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[国際]ニュース トピック:主張
【主張】ムバラク辞任 民主改革の平和的履行を
「アラブの盟主」を自任するエジプトのムバラク大統領が辞任した。約30年に及ぶ強権的な政権が1月下旬以来の民衆のデモによってあっけなく崩壊した印象が強い。
代わって全権を掌握したのは、デモに対し中立的立場をとった軍の最高評議会である。政変が新たな流血を生まなかったことは諒(りょう)としたいが、オバマ米大統領が「終わりではなく始まり」と指摘したように前途は多難だ。国際社会を挙げて民主改革が混乱なく実行されるよう促したい。
軍最高評議会を主宰するタンタウィ国防相は声明で「国民が求める正統な政府に取って代わるつもりはない」と強調した。
その言葉通り、軍による統治はあくまで暫定的であるべきだ。政権の平和的移行の橋渡し役に徹することを求めたい。
デモの騒乱が続いていた最中にムバラク政権側が始めた対話の基盤は一つのたたき台だ。野党側の大統領選立候補を事実上不可能にしていた憲法規定の改正や、情報統制や野党弾圧をもたらす非常事態令の解除などは民主化への必要最低限の改革である。
現憲法を停止するなら、人民議会(国会)を解散して自由、公正な選挙を行い、新たな民主的憲法を策定するのが国際社会が容認しうる成り行きだろう。
エジプトでは1952年の王制崩壊以来、軍が歴代政権の屋台骨となってきた。今回のデモによる騒乱では、即時の大統領辞任を拒むムバラク氏に対する民衆側の怒りに一定の理解を示し、「平和的デモであるかぎり、市民に銃口は向けない」と宣言したことから、歴史的な政変の主役となった。
だが、軍の主体は体制側のエリート階層で構成されている。デモであぶり出された政権の腐敗や貧富の格差、失業問題など民衆の不満の声をどこまでくみ取れるか。最高評議会は「国民の要望を実現する改革推進策を近く発表する」という。次期政権に向けた新たな対話を早急に始めるべきだ。
スエズ運河を抱えるエジプトの政情安定は、世界経済にとって死活的に重要だ。イスラエルはエジプト次期政権のイスラム主義への傾斜を懸念する。エジプトがイスラエルと結んでいる平和条約は中東和平に不可欠だ。
デモを主導したネット世代の若者にも考えてほしいのは、安定と平和の大切さである。
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