2010年12月14日 22時1分 更新:12月15日 1時21分
総務省は14日、高速ブロードバンドの全世帯普及を目指す「光の道」構想実現に向け、制度改正などの期限を盛り込んだ基本方針を発表した。NTTの光回線料金引き下げなど普及への取り組みを3年後をめどに検証し、十分でない場合にはNTTの回線部門の分離・別会社化を再検討する。
基本方針は片山善博総務相ら政務三役が同日、構想を検討していた作業部会の最終報告を受けて提案した。最終報告に、具体的な日程や数値目標が盛り込まれず、「目標である15年の構想実現の道筋が見えない」などと批判が出ていたことに、政治主導で応える姿勢を示した形だ。
基本方針は、NTTの組織形態は現状を維持し、部門間の区分を厳格化し公正な競争条件を確保するとした作業部会の結論を踏襲。関係法律の改正案を来年1月召集の通常国会に提出するとした。また、NTTが他事業者に貸し出す光回線の接続料金については、今年度中に結論を出すと期限を切った。
また、構想の進捗(しんちょく)状況については、NTTの料金引き下げや市場シェアの動向、ブロードバンド普及や利用率拡大に向けた取り組みを毎年チェックしたうえで、3年後に包括的な検証をする。その結果、進捗が不十分な場合には、NTTの回線部門のグループ内分社やグループ外への分離などの追加措置を検討するとした。分離・別会社化案は、ソフトバンクの孫正義社長が提案し、作業部会で退けられたが、再検討する余地を残した。
携帯電話の新たな周波数帯の割り当てには、新規の事業者が既存事業者の移行費用を入札(オークション)で負担する制度を採用した。【乾達】
▽NTTの光回線と他部門の機能区分を厳格化。関連法改正案を次期通常国会に提出
▽光回線接続料の引き下げに向け、総務省とNTTで検討を開始
▽3年後をめどに取り組み状況の包括的な検証を実施。不十分な場合、新たな対策を検討
▽携帯電話への周波数帯割り当てで、移行コストを受益者が負担する制度を創設
片山善博総務相が「光の道」に関する基本方針に、3年後をめどに進捗状況を検証する規定を新たに盛り込んだのは、光ファイバーなど主要インフラを事実上、独占しているNTTをけん制し、取り組みを強く促すことで構想実現を加速する狙いがある。ただ、検証の基準は明確には示されておらず、実効性をいかに担保するか課題も残した。
NTTは光回線の約8割を握り、光回線を使ったブロードバンドサービスでも他の事業者を圧倒している。「光の道」が目指す光回線の全世帯普及を実現するには約1.5兆円の追加投資が必要との試算もあり、構想の成否はハード、ソフト両面でNTTに依存しているのが現状だ。
基本方針では「公正競争環境が十分に確保されていない場合、構造分離を含めたさらなる措置を検討する」と明記。検証結果次第では、NTTの組織再編に改めて踏み込む意向を示した。「ムチ」をちらつかせることで、「政治主導による迅速で効果的な対応」(片山総務相)を引き出す思惑だ。
とはいえ、抜け道も多い。基本方針は光回線の普及停滞の要因になっている高額な利用料の引き下げをNTTに求めたが、具体的な下げ幅は「NTTの経営判断に委ねるべきだ」(総務省幹部)として明記しなかった。NTTも「できるだけ早く現在のADSL並みにする」(鵜浦博夫副社長)と利用料金の半減を目指す方針を表明したが、実現時期については言及を避けている。NTTがどのような対応を取るかは見通せない状況だ。【赤間清広】
2015年をめどに光ファイバーなどのブロードバンド(高速インターネット)を全世帯に普及させる構想。原口一博総務相(当時)が提唱、総務省は複数の作業部会を設置し実現に向けた課題の洗い出しを進めてきた。09年度末時点で光回線網の整備率は91.6%に達しているが、利用率は33.4%にとどまっており、割高な利用料金の引き下げなど具体的な普及策をどう打ち出すかが課題になっていた。