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2006.12.08

『竹田くんの恋人 ワールズエンド・フェアリーテイル』読了

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竹田君の恋人 ワールズエンド・フェアリーテイル』(桜庭一樹/ファミ通文庫)読了。

名付けて桜庭一樹の旧作を読んでみようかな企画第二弾(すいません、疲れているんです)。

とても面白い。予想外(と言っては失礼だが)よく出来ている。これは『赤×ピンク』や『推定少女』、引いては『砂糖菓子の弾丸は貫けない』に繋がる桜庭一樹の源流が確かにあるのだな。先日読んだ『AD2015隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』にも通じる、すなわち“少女”と言う記号化された、言い換えれば虚構化された存在の内面を描こうという試みである。その意味では、桜庭一樹は突然成長して凄いものを書くようになったのではなく、デビュー当初から一貫して持ち続けているテーマを愚直に描きつつけている作家なのだ、と思った。

さらに言えば、桜庭一樹が規定する“少女”と言う存在は、決して現代的なリアリズムに基づくものではなく(この辺は適当に言っていますよ)、ゲームや漫画、直裁に言うならばギャルゲー、エロゲー的なキャラクターが根底にあるのだということも理解した。もともとゲームのシナリオライターであるということが影響をしているとも言えよう。乱暴な言い方ではあるのだが、つまりはシナリオライターとしてギャルゲーに身近に接することによって培われた意識、つまりは虚構化され消費されるキャラクターと物語に対する批評性を獲得して行ったとも言えるだろうか(勝手な思い込みだけど)。

というのは、この作品では、いわゆるバーチャルゲームの中で恋愛シミュレーションのヒロインが、自分が恋をしたプレイヤーを探して現実世界に飛び出してくるという極めてギャルゲー的フォーマットではあるのだが、そこの描き方に一定の冷笑的な、あるいはギリギリな苛立ちめいた皮肉がそこかしこに立ち込めているように感じられるのだ。冒頭における、その内面など一顧だにされずただ消費されてゆくヒロインたちの描写は、あまりにも露骨で、ゾッとするほどにおぞましい。現代における桜庭一樹のオブラートさ、あるいは繊細さはどこにも無く、ひたすらにグロテスクですらあるのだが、そこに作者が抱える問題意識に対してのたうち回りながら取り組んでいる様が見えるようだった。

ストーリーがまた良い。ゲームの世界から飛び出してきた少女たちに出会った少年が、“竹田くん”を探していくというシンプルなものなのだが、この竹田君を探す過程で、当初受けていた印象から、様々な人たちから話を聞くうちにどんどんと変化していき、最後の最後ではあまりにも物悲しい選択をせざるを得なかった男の人生が垣間見えるのだ。徹頭徹尾、これは“竹田くん”と言う一人の人間を追い求めた物語であり、人間と言うものの多面的な様相を万華鏡の如き複雑さを見せる内面を(そう“ライトノベル”と言う形式の中で生まれた虚構化された消費される内面を)見出そうという試みなのである。

正直なところ、その試みが完全に成功したかと言うと、この作品に限っては不完全であると言わざるを得ない。ラストシーンなんていかにもギャルゲー的なご都合主義的なお約束に収束してしまったように見える甘さが画竜点睛を欠いてしまっているし、“竹田君”に心を砕くあまり、肝心の“美少女ヒロイン”たちの“消費される少女性”についても投げっぱなしになってしまっており、結局形を変えただけで彼女たちはいつまでも消費されることに変わりは無いように思える。

だが、現在の桜庭一樹の一ファンとして、僕にはこの作品を否定することは出来そうもない。これは永遠の格闘少女、桜庭一樹の足掻きと苦闘の歴史の一つであり、現在もなお続いている格闘の痕跡そのものなのだと思うのだ。

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