【萬物相】子どもが本を読むということ

 19世紀の欧州で、一人の少年がガラス窓の外から、本屋の棚に並んだ本を眺めていた。少年は本を読みたかったが、本を買う金がなかった。次の日も少年は本屋の前にやって来て、窓の外から本を眺めていた。そんなある日、本屋の棚にあった本が、1ページめくられているのに気が付いた。翌日にはまた、次の1ページがめくられていた。こうして少年は数カ月にわたり、毎日1ページずつ読みたかった本を読み続け、ついに最後まで読み切った。

 これは日本のあるエッセイストが、青少年の読書を奨励する中で紹介したエピソードだ。本を読むことを切望していた貧しい少年に、本屋の主人は感動した。若いときに経験する読書は、年を取ってからの読書とは違う。実業家のハインリッヒ・シュリーマンが、トロイの古代遺跡の発見という偉大な業績を挙げたのは、7歳のときにクリスマスプレゼントとしてもらった、世界史についての童話に感動し、それを大人になっても忘れなかったからだという。

 米国ボストンでかつて名門校として知られたソロモン・ルーウェンバーガー中学校は、1980年代に入ると、一転して「お荷物」と化した。生徒の学力レベルが低い上に、トラブルも多発した。そんな同校に赴任してきた校長は、一日の最後に10分間、静かに本を読む「SSR(Sustained Silent Reading)」という運動を始めた。最初は不満も多かったが、やがてスクールバスの中や自宅でも本を読む生徒たちが増えてきた。読書が習慣化することにより、成績も向上した。こうして同校は、再びボストンの名門校として誇りを取り戻したという。

 日本では、毎朝教室で10分間本を読む運動に取り組む小・中・高校が、現在約2万6000校に達する。1988年、千葉県のある高校教師が始めたこの運動に賛同する学校が毎年増え続け、今や全国の小・中・高校の70%以上が読書の時間を設けている。10分というのは短い時間だが、それでも集中して読書を続けることにより、1冊の本を読み終えることになる。読書の習慣は何よりも、生活態度を改めるという効果がある。

 ソウル市教育庁が2007年から推進してきた「ソウル児童・生徒五車書(手押し車5台に乗せられるほど多くの本)事業」が、今年の主要プロジェクトから除外されることになった。これにより、児童・生徒が毎日、授業が始まる前に10-30分間本を読む運動に取り組んできた39のモデル校に対する支援も打ち切られることになった。論議を呼んでいる無償給食に1162億ウォン(約84億9500万円)もの予算を注ぎ込む一方で、2億ウォン(約1500万円)にもならない読書奨励事業の予算が削減の対象になったというわけだ。「五車書」を読むことを奨励した、中国唐代の詩人・杜甫がこのことを知ったら何と言うだろうか。子どもたちの情操教育に対する教育庁の意識は、200年前の欧州の本屋の主人にも劣っている。

金泰翼(キム・テイク)論説委員

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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