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世迷言

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☆★☆★2011年02月12日付

 30年間で3000万台を売ったというのは一大ヒット商品と呼べるだろう。しかも決して小額商品ではなく、むしろ高額の部類だからなおさらだ。答えはTOTOの温水洗浄便座「ウォシュレット」▼最初に売り出したのが1980年6月。もともと陶器の製造販売からスタートした企業が、便器や洗面台などを主力商品とするようになるのは自然としても、便座に温水洗浄機能を持たせるという発想にたどりついたのは、日本人のきれい好きがヒントだろうと考えていた▼ところが、1964年にアメリカから医療用便座を輸入・販売したのがきっかけだったというから、日本人が得意とする応用技術が花を咲かせたわけである。口惜しがっているのはアメリカだろう。せっかくのアイデアを持ちながらそれを活用しきれなかったのだから。今や国内では70%以上の普及率で、世界各国にもどんどん輸出されている▼江戸から明治初期に来日した外国人が一様に驚いたのは日本と日本人の清潔さだったという。実際、水洗便所が普及する以前、どんな家でも便所はきれいに拭き清められ、便所の呼び方の一つである「ご不浄」などとは無縁だった。そのきれい好きが「便所の品格」となって体現された?▼いまやどんな田舎のホテル、旅館でもこの方式が採用されているのは、そうでないと客から敬遠されるからだろう。目下はいかに使用する水を減らすかその一番乗りのため、各メーカーとも技術者は研究室に〈雪隠詰め〉という。

☆★☆★2011年02月11日付

 マニフェストにはうたったものの、肝心の財源が不足で「こんなはずじゃなかった」と民主党政権が頭を痛めているのが「子ども手当」▼国だけではまかないきれないため、地方自治体にも負担を求めているが、各地で〈反乱〉が起きており、制度的にも問題がいっぱい。同手当を真っ先に〈事業仕分け〉したいのが政権の本音では?▼マニフェストに織り込んだ時から「バラマキ」と非難された同手当だが、民主党が政権を取り、いざ実行という段階になってこれがとんでもない愚策だったということに気づいた。15歳まで毎月2万6000円を支給するという計画を進めるためにはとても財源が伴わず、そこで初年度のみ毎月1万3000円とし、2年度からは予定通りにすると急場をしのいだまではよかったが…▼初年度だけで2兆2500億円もかかったのに、2年度からはその倍の4兆5000億円が必要という試算を前に財務担当省庁が天を仰いだことは想像に難くない。なにせ財源は扶養控除などを廃止して実質上の増税でまかなう計画だったのに、税収増は1兆4000億円どまり。これに地方負担分5500億円余りを足しても所要額にははるかに及ばない▼しかも当てにしていた地方負担分を当の地方自治体があちこちで拒否しだした。枝野官房長官は「近い将来全額国費にすることが望ましい」と〈理想論〉を述べたが、ない袖をどう振ればいいのか。2011年度から3歳未満に限り月額2万円とするらしいが、それだけで3兆円。しかも少子化も防ぎ、景気浮揚になるとも思われぬこの投資は一体だれのため?

☆★☆★2011年02月10日付

 愛知県知事選、名古屋市長選、同市議会リコール可否投票という「トリプル投票」で、いずれも河村たかし前市長のもくろみが奏功し、「河村旋風」が猛威をみせつけた▼市民減税、市議会議員報酬の半減などを掲げた河村氏の主張が有権者に受け入れられたのが圧勝の原因で、税金のむだ遣いを好まぬのは有史以来庶民の共通項であり、争点としてはまことに有利である。そういう意味で河村氏の手法が今後の地方選でも「潮流」になる確率は高そうだ▼しかし同氏の真意がどこにあるのか、ストレートに理解できないところがあるのは、このの毀誉褒貶が並外れだからだろうか。民主党議員時代はテレビの露出度が高く、顔だけは見知っていたが、その同じ人がいつの間にか名古屋市長になっていたのにはビックリ▼民社党の名物男だった春日一幸氏の秘書を振り出しに日本新党から衆院議員に初当選後、新進党、自由党、民主党と政党遍歴しながら、どの党に移っても選挙に強いのはあのキャラクターにあることだけは確かだが、その鼻っ柱の強さが元でいまや古巣の民主党とは犬猿の仲▼名古屋言葉丸出しで、市民減税、議員報酬半減などの持論を熱っぽくぶち上げる姿は「愛知の龍馬」さながらだが、掲げる政策はポピュリズム(大衆迎合)そのものという指摘もあって、この人の真価が定まるまでには時間がかかりそう。しかし議員報酬削減などの爆弾をぶっぱなしてみせた「蛮勇」は、ひとり尾張にとどまらず、国会や全国の地方議会なども標的にする一矢となるにちがいない。

☆★☆★2011年02月09日付

 天の時も地の利も大事だが、その前に人ががんばらなくちゃという実例を示してくれたのが、開港前と開港後で評判の天地がひっくり返った茨城空港の「奇跡的逆転劇」だ▼国交省、防衛省、茨城県と3者の思惑が一致、自衛隊百里基地内に「同居」する形で滑走路を新設、昨年3月開港した茨城空港は県民の「マイウイング(わが翼)」として熱い期待が寄せられるはずだったが、開港の時期が羽田、成田両空港の発着枠拡大というタイミングとかちあったから運が悪かった。国内航空各社は「羽田より儲かるなら別だが」と取り合わず、韓国のアシアナ航空ソウル便だけでスタートした▼総事業費250億円、うち茨城県が80億円を負担して整備した「空の玄関」が、玄関どころか、イヌ、ネコもたまにしか通らぬような通用口となったらたまらない。なにせ沖縄、札幌、福岡、大阪の4路線就航を目指し、年間81万人が利用、観光客も10万人が訪れるという皮算用をはじいていたから、見込みがすっかり狂った▼ここで発奮したのが茨城県民だった。週末はおろか、平日でも毎日何千人も見学に訪れ、遊園地気分で利用する。おかげで売店は大繁盛、あちこちから産直などの出店も相次ぎ、一大観光拠点と化した。こうなると天はなんとかやらを助けるようになる▼外国航空2社のほか、スカイマークが神戸便1便だけだったものを、札幌、名古屋便も運航するようになり、搭乗率も平均7、8割と同県民は見学だけでなく利用の方もおさおさ怠らない。花巻空港も「拾う神」を探すことだろう。

☆★☆★2011年02月07日付

 市を二分した陸前高田市長選。激戦を制しての当選に、まずは祝意を述べたい。寒気をものともしなかった運動員や支持者ともども勝利をかみしめ、同時に公約は常に忘れることなく、今後の市政に反映してほしい▼選挙の熱気が強かっただけに、しこりも心配されるが、大人の行動は驚くほど子どもたちが見ている。選挙の熱気を今後の市勢振興につなげ、明日を担う青少年に「戦う時は徹底して戦う。終わったら握手して仲良く」という度量を示してもらいたい▼公約の中では、「協働」の言葉を使った。これは、非常に重要な姿勢だ。地方自治体は収入の伸びがあまり期待できない中、住民サービスは多様化する一途だからだ。役所内が自己啓発の前向き集団となれば、市民にも協働の意欲がいっそう高まる▼長野県飯田市で活動する「ひさかた風土舎」の考えも一つの参考。「風」は地区外の知識や技術情報で、「土」は地域を意味。地域自立のため、地元の素材を基本に、外部情報の学びも加えて土と心を耕す異業種集団。生産物は輪番制で販売し、収入や生きがいにもつなげている▼市が着手できない分、いかに協働の実を上げ、生き生きとした活動を波及させるか。新市長には、広域を含む民間団体とまちおこしに関心を持つ市民の出会いの場設定など、協働組織育成への配意を期待したい。いずれ、両陣営の真剣勝負だっただけに、ホームページ上とはいえ開票速報の誤情報があってはならず、このようなことの二度とないことも望みたい。

☆★☆★2011年02月06日付

 ここ10年というもの、「どうですか?」と景況を聞いて、返ってきた答えが「おかげさまで」というのは皆無。「まずまず」というのも希有。99%が「ダメ」で一致していた。そう、日本列島冬景色▼というわけで最近は聞かないようにしているが、商売人相手だとこれは時候の挨拶みたいなものだから、つい口をついて出てしまう。ところが最近になって1人から「まずまず」という回答を得た。これは珍しいと中味を聞くと「不景気な話をするのは飽きたから、ウソでもそう言うようにしている」とのこと。なるほどその方がいい▼みんなが不景気な話をすると、社会の空気までがそれに染まって実際に不景気になるという不況マインドの作用を停止させるには、ウソでも本当のように見せる必要がある。「よくなってきたね」「薄日が差してきたよ」「やっと出口が見えてきたな」と<ボガ(ウソ)>をまき散らすことだ▼こんなウソは罪に問われないどころか、それによって景気が回復したらむしろ感謝されるべきもの。不況という文字に飽き飽きしている小欄も、だから明るい話だけを紹介したいと思っているが、実際底離れが始まっているのは明らかだ▼電機大手8社の売り上げがV字回復したというのもそれで、前年まで赤字だった何社かが黒字に転換、8社のうち6社が増収増益となった。円高や安値攻勢などに苦しみながら収益を確保したというのは、反転体制が固まったからで、これは景気回復の予兆である。悲観するより楽観するが勝ちという新たな価値を信じよう。

☆★☆★2011年02月05日付

 米国の格付け会社が、日本の長期国債を従来の「ダブルA」から1段階下げて「ダブルAマイナス」としたことで、これが国際評価だと「カン違い」する向きもあるが、首相自身「そんなことには疎いので」と「無カン心」なぐらいだから、そんな格付けなど「等カン視」していいだろう▼他人になんと言われようと自分は自分と大概は思っているから、なんだかんだと評価されることを好まない。他国から自国をとやかく言われるのがしゃくにさわるのも同様で、どこの国のどなたさまか知らないが、日本の国債をどう評価しようと勝手にしても、公表するなど大きなお世話▼格付け会社とは、金融機関や保険会社が顧客の信頼度を確かめるようなものだが、ではその判定の基準となるものがどういうものなのかとなると、この会社が最高位とする「トリプルA」に格付けされているのが米、英、独、仏の4カ国であることからしてもネタは割れる▼むろんわが国の財政状況が火の車であることと、経済成長の見通しがイマイチという点がマイナス要因だとは思う。しかし日本の国債は9割を自国民が持っており、それは「トリプルA」と信じているからこそ。日本が「貴国債を売るぞ」とおどかしただけでビビッた米国が上位にある方が土台おかしいのだ▼格付けなるものを信じる前に、その裏に潜む真実」を見極めることが大切。そもそも格付け会社といえども自国に甘く、他国には点が辛くなるのが自然で、しかも判定するのは人間であるという「カン点」から判断すべきなのだ。

☆★☆★2011年02月04日付

 野球賭博で大揺れした日本相撲協会が、武蔵川理事長の引責辞任と関係者の処分によって名誉回復に乗り出したばかりなのに、今度は携帯電話に残された通信記録から「八百長疑惑」が明るみに出て、大相撲の存在そのものが問われかねない状態に陥った▼賭博事件で押収された携帯電話のメールに「あと20で利権を譲ります」とか「立ち合いは強く当たって流れでお願いします」などと、八百長取引を物語る動かぬ証拠が数十通も残されていたことから、警視庁が日本相撲協会を所管する文科省に注意を伝えていたことが分かったもの▼中には「来場所のことなんですがもらえるならくれませんか?ダメなら20万は返してもらいたいです」といった〈生々しい〉交渉の模様を伝えるものもあり、大相撲には昔から付きものとされていた八百長試合が、いまも〈脈々〉と受け継がれていることを〈白状〉した▼メールには幕内の4人、親方2人ら13人の名前があり、これまで協会側が裁判などでたびたび否定してきた八百長が、実は内部的には「必要悪」として存在することが浮かび上がった。力士の星取は生活に直結するものだけに、〈取引材料〉となることは容易に想像がつくが、しかしこれほど明らさまになると、大相撲の醍醐味が半減するだけでなく、国技たる存在理由すら否定されかねない▼就任後人気回復に躍起となっている放駒親方にとって、大相撲人気から逃げ出した馬(放駒)を取り戻すための努力が下手すると水泡に帰しかねない事態だが、元大関魁傑の親方のことだから、問題解決に努めるだろう。

☆★☆★2011年02月03日付

 日産自動車が世界販売台数で前年比20%以上増の408万台を売り、長らく後発のホンダに明け渡していた2位の座を奪還した。「3位ではなく2位でなければダメなんです」という悲願がようやく達成されたわけだ▼不動と思えたトヨタと日産の「2強時代」に割って入ったのが、2輪車から出発、創業者の夢を叶えて4輪車の開発を果たしたホンダで、あれよあれよという間に業績を伸ばし、ついに2位が入れ替わったときの日産の屈辱は想像するだに余りがあるだろう▼ホンダが念願の4輪車を、まずは軽4輪を足がかりに登場させた頃、日産はすでに「ダットサン」や「ブルーバード」を内外に送り出していたのだから、〈新参者〉を甘く見ていたことだけは確かだ。2強の追撃に貢献したランナーが、皮肉にも使命を終えて製造停止となった「シビック」で、「技術の日産」という看板を過信するあまり、後発の実力をみくびったツケがあっという間に回ってきた▼そもそもトヨタに水をあけられた原因は、ユーザーが技術よりデザインを重視したからである。ブルーバードの性能より、マークUのファッション性に時代は憧れたのである。そのあたりからケチがつきはじめ、ついには経営再建をルノーに委ねるハメとなったいきさつはご承知の通り▼カルロス・ゴーンさんの経営手法もあるだろうが、最近の日産のデザインはかってのトヨタのお株を奪った趣きがある。そのトヨタの売れ筋プリウスが、今度はホンダのフィットに首位を奪われた。栄枯盛衰は人生ばかりではなさそうだ。

☆★☆★2011年02月02日付

 裁判官が情状酌量の理由として挙げる理由に「すでに社会的制裁を受けている」というのがある。被告に対する量刑を考える上で勘案されるのがこれで、法的制裁よりむしろこちらの方が峻厳な場合が多々ある▼社会的制裁とはまさに物言わぬ裁判で、社会という〈裁判員〉が下す判決は〈不文〉だが、何も言われずただ白眼視されることの方がよっぽどつらいかもしれないから、これは村八分に似てかなり過酷な仕打ちと言えよう。すでにその精神的制裁を受けた上になお強制起訴されるという二重苦にさらされるとしたら、その苦悩はいかばかりだろう▼小沢一郎元民主党代表が、その資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる収支報告書虚偽記入事件で、政治資金規正法違反の罪に問われた元秘書3人と共謀した疑いでついに在宅起訴されたことで、同氏を生んだ本県はもちろん広く国内各界に衝撃と波紋が広がっている▼この事件で小沢氏は2度にわたって不起訴となったが、第5検察審査会がこれを不服として2度目の「起訴相当」を議決、東京地裁から検察官役に指定された弁護士3人と、小沢氏側の弁護団との間で黒白を争うという異例な展開となった▼小沢氏の「何一つやましいことはない。無実は明らかになる」という主張が正しいのか、それとも各種世論調査に見られるように過半数の国民が抱く素朴な疑問の方が正しいのか、それはやがて時間が裁定するだろうが、その前に、失ったものの大きさと比べたら、改めて守るべき価値の大切さというものが見えて来はしまいか。


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