シリーズ追跡 なぜ広がる鳥インフル
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感染渡り鳥 列島縦断

 鳥インフルエンザの脅威がじわじわと迫っている。昨年11月、島根県の養鶏場で毒性の強い高病原性のウイルスが確認されて以降、野鳥を含めれば感染は12道県に拡大。収まる気配もない。ここまで続けば、いつ香川で起きてもおかしくない。県内の養鶏農家の不安は募るばかりだ。

非常事態

飛来地 どこも危険 小動物や虫も「運び屋」

渡り鳥のカモ類のほかにもカワウなどたくさんの水鳥が集まる新川河口=高松市屋島西町
渡り鳥のカモ類のほかにもカワウなどたくさんの水鳥が集まる新川河口=高松市屋島西町

 「これだけ相次ぐと香川にも来るんやろうか」。観音寺市で養鶏業を営む男性は、続発する鳥インフルエンザへの不安を漏らす。「消毒には気を配っているが、他県でも感染経路ははっきりしていないし、安心できない。もし、うちで発生したらと思うと…」。精神的にきつい毎日が続く。

   ◆  ◆  ◆

  農家にぴりぴりムードが漂うのも無理はない。実は、香川は全国上位の「養鶏県」。農水省のまとめた2009年の鶏卵、ブロイラーの出荷量は共に全国15位。とりわけ三豊・観音寺地区は、県内の養鶏場の6割を占める一大産地だ。
  当然、各農家は出入り口の消毒などの防疫に力を入れている。というのも、ひとたび養鶏場で鳥インフルが発生すれば、発生農家の鶏の殺処分はもちろん、半径10キロ圏内が移動制限され、域内の農場の出荷作業も止まるからだ。
  施設が密集する三観地区の場合、「半径10キロの円」に大半の施設が収まる。「1軒出たら、産地が壊滅する」。冒頭の男性の心配は大げさではない。

高病原性鳥インフルエンザの発生状況
高病原性鳥インフルエンザの発生状況
(5日午後6時現在)

※画像クリックで拡大します
高病原性鳥インフルエンザの発生状況
ブロイラー、鶏卵の出荷量ランキング
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鶏舎周辺に消毒用の消石灰を散布する作業=綾川町
鶏舎周辺に消毒用の消石灰を散布する作業=綾川町

  警戒感を強めているのは県も同じだ。昨年11月の島根での発生以降、県内の養鶏場など239カ所に家畜保健衛生所の職員が二度にわたって立ち入り、約762万羽を調査。消毒用の消石灰も配布したが、県畜産課の担当者は「今、異常がなくても油断はできない」。来週には三度目の立ち入り検査を始める予定だ。

   ◆  ◆  ◆

  これまでにない広がりをみせる今回の鳥インフル。特に九州では鹿児島、宮崎、大分そして長崎と続発。宮崎では県内市町でも頻発しており、近隣県や市町でウイルスが「飛び火」したように映る。
  「確かに、『県から県』『市から町』へうつったかに見えるが、そうではない」と指摘するのは、京都産業大の大槻公一鳥インフルエンザ研究センター長。「鳥インフルのウイルスが空気中を漂ってまん延することはない」という。
  そもそも鳥インフルエンザウイルスは、カモなどの渡り鳥によって国内に持ち込まれる可能性が高い。
  国内への渡り鳥の渡来ルートは、朝鮮半島を経由して西日本に入るルートや、シベリアなど北方から北海道に入るルートがある。大槻センター長は「これまでに国内で発生した鳥インフルは朝鮮ルートの渡り鳥が原因だった。だが今回は違う。シベリアルートから北海道に入るカモなどが、高い割合でウイルスに感染している」と説明する。
  北からの渡り鳥は、各地の湖などで野鳥にウイルスをまき散らしながら、日本列島を縦断。極端な話、カモが渡ってくる場所はどこも危ないという状況があちこちに生まれた。「だから発生は県単位、市町単位。飛来地となるため池が多い香川も危険」と警告する。
  では、九州で感染が相次ぐのはなぜか。大槻センター長は、北日本の大雪の影響を挙げる。「本来なら北日本で越冬する渡り鳥までもが餌を求めて暖かい南に移動した結果、発生リスクが高まった」とみる。

   ◆  ◆  ◆

 ただ、こうした渡り鳥が鶏舎に直接入り込むとは考えにくい。ウイルスはどうやって侵入したのか。
  想定されるケースはこうだ。まず、スズメやカラスといった生活圏に近い野鳥が、渡り鳥の持つウイルスに感染。スズメなどは鶏舎に入りやすいし、それらのふんに触れたハエやネズミはもちろん、軒下のふんを人が踏んで鶏舎に入っても鶏にうつる。
  野鳥、小動物、虫、さらには人。ウイルスの「運び屋」は数多い。そのため感染源は特定しにくく、完璧に防御するのも難しい。
  とはいえ、これまで鳥インフルが発生した養鶏場では、防鳥ネットに穴が開いていたり、鶏用の飲み水を消毒してなかったりと、「防疫に不備があった」(農水省)のも事実だ。
  そこで大槻センター長は「農家は防疫体制を家畜保健衛生所の職員らにチェックしてもらうこと」とアドバイスする。自分で気付かなかった防疫の死角が見つかれば、リスクを下げることにつながる。
 今のところ、県が高松市の新川河口で行う渡り鳥の観測調査では異常は見当たらない。ただ、「冬に来た渡り鳥が、北へ完全に帰るのは5月初旬のゴールデンウイーク明け」(大槻センター長)というから、警戒は緩められない。事態を踏まえ環境省は野鳥の監視体制の強化を通知しており、県も対応を検討中だ。
  同時に早期通報の徹底も忘れてはいけない。他県の養鶏場では通報まで数日かかった事例があった。養鶏場はもとより野鳥も同じ。対応の遅れは、感染拡大につながりかねない。

 

 

基礎知識

かかりやすい野鳥33種

高病原性の感染リスクが高い野鳥33種

   鳥インフルエンザとは。
   鳥がインフルエンザウイルスに感染して起きる病気。その中でも、病原性(病気を発症させる性質)が高く、死亡率が高いものを「高病原性鳥インフルエンザ」と呼ぶ。ウイルスは表面の突起によって「H5N1」のようにH、Nの型の組み合わせで分類され、H5型、H7型が高病原性とされる。高病原性にも、致死率の高い強毒性と症状の軽い弱毒性がある。
   どんな鳥が高病原性鳥インフルエンザにかかるのか。
   家畜伝染病予防法は鶏、アヒル、ウズラ、七面鳥などの病気としている。鳥インフルエンザウイルスはカモなどの水鳥を宿主に存在しており、宿主は感染してもほとんどが無症状。宿主のふんからウイルスが排出され、鶏などへの感染を繰り返すうち、高い病原性を持つ鳥インフルエンザウイルスが出現すると考えられる。
   鳥から人に感染する危険はないのか。
   国内での感染事例はない。ただ、海外では1997年に香港で確認されて以降、インドネシアやベトナムなどアジアのほか、エジプトなどにも感染が拡大し、死者も出ている。とはいえ、これはまれなケースで、ウイルスに感染した鳥やふんに濃厚に接触しない限り心配はない。鶏肉や鶏卵を食べても感染しない。
   ウイルスを持ち込む野鳥への対策は。
   環境省が感染リスクの高い野鳥として33種=表=を指定。これに基づき、県は野鳥の死がいやふんの検査を行っている。死んだ野鳥には、むやみに近づかないことが大事。同じ場所で野鳥がまとまって死んでいる場合、県は通報を呼び掛けている。
   新型インフルエンザとの関係は。
   「鳥から人」への鳥インフルエンザの感染が拡大すると、ウイルスが変異して「人から人」に容易に感染しやすい力を持つ新型インフルエンザが出現する可能性がある。2009年に世界的に大流行した新型インフルエンザは豚由来のウイルスで弱毒性とされるが、鳥由来で強毒性の新型インフルエンザが流行した場合は、大きな被害が出る恐れが懸念される。

取 材 金藤彰彦 福岡茂樹 山田明広

(2011年2月6日四国新聞掲載)

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