【パリ高木昭彦】キャメロン英首相は、同国で育ったイスラム教徒の若者が伝統的なイスラム教も、多文化共生主義によって薄れた英国のアイデンティティーも身につけず、テロの土壌となっているイスラム過激思想に走っているとして、多文化主義の政策が失敗したとの見解を表明した。
ドイツのメルケル首相も昨年10月、多文化主義の社会構築が「完全に失敗した」と述べ、移民に社会統合を迫った。欧州各国で国内に抱えるイスラム教徒への対応が今後大きく変化しそうだ。
キャメロン首相は、ドイツ南部ミュンヘンで6日まで開かれた安全保障国際会議で発言した。首相は、長く英国の移民政策の基本となってきた多文化主義について、「異なる文化が互いに別々に、社会の主流から離れて存在することを勧めてきた」としたうえで、英国は「(若いイスラム教徒が)所属したいと感じる社会像を示すことに失敗した」と指摘。また、多文化主義は「隔離された社会集団が、英国の価値観に完全に反して行動することにさえも寛容だった」と批判した。
過激思想を防ぐため、こうした「寛容さ」ではなく、民主主義や平等、言論・信教の自由といった西洋の価値観を守り、英国の国家アイデンティティーを強化する「より積極的で強力な自由主義」が必要だと訴えた。
首相はまた、過激思想との戦いに非協力的なイスラム系団体への補助金をカットするため、団体に対する調査を強化する考えを明らかにした。
首相の発言には野党・労働党やイスラム系団体から反発が相次いだ。反過激思想のイスラム団体議長は「アフガニスタン戦争やイラク戦争こそ若いイスラム教徒が過激化する主な要因」として、社会統合の問題とテロを関連付けたことを「的外れ」と批判している。
=2011/02/08付 西日本新聞朝刊=