程、とレジアスは頷く。
「つまり、儂の姿をした使い魔を作れと?」
『ご明察』
 彼はレジアスの持つ赤く染まった杖を指差し、
『その杖を構えながら、プログラムを起動。後は使い魔の姿をイメージするだけだ。簡単だね?』
「本当に、手軽過ぎる程だな……」
『フフフ、もっと褒めてくれて構わないのだよ?』
 さぁ!と言う変態狂人科学者はスルー。
「プログラムの起動方法は?」
『【リリカルトカレフキルゼムオール☆きゅるるんハートが爆発寸前☆】と唱えたまえ』
「リリカルトカレフキルゼムオール☆きゅるるハートが爆発寸前☆」
『うわぁ、本当に"☆"まで付けて言ったよ、この中将……』
 通信ウィンドウを魔力を乗せた拳で消し飛ばした。
 即座に次の通信ウィンドウが開く。
『冗談だ』
「ぶち殺すぞ、ドクター……!」
 既に頭に浮かぶ青筋は限界突破寸前。
 あと少しで頭から血を吹き出す自信がある。
『もう少しカルシウムを取るべきだね、君は……って、待ちたまえ。その拳を下ろしたまえ。話が進まないだろう?』
 誰のせいだ、と思うが、確かにこのままでは話が進まないので我慢。
 鼻から息を漏らしつつ、疲れ切った表情のまま、椅子の背に身を預ける。
「で?どうすれば良いのだ?」
『使い魔作成プログラム起動』
<<プログラム『Toro and the same(使い魔と一緒)』起動します>>
「……」
 赤い杖の先端に取り付けられた赤の宝石が点滅する。
『さぁ、イメージしたまえ。おや、どうしたのかね、そんな妙な顔をして?』
 画面内でスカリエッティが首を傾げる。
 胸に去来しているのは、なんだか凄まじくやるせない気持ち。
 だが、今はそんなものを気にしている場合ではない。
 首を傾げたままのスカリエッティになんでもない、と返し、
「――――」
 意識を使い魔のイメージに向ける。
 脳裏に浮かべるのは、毎朝確認する己の顔。
 そして、鍛え上げられた肉体。
 更に、本日見た悪夢。
……いや、これは違う。
 訂正しようと、管理局の制服を思い浮かべようと――、
<<イメージ認証完了。構成を開始します>>
「あ」
 瞬間、赤の光が世界を再び満たした。


  ○


 通信室の中、スカリエッティは赤に染め上げられた通信ウィンドウへ視線を向けていた。
「どうやら使い魔作成プログラムも正常に動作しているようだね……」
 実験は大成功、といったところか。
 勿論、ロストロギアの力に頼ったものなので多用、量産は出来ないだろうが、
……だが、技術的に得たものは多いな。
 強制的に対象の体を変化させ、人工的なリンカーコアを埋め込む技術。
 素体無しの使い魔生成プログラム。
 どちらも並の研究では辿り着けぬ領域だ。
……これでまた、私の野望に1歩近づいた、という訳だ……。
 ククッと思わず喉を鳴らす。
……それまで中将殿には悪いが、実験台となっていただくとしよう。
 何、見返りはするとも。
 無論、"己の欲が満ちる様に"だが。
「さて、そろそろか」
 今回の成果を簡単にデータに纏め終わる。
 既に赤の光は徐々に収まりつつあった。
 使い魔の生成が完了したのだろう。
 色が薄まり、それは姿を現す。

 ――否、現してしまった。

 翻る黒の表面に赤の裏地を持つマント。
 まるで競泳用の水着の如く、肌にフィットしたインナー。
 下には勿論何も履いてなどいない。
 スパッツっぽいインナーがガッチリと男の勲章に食い込んでいた。
 スカリエッティは知っている。
 プロジェクトFの遺産が"コレ"と同じ姿を過去にしていた事を、知っている。
 だが、今彼の目に映るのは――、

 正に益荒男の姿である。

 艶めかしく足がポーズをとるとすね毛が揺れる。
 その衣装を纏う男は間違いなく、地上の守護者レジアス・ゲイズ。

 正に狂気の権化である。

 鍛え上げられた腹筋がインナーにメリハリを付ける姿が眩しかった。
 手袋や靴など、余りの張り詰め具合に今にも弾けそうだ。
「……」
 そして彼は動いた。
 ゆったりとした動きで大胸筋を2度痙攣させながら、両手を腹部の前で組む。
 そのまま腰を捻る様にして立ち、更に艶っぽく足に角度をつける。
 実にセクシーダンディズム全開。
 見事なサイドチェストである。
 極めつけに彼は世界を狂気の最前線へご招待する程の極上の笑みを浮かべ、

『はじめましてぇん!ご主人様ぁん!』
『「グボァアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――――――――――――――ッッッ!!!」』

 いけなかった。
 何もかもがいけなかった。
 先程のレジアスの姿を見ていないスカリエッティはまだ幸せだったと言えるのだろうか。
 魔法少女レジアスにとっては、本日2度目の撃滅のセカンドブリット。
 スカリエッティにとっては、抹殺のラストブリット。
 まさに必殺であった。
 Q:救いはないんですか!?
 A:あるわきゃねーだろ。
 通信ウィンドウを隔てて、飛び散り合う鮮血。
 盛大に吐血した魔法少女レジアスとスカリエッティ。
 見事に息の合った瞬間であった。
 響くのは2人の人間が倒れ伏す音。
 残るのは通信ウィンドウの中、サイドチェストを決めた益荒男が1人。
 動きと言えば、スカリエッティの後ろで、ウーノがビクンと痙攣しただけ。
 まともな精神を持つ者が居なくなった空間。
 その中に、ただただ、筋肉ダルマの極上の笑顔が、黒き太陽の様に煌めいていた。
 

/*-----------------------------------------------------------------------------------------------------------

相手は死ぬ。
必殺技暴発。

魔法少女レジアスさんのイメージは星光の殲滅者さんで1つ。

前回は、多くの感想ありがとう御座いました!
続いてしまいました。
成るべく突っ走って行きたいと思います。
(変態的な)速さが足りない……!

だが、本当の地獄はこれからだ……!



[25750] 第02話 【とりあえず筋肉だけ鍛えておけば、何とかなるって神様が言ってたなの】
Name: ころん◆5cd4bbd6 ID:4c1f87d3
Date: 2011/02/12 20:50
 青が視界を埋め尽くす。
 それは、空の色だ。
 視線の先には広大な青色のキャンパスが広がっていた。
 どうして視線の先に空があるのか。
 答えは単純。
 自分が今、仰向けの状態で倒れているからだ。
 息は荒く、体中に感じるのは肌を伝う汗の感触。
……あぁ、意識を失っていたのか。
 そういえば訓練の途中だったな、と息を整える。
 だいぶ楽にはなったが、速度を増した鼓動は治まらない。
「なぁ、レジアス……お前が管理局に入った理由ってなんなんだ?」
 不意に、隣から声が聞こえた。
 視線だけを動かして見れば、そこには同じ様な体勢の男が1人。
「ん……どうしたんだ、ゼスト。いきなりそんな事聞くなんて」
 レジアスは息を大きく吐き、身を起こす。
 そして、改めて視線を向ければ短髪の男――ゼストが苦笑の表情を返してくる。
「いや、何。お前は、ただガムシャラに上を目指してるみたいだからな。気になった」
 成程、とレジアスは更に苦笑を返す。
 自分の必死さはどうやら隣の親友には悟られていたらしい。
 そんなに解りやすかっただろうか。
 まぁ、事実必死なのだから仕方ない。
「俺は、お前みたいに魔力がある訳でもない……」
 言葉にゼストが若干表情を硬くする。
 その変化にレジアスは、
「嫌味じゃないし、自嘲でもないぞ」
 と牽制を放つ。
「む」
 ゼストの放とうとした言葉が喉元辺りで詰まるのが解ったが、レジアスは気にしない。
 やや空を見上げた姿勢のまま、目の前で右手の五指を広げ、ゆっくりと握り込む。
 指の隙間から見えていた太陽を握った様な格好で、レジアスは頷き、
「自分の手で地上を守る為にも、上を目指さないとならないだろ?」
「ふむ、お前らしいな」
 自分の手で地上を守ってやる!などとは傲慢だろうか。
 だが、それはレジアスの小さい頃からの夢であった。
 自分が生まれ育った世界を自分の手で守りたい。
 英雄願望みたいなものだが、それは確かにレジアスの軸だ。
 こればっかりは曲げられない。
 だから守れる立場を目指す。
 至極簡単な事だ。
「で、人に聞いておいて、お前はどうなんだ、ゼスト?」
 太陽を握った手を見たまま、親友に問い返す。
 すると、そうだな、と前置きして、ゼストが身を起こすのが気配で解った。
 彼は身を起こし終わり、一息吐くと、
「俺はそうだな……そんなお前の夢を手伝えるくらい強い――」
 そこで一旦、戸惑った様に言葉を区切る。
 どうせ律儀な親友の事だ。
 魔導師か、管理局員か、言葉を選ぶのに迷ったのであろう。
 細かい事だが、真面目過ぎる彼にとっては重要な事。
 昔からの付き合いで、それは解りきった事であった。
……俺は、幸せ者だな。
 こんなにも真剣に夢に付き合ってくれる友を持つ者が幸せでない訳がない。
 本当に、良き出会いを神は与えてくれたものだ。
 思わず笑みを浮かべてしまう。
 そんな事を考えていると、
「よし」
 とゼストが頷いた。
 そのまま彼は再び口を開き、
「レジアス、決めたぞ」
 視線の先から拳をどけ、太陽の光を直に浴びる。
 余りの眩しさに目を細めながら、親友の言葉の続きを待つ。
「俺は強くなる。そう。お前の夢を助ける事が出来るくらい強い――」
 布が弾ける音が響く。


「ボディビルダーになる」
「えっ」


 振り向く。
 そこには筋肉ダルマが居た。
 それはゼストだった。
 確かにゼストだった。
 いや既にゼストだったものかもしれない。
 とりあえずゼストだったんだろう。
 多分、恐らく、きっと。
 先程の音と共に引き千切れたであろう訓練用の服が宙を舞う。
 その布の爆心地に居るのは、そりゃあもう"ごんぶと"な両腕を掲げる筋肉であった。
 黒光りする肌が美し過ぎて気持ち悪い。
 顔を見れば、確かに造形はゼストである。
 ただし彼が浮かべる筈もない天上から地獄まで垂直落下の最高の笑顔であったが。
 うん、とレジアスとゼストは見つめ合いながら同時に頷く。


「だから、これから毎日筋トレしようぜ!?」
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


  ○


 第02話 【とりあえず筋肉だけ鍛えておけば、何とかなるって神様が言ってたなの】


  ○


「ああああああああ!!!!――ハッ!?」
 意識が急速に浮上する感覚。
 一気に身を起こした為か、ある種の気持ち悪さまで感じる。
……夢、か。
 夢で良かった。
 本当に良かった。
 悪夢よさらば、こんにちわ現実。
 現実がこんなにも愛おしく感じたのは久々だ。
 この幸せを誰かに分けてやりたいところだ。
 ほう、と息を吐く。
……だが、身体はそのままか……。
 息を吐くと同時に動いた身体を伝う感覚で意識が覚醒したのか、要らぬ現実まで理解出来てしまった。
 視線は記憶にあるものよりも低く、吐息と共に聞こえた声も嘗ての自分の物とは似ても似つかない。
 あぁ、やはりそこは現実なのだな、と諦観の入った感情が胸に染み渡る。
「……現実はそう甘くない、か」
 昔の夢を見た。
 定めた目標に向かってただ走っていた、若い頃の夢を。
 一部は悪夢と化していたが、あの頃の自分は本当に若かったものだと思う。
 現実をしっかりと見ていなかったというべきか。
 ただ甘い幻想を抱き、それに目指し続けた。
 その結果がこれだ。
……ままならぬものだな。
 目覚めたばかりだというのに、溜息が出てしまう。
 身体は若返っても、この癖はもう治る気がしない。
 だが、その原因の1つが、もうすぐ消えるかもしれない。
……ゼストが生きていた、か。
 衝撃的だが、何故か胸にストンと落ちてきた知らせ。
 どこかで期待し続けていたのだろう。
 あのゼストが、そう簡単に死ぬ訳が無い、と。
 甘いと叱咤しても、結局自分の根幹は変わっていなかったという事か。
「全く……まるで成長していないな、儂は」
「そんな事ないわよん、ご主人さブルァッ!?」
 なんかマッチョが見えた気がする。
 気のせいだろう。
「お、教えられてもいないのに、いきなり魔力弾撃ってくるとか凄いって、ちょっ、3連だポゲラルゴォッ!?」
 錐もみ回転する筋肉の塊の様な危険物が見えた気がする。
 気のせいだろう。
「げ、げふっ……ご、ご主人様ったら、素敵に過激ね!?いいわん!その愛全て受け止め――」
「儂の姿でクネクネするなぁ――――――――――――――――――――――――っ!」
「あ、愛が痛いゲバラルゴッ!?」
 小さな爆発音の連続が、室内に響いた。


  ○


「ねぇ。さっきからなんかレジアス中将の部屋が騒がしくない?」
「え?俺、何にも聞こえなかったけど」
「そうかなぁ……まぁ、さっき警備員が見回りに行ったらしいし、大丈夫かな……」
「気にしすぎじゃないか?仮に侵入者が居たとしても、レジアス中将、かなりの武闘派らしいし」
「相手が魔導師だったりしたら一溜りもないでしょ……」
「まぁ、そうだけどなぁ……幾ら身体鍛えても、魔法相手じゃなぁ」
「魔力があればなぁ……」
「だよなぁ……魔力、欲しいなぁ」
「言わないでよ……あぁ、でも、せめてCは欲しかったなぁ……」
「胸が?」
「叩くわよ」
 隊員AとBの呟きが虚しく地上本部の廊下に響く。
 その頃レジアスの部屋で起こっている騒ぎなど、彼らは知る由も無かった。


  ○


 なんか勝手に出た魔法が自分の分身の如き姿をした使い魔に突き刺さった数秒後、
「鍛え抜かれた肉体は……数多の魔法すら防ぎ切るッッッ!!!」
 そこにはなんと服だけが破けた使い魔の姿があった。
 所々が焼け焦げてはいるが、ほぼ無傷である。
 損傷は服のみ。
 それも局所はしっかりと隠した謙虚なセクシーさ。
 玄人好みの格好をした使い魔は瞳から謎の怪光線を出しながら、白い煙を口から吐き出す。
 爆発を飲み込んだと言わんが如き、その煙の量に、
「化け物か、コイツ……」
 否、化け物なのだろうとレジアスは意識を改めていた。
 勿論、浮かべる表情はうんざりさ100%のものである。
 が、化け物認定された方はそんな事など気にせず、腰を捻る。
 洗練されたその動作はまるで娼婦の如きいやらしさ。
 姿補正で、地獄の底から這い上がって来た悪鬼の如き恐ろしさ。
 精神的ダメージは更に加速する一方である。
 SAN値の減少速度も加速する一方である。
 だが、既にそれを3度見たレジアスは剛の者。
 その程度の攻撃では口の端から血を流す程度のダメージしか喰らわぬ。
 被害は最少。
 大丈夫、まだ戦える。
 既に何度も地獄を超えて来たのだ。
 よし、とレジアスは心の中で頷く。
 もう何も怖くない。
 覚悟完了。
 当方に撃沈の用意有り。
「んんぅ?ご主人様、大丈夫ぅん?虚ろな目で遠くなんて見ちゃってるけどぉん」
「お前のせいだ、馬鹿者……というか、その口調は止めんか……」
 悪夢が話しかけてきたので、仕方なしに現実に戻ってくる。
 目の前には腰を左右に動かす、嘗ての自分の姿。
 ただし、その姿はほぼ全裸。
 これを悪夢と言わずして何を悪夢とするか。
 戦いたくない現実が、そこには確固として存在していた。
「仕方ないわねぇん……それじゃあ、ご主人様の記憶にあった通り……」
 筋肉使い魔がコホンと口元に手を当てて咳をする。
 彼は姿勢を正し、胸を張る。
 顔に浮かぶは、引き締まった無表情。
 腕組みをしたその姿は、どことなく威厳を漂わすものであった。
 ほぼ全裸でなければ。
「まぁ、それは置いておいて……やれば出来るではないか」
 その出来は、ほぅ、と思わず感嘆の声が漏れてしまう程だ。
「フッ……これで良いのだろう?」
 使い魔が浮かべるのは、口の端だけ吊り上げた笑み。
 どうだ、と言わんばかりの表情だ。
 まるで挑発されているかの様な気分になるが、
……ふむ。確かに"儂"だな。
 態度や口調などはまさに"自分"だ。
 その姿にレジアスは満足そうに頷きを1つ。
「及第点だな」
「あらぁん、ご主人様ったら手厳しいわねん♪」
「口調を乱すな」
「はぁいん――承知した」
「……それでいい。そうでなくては、儂の身代わりは務まらん」
「フン。レジアス・ゲイズとあろうものが、随分と人任せなのだな?」
「必要ならば、誰であろうと使うのが儂の流儀でな」
 "自分"を模した嫌味を言ってくる使い魔に対して、手を振りながら笑みを返す。
 口調と態度さえ正せば、十分。
 見る限りでは、使い魔は確かに"自分"を正確に演じていた。
 ついでに先程から襲って来ていた激しい頭痛と嘔吐感は去ったとか何とか。
 恐るべきオカマ口調+仕草のパワーである。
 もう2度やらせてたまるものか。
 というか、やったら今度こそ局所的終末が降臨する前に消し飛ばしてくれる。
 などと、レジアスは使い魔に対して心の中で固く決意するのであった。
「しかし、貴様。先程"記憶"がなんとかと言っていたが……もしや儂の記憶が読めるのか?」
「ご主人とて、儂の思考が読めるだろう?それと似た様なものだ」
「貴様の思考が……?」
「意識を集中して、儂とご主人の間にあるパスを探れ。すぐに解る筈だ」
 全裸の使い魔に促されると、レジアスは目を閉じる。
……む。
 言われた通り、意識を集中しようとするまでもなく、何か見えた。
……桃色の、糸……。
 何故桃色。
 何故クネクネしているのか。
……いや、考えるのは止めておこう。
 下手に頭を回すと、またSAN値が激減しそうだ。
 気を紛らわせる為にも糸に触れる。
……む。
 瞬間、レジアスの眉が寄せられる。
『どうだ。儂の見ているものが、ご主人にも見えるだろう?』
 暗闇の中、使い魔の声が響く。
……これが念話というものか。
 初歩的な魔法。
 だが、魔力を持つ者、持たざる者を隔てる壁を抜けた感動が胸を震わす。
 自分は今魔法を使う事が出来ているのだ。
 こんなに嬉しい事はない。
 姿以外は。
 そこまでで思考を止め、目を開ける。
「なるほど……あのパスとやらに触れると貴様の思考が読み取れる訳だ」
 一瞬触れたら"マッソウな何か"が脳裏を過ぎったのですぐに手放したが。
 大体の仕組みは解った。
 出来るだけ、触れたくは無いものだというのも解った。
「が、それだと貴様へ儂の情報が洩れ放題ではないか。なんとか出来んのか」
 眉根を寄せながら腕を組み、問う。
 何せ、自分が作った使い魔とはいえ、基礎部はあの狂人科学者製だ。
 スパイという可能性も捨て切れた訳ではない。
「フッ、安心しろ。儂はそんな存在では……といっても信じられぬのは当然か」
 ふむ、と使い魔はまるで自分が熟考する時の様に目を閉じながら、腕を組む。
 まるで自分で自分自身を見ている様な錯覚すら感じる。
 随分と上手いモノマネだ。
 それから数分程、使い魔は微動だにしなかった。
 仕方ないので、レジアスは暇潰しに今の身体に慣れようとアッチコッチを動き回る。
 未だ気絶しているオーリスの様子を見たり、燃え尽きてるハワードを再度寝かせたり。
 腕立て、スクワットを終えた後、椅子に座ってそのままグルグルーっと回ってみる。
 うむ、なかなかに楽しい――、
……ハッ。
 硬直。
 数秒が経過。
 硬い動きで椅子から降り、額を拭う。
 一体何をやっているのだ、自分は。
 何やら魔力を手に入れたせいか、知らないうちにテンションがハイになり過ぎている様だ。
 自重せねば。
「よし」
 声に振り向けば目を開けた使い魔の姿。
 どうやら今までの痴態は見られていない様だ。
 ならばよし。
「ならばこうしよう」
「ふむ?」
 どうやら使い魔は信頼を得る為の代価を定めたらしい。
「儂の鍛えられし鋼鉄の裸体を年中見放題というのは――」
「おい、杖。砲撃魔法を展開しろ」
<<サーイエッサー>>
 そのやりとりに思わず使い魔も苦笑いでマッスルポーズ。
「いやん!ご主人様!冗談よ!JO・U・DA・N☆」
 軽出力でファイヤー。
 ジュッと良い音がして馬鹿が焼けた。
 勿論部屋を傷つけぬ様、超至近距離用。
 なので焼けたのは近くにいた筋肉馬鹿だけである。
「初めての意識した魔法行使にしては、上手くいったな」
<<流石魔法少女です。お見事>>
「魔法少女言うな。さて、どうするか」
 視線を向けるのは、倒れ伏した格好の黒焦げのまま口から煙を吐く使い魔。
 杖で突いてみるとビクンビクンと痙攣した。
 どうやら生きているらしい。
「チッ、しぶとい奴め……」
<<マスター。その発言は少々過激だと思われます、魔法少女的に>>
 魔法少女ではないし良いか、と勝手に無視。
 そのまま焦げた馬鹿に背を向ける。
<<トドメは刺さないのですか?>>
「大事な身代わりだ。今死んで貰っては困る」
<<ここまでやっておいて今更何を……>>
「やかましい。折るぞ」
<<私ハ マスターノ 従順ナ僕デ アリマス>>
 チカチカと赤い光が応える。
……ん?
 再度杖を見る。
 赤い宝石部分が点滅する。
「……喋れたのか」
<<Exactly(そのとおりでございます)>>
「……」
<<あ、すいません。今さっき起動して喋れる様になっ――って、調子乗りましたすいません。やめてやめて折れる折れる>>
 両手で杖を水平に構えそのまま曲げていると杖からギブアップ宣言。
 だが、レジアスは"君が泣くまで曲げるのを止めない作戦"を決行。
 このレジアス容赦せんッ!
 杖から悲鳴が上がった辺りで一旦停止。
 気分はだいぶ晴れた。
 杖を下ろし、溜息を1つ。
……オーリスの看病でもしておくか。
 ハワードは放っておいても勝手に起き上がるだろう。
 彼は地上本部内でも屈指の強者だ。
 あの程度の精神攻撃には屈しないと信じている。
 信じたい。
 多分大丈夫だ。
 なんか近くでデスクが輝いているが、問題はない筈だ。
 何か嫌な予感がするが、大丈夫だ、問題ない。
<<アレ、さっきマスターが蹴飛ばしたデスクですよ>>
「知らん」
<<え、でも>>
「知らん」
<<マス――>>
「折るぞ」
<<サァ、健康状態ノチェックナラ、任セテ下サイ>>
 従順で助かる。
 というわけで、小さくなった歩幅でオーリスへと近づく。
 先程目を閉じさせたおかげか、最初の様な恐怖顔ではなくなっている。
 静かに寝息を立てる姿は、記憶にある幼い頃のオーリスを彷彿とさせた。
……幾つになっても、やはり儂にとっては子どもか……。
 確かに頼れる副官というポジションには居るが、結局その辺りは変わらないものだ。
 思わず表情が緩んでしまうのも仕方ないだろう。
 それから程なくして、
「うぅん……」
 オーリスから声が上がる。
 どうやら目覚めようとしている様だ。
 さて、どう現状を伝えたものか。
「……う、ん……?こ、ここは……?」
「起きたか、オーリス」
「……貴女は……?」
 寝ぼけ眼で彼女は首を傾げる。
 まだ寝たままの姿勢の為、傾げる首に引き摺られて髪が乱れていた。
 あぁ。いかん、髪が傷んでしまうぞ、娘よ。
 などと妙な心配に駆られながらも、レジアスは腕を組み、目を閉じる。
 むん、と唸り、黙考するのは一瞬だ。
 そして、目を擦りながら身を起こすオーリスと向き合い、ただ一言。
「儂は、"レジアス"だ」
「冗談にしては笑えないわよ?」
 一刀両断である。
 流石我が娘である。迷いが無い。
 彼女は額に手を当てると首を左右に振り、
「うぅ、頭が痛い……まぁ、なに?それで貴女がレジアス中将?レジアス中将なら、そこに……」
 オーリスが、デスクの方に視線を向ける。
 彼女の動きが止まる。
 レジアスも釣られて向ける。
 動きが止まる。
 そこには、
「グッモーニン!オーリスちゅわぁん!?」
「あぁ、母さん、もう私は駄目みたいです父がほぼ全裸でセクシーポーズをとっている夢を見るだなんてあばばばば」
「戻ってこいオーリス。そして貴様は散れ」
 あぁん、という悲鳴と共に再び至近距離用砲撃で焼き焦げる変態1名、もしくは1匹。
 一瞬にして目からハイライトを失ったオーリスに呼びかけ、なんとか現実に戻す。
 彼女はどこか遠いところを見ていたが、

「それで、何が起きたんでしょうか、父さん?」
「うむ、話せば長くなるのだがな……」
<<変わり身早―――――――――――――ッ!?>>

 どうやら変態は即座に父という枠から外され、それっぽい態度をとるレジアスが父親枠に就任したらしい。
 なんという素晴らしい判断力か。
 なんという素晴らしい精神的防衛本能か。
 杖から突っ込みが入るが地面に先端を叩きつけて黙らせておいた。
 そして、レジアスは語り始める。
 こんな筈じゃなかった、今までの経緯を――。


  〇


 経緯を話し始めてから、1段落。
 レジアスとオーリスは現在、位置を直したデスクを挟んで向かい合う形で腰を下ろしていた。
 ただ淡々と経緯を話すレジアスに対して、オーリスは蟀谷に手を当てて、頭痛に苛まれる様に、
「なるほど、つまりスカリエッティに良い様にされてしまった訳ですか……」
「返す言葉も無いな」
 言ってしまえば、その通りである。
 まぁ、その当人も今頃悪夢の狭間を彷徨っている最中だろうが。
……自業自得だな。
 レジアスは、気にしない事にした。
 それよりも、だ。
「これからどうするか、だな」
「"アレ"を代役にする、という事ですが本当に出来るんですか?"アレ"に中将の代役など」
 オーリスの汚物を見る様な視線の先には、黒く焼き焦げた汚物が転がっていた。
 見た目だけは嘗ての自分というのが、なんとも言えない気持ちにさせてくれる。
 ちなみにポーズは某ヤムチャのアレである。
「実際にやらせてみた限りでは、それなりに儂を演じる事は出来るだろう」
「ですが、使い魔なのでしょう?魔力のある人間から見れば解ってしまうのでは……」
「む……」
 確かにそれもそうだ。
 魔力を今まで持っていなかった故、考えもしなかった。
<<それなら大丈夫ですよー>>
「ん?」
 声に視線を向ければ、行く先は己の胸元。
 レジアスの首にかけられる紐の先端に付いた赤い宝石だ。
 声の主――待機状態となった強制魔法少女変身補助装置『リリカル☆ロッド』はその身を点滅させながら、
<<あの使い魔、私の機能を使って作ったものですから、現時代の下等な技術なんかでは解析なんて不可能かと>>
「さりげなく我々の世界の技術を見下された様な気が……」
 2対の半目が宝石に向けられる。
 『リリカル☆ロッド』が点滅しなくなる。
 どうやらだんまりを決め込むつもりらしい。
 気まずい沈黙が場を満たしたが、何時までもそうやっていても仕方がない。
 まぁ、とレジアスは頬杖をつきながら、前置き。
「当面の心配はなくなったとして……」
「……ゼストさんと、会うのですか?」
「あぁ、そのつもりだ」
「そう……ですか……」
 短く返答するレジアスに対してオーリスが見せる表情は困惑。
「心配か?」
「……はい」
「安心しろ。儂にはまだ、地上を守り続ける義務がある。死ぬ訳にはいかん」
 確かにゼストと会い、無事に帰ってこれる確証は無い。
 だが、レジアスは、ゼストは自分を斬らない、と確信していた。
 根拠はない。
 ぶっちゃけ勘である。
 あるとすれば親友故の予感とでも言うべきか。
 腕を組み、ジッとコチラを見るオーリスへ視線を返す。
 暫し見つめ合う2人。
「はぁ……」
 室内に響く溜息。
 先に折れたのは、オーリスの方だ。
「もう決めた事みたいだし、意見を曲げる気もないんでしょ、父さんは」
「無論だ」
 胸を張って応える。
 それにこれは自分の為だけの行動では無い。
 もしゼストが戻ってくれば、地上本部の戦力は一気に跳ね上がる。
 そうすれば、地上本部に常駐させている武装隊を他の支部に回したり、とやりくり出来る様になるだろう。
 だからこれは私利私欲の為の行動ではない。
 若干、その気が強いのは認めるが、リターンも大きいのである。
 やる価値はある、とレジアスは判断していた。
 勿論、今の今まで戻ってきていない事を考えると相当な交渉が必要だろうが。
……さて、なんと言われるか。
 ふう、とレジアスも溜息を1つ。
「よし。それでは早速奴に儂の服を着せて今後の計画を……ん?」
「……父さん。変態が居ません」
「変態が居るのは困るのだが……」
 周囲を見回すが、先程まで黒焦げになっていた筈の馬鹿の姿が無い。
 まさかダメージを与え過ぎたせいで消滅したのだろうか、と嫌な予想が脳裏を過ぎる。
 が、レジアスが一筋の汗を頬に伝わらせた、その瞬間であった。
「私はここよぉん!」
 唐突に聞こえる渋いお姉様ボイス。
 声に振り向いて見れば馬鹿が部屋の入り口付近に立っていた。

 ――女性局員用の制服を着て。
 ――内側からの圧力に張り裂けそうな女性局員用の制服を着て。
 ――悲鳴が聞こえてきそうな程痛ましい姿になった女性局員用の制服を着て。

「……」
「……」
「フフッ、ご主人様達ったらぁん、あまりの私の用意周到さに声も出ないようねぇん!?」
 張り裂けそうな程伸びきった生地など気にせず腰をグラインド。
 あの布が張り裂けた時が、自分達の目が張り裂ける時だ、となんだか良く解らない予感までさせてくれる。
 レジアス達は動けない。
 オーリスなんて眼鏡に盛大に罅が入っていた。
……あぁ、これは修理に出さねばならんな。
 遠い目で現実逃避を敢行。
 オーリスは既に白目状態である。
 幸いまだ意識は保っている様だ。
 時折ビクンビクンと痙攣している。
「これからご主人様の代役を務めるからには格好もしっかりしたいとねぇん?」
 クネリと蛇が身を動かす如く。
 どこまでもオチをつけなければ気が済まないのか。
 人差し指を立てて、艶っぽい動きでドヤ顔を向けてくる使い魔。
「……ハッ、私は一体何故意識を失って、おや、中じょ――たわばッ!?」
 これには思わずハワードも吐血。
 また気絶した。
 使い魔は横目でそれを見た後に、私の美しさって罪ね、と腰を1回転。
 更にそうでしょ?と言わんばかりにウィンクをレジアスへ飛ばしてきた。
 それに対して、レジアスは笑顔で頷きを返した。
 使い魔も笑顔でサムズアップ。
 超至近距離砲撃。
 使い魔は黒焦げになった。
 変態の末路である。
 然もあらん。

「はぁ……」
 レジアスの溜息がまた1つ。
 震えるオーリスもなんとか立ち直り溜息。
 白目をまた剥いてるハワードは吐血。
 黒焦げの使い魔は痙攣。
 無言でいた『リリカル☆ロッド』も余りの惨状に思わず点滅。
「とりあえず、服着せるか……」
「えぇ、そうですね……」

 その後に展開されるのは、倒れ伏す半裸のレジアス(使い魔)に服を着せようとしている女性と少女(真レジアス)という光景。
 復活したハワードがそれを見て犯罪臭がなんとやらとまた騒ぎになったのは、また別の話である。
 そして、更に復活した使い魔が立ち上がると同時に天使の様な悪魔の笑顔でフロントダブルバイセップス。
 膨張した肉体で服を引き千切ったたりしてまた黒焦げになったのも、更に別の話である。


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今回は更に地獄だと言ったな。
すまん、ありゃ嘘だ。

説明回みたいなもんだと、地味です……むむむ。

次回辺りは数日後の話にして、ちょっと筋肉とか魔法とか筋肉とか見せたいなぁ。
この世界って魔力はあるけど、気はないのかなぁとか妄想しつつ、ここまで見てくださった方々に最上級の感謝を。
それでは、また。
次回も筋肉使い魔と、地獄に付き合ってもらえれば、とか何とか。


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