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[17100] 【だいたい一発ネタ】現在進行形突発型黒歴史作品群。【俺がISだ!!】
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:dffb9f54
Date: 2011/02/12 06:58
 題の通りの作品集。まとめただけともいう。



①最終進化、双子の姉。

 転生TSなのはの双子ネタでいろいろやってみるつもりだった。



②キャスト:フェイト·テスタロッサ ~Such a wonderful trash is the world~

 例の地雷。なんとかA’sに繋げようとして挫折した末に生まれた突然変異。



③第六次聖杯戦争………なのか?

 嘘予告。自サイトで多重クロス聖杯戦争ネタなんていかにもかぐわしい長編を書いた時の残滓。その続編の嘘予告なんていう更なる境地に行き着いたのはテンションが異常だったから以外の理由など何一つ無い。



④気晴らしに書いてはみたけれど

 11eyes捏造栞エンドアフター。コンシューマなんて知りません。



⑤機動戦士ガンダムDecade

 読んで字のごとく、誰もが考え付くネタ?掲示板でしつこく湧くアンチディケイド厨にむかついて書いた。続くかどうかは知らない。



⑥まおう が あらわれた!

なんかスランプ中に浮かんできたネタ。ハイテンションオリ主、ょぅι゛ょ、最強の存在(笑)と割りとテンプレ意識して書いてみた。ドラクエ風味。



⑦世界を変革する力☆

スランプが終わらないなりに書いてみた一発ネタ。00とISで刹那in一夏。構成がすっきりしないよぅ…。



というか、黒歴史と認識しながらも書いて曝し続ける作者のマゾ疑惑。いいんだよ、男は何歳になっても厨二病で居続けるべきなんだ………!



[17100] 最終進化、双子の姉
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2010/07/24 20:43
※環境に染められやすい設定のなのはさん。双子の姉設定を究極まで追及し、妄想のままに染めてみました。

※という訳で、何時もの事ながらキャラ崩壊注意。

※では↓




~無印エントリー、最速の姉貴~

「あなたの持っているジュエルシードを、渡して。」

 金髪赤眼の少女は、見下ろす様になのはに言った。

「………っ。ふーん。」

 言われたなのはは、一瞬惚けたと思うといきなり顔を笑みの形に歪める。しかしその瞳は決して笑ってはいない。視線だけで相手を焼き尽くしかねない怒りの炎が燃えていた。

「ムカつくなぁ……。」

「え?」

「そうやって見下した態度でさぁ、ひとのモノを当たり前の様に手に入れられると思ってるんだ。分かるよ、今わたしの事自分より弱いって思ったでしょ。弱いから、ちょっと脅せば言う事聞くと思って。そういうの、わたし一番嫌いなんだ……っ!」

「っ!?どうしてもって言うなら、力ずくで―――、」

「ほら。わたしは自分の事は自分で決める。誰の指図も受けない。特にあなたみたいないけ好かない奴には髪の毛一本たりとも渡さない!!」

「………仕方ない。行くよ。」

「上等。喧嘩だよ喧嘩っ!ほらやるよ、やれやるよ、さっさとやるよ!!レイジングハートぉぉぉっっっっ!!!」

 言いがかり、それも癇癪に近い屁理屈で戦闘に突入するなのは。白いバリアジャケットの上から、右腕が金の籠手で覆われていく。背中には三枚の光の羽。

 回転しながら、弾けて消えて。

「っ!?」

 拳が頬に突き刺さった。

 オートでデバイスが張ったバリアを紙の様に破り、殴り飛ばす。何が起こったのか分からないまま半ばパニックで距離を取りながら少女は防備を固めた。堅実だが機動戦を得意とする彼女には普段あり得ない選択。そんな俄仕込みを、

「しゃらくさいっ!!」

 やはりガードを破ってなのはの拳が命中する。だが、何をしたのかは判った。フェイントや技の連係を考えない、真っ直ぐ突っ込んでその勢いのまま拳を伸ばすストレート。理解すればこれほど対応が楽なものも無い。

 射撃魔法を使って削りながら回避に専念するだけで十分だろう。直線の動きは確かに速いが、小回りはこちらの方が断然有利だ。

―――そんな小賢しい『対応』は『対処』たり得ず。

「そんな……ッ!?」

「おおあああぁぁぁっっ!!」

 直撃こそ避けているものの何発か被弾したのをものともせず、速度を落とすことなく出てきた拳を躱し切れず三度殴り飛ばされた。

 衝撃を緩和していたバリアジャケットが弾け、バウンドする様に数度地面を跳ねる身体。痛みよりも、混乱と驚愕が上回っているのは幸か不幸か。朦朧とする意識になのはの―――なのはと同じ声が入ってきた。

「スロウリィ。トゥースロウリィッ!そんな事では私はおろかマイディアヤングシスターにすらもウサギとカメ·F1カーとゴーカート·カールルイスとボケ老人!百万光年遅すぎる!おっと光年は時間じゃなくて距離だってツッコミは認めないぜ事実だからな何故なら私は颯爽となのはなら根性で駆け抜けるその距離も君では一生かかっても無理だからさ即ち絶対的な差アブソリュート!なんで、どうしてそんな差が生まれるのかと来るならばこの私高町空亜(たかまちくうあ)魂の名を『ストレイト·クーガー』がご教授差し上げましょう―――、」

「………空亜お姉ちゃん、さりげなくわたしにも喧嘩売ってるよね?この子ぶちのめしたらその後はあなただからね。」

「おやおや妹よ久々に双子姉妹のスキンシップかならば後と言わず存分に私の胸に飛び込んで来たまえ全力全開の抱擁と溢れんばかりの愛情で以て受け入れようさあ、さあっ、おいでこのは!」

「ぁぅ………っ、べ、別にそういうのじゃない!あとわたしの名前はなのはだよ!!」

 照れるなのはと瓜二つだが変なサングラスを掛けている少女が何事か言っているが、普段から読解力というか国語系の力が弱い金の少女は朦朧とした意識も相まって全く理解が追い付かなかった。あの変態的な早口に強制介入して会話を成立させるなのはは双子の妹の面目躍如なのか。

「やれやれ、このは「なのはっ!」は最近反抗期なんだよ、そりゃあ読書中うたた寝していたかと思えばいきなり赤ちゃんにそれも生物学上メスになってた時はアビョーンって位驚いたものさしかし現状把握も認識ももたもたするのは私の信条に反するので最速で成し遂げたがねっ、でいざそうなると殆ど何もする事が無い以上隣ですやすや眠っている妹を愛でるのみなのだがふと考えたのだ!この可愛い子が、速さこそ力、速さこそ正義、速さこそ真理、なこの信条を共有してくれればどんなにかいいだろう、と!」

「あ、あの………。」

「無論最速の座を譲り渡す気は無いがあの廃墟も無いこんな平和な世界で孤高という名の裸の王様を気取るつもりもないからこれを考えた時はまるでアインシュタインの頭の上に雷が落ちて来た時の様な至高の運命を感じすらした!だがまだ子供のなのはには難しい話だったらしくそれだけならいいのだが変な解釈をしたのか人の話を聞かず猪も真っ青の猛進娘になってしまってねそりゃ目的地に行く為には急がば回れと言わず最短距離を突っ走るのが最善だが途中の障害物を全て薙ぎ倒さないと気が済まないのは誰に似たのやら最早カズヤ(カズマだっ!)の呪いなのか。……何か変な叫びが聞こえてきた気がするがそれはいいとして気付いた時にはこのは「なのはだってば!」はお姉ちゃ~ん(はぁと♪)って甘えてくれなくなってたから矯正も出来ず―――、」

「あのッ、空亜さん!!」

「――ん、どうしたユーロ君?」

「ユーノです!ていうか、話が盛大にそれてます。」

 対照的に、話しかけるのすら一苦労の喋るフェレット。

「ああ、そういえば彼女と私達姉妹との決定的な差の話だね………よく聞け!単純な欠落だ。君には情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さそして何よりも―――速さが足りないッッッ!!」

「………っ。」

「もうやだこの姉妹………。なのははなのはで祈祷型とはいえ杖の形を取らせずに、繊細なインテリジェントデバイスをアームドみたいにぶん回すし……。」

「ふんっ、遠くからちまちまなんて趣味じゃないよ。相手を潰すなら絶対この拳でなの!!」

「…………はぁ。」

「………。」

 というか、空亜の話のせいで場はもうぐだぐだになっていた。ただ、少女は遠慮の一切ない目の前のやり取りを羨ましく思う。自分はあんな風に母と会話出来るだろうか。

(無理だよね……。)

 倒れたまま、少女は思う。原因は教えてもらったばかりだ。自分には足りないものが沢山ある。足りないから優しくしてもらえない。

(でも、わたしも………。)

「あ、こらっ!」

 意識を縫い止める気力ももうなく、使い魔が死角から飛び出して自分を抱えて逃げるのを感じながら気を失う。

(あんな風、に……。)

 絶対に媚びない不屈の心。なのはの様になれたらという無意識の炎を胸に燻らせながら―――。






<後書き>

………すいません、手が止まらなかったんです。ただ早口にすればいいってものじゃないのは分かってたつもりなんですが。違和感を覚えた方には切にお詫びいたします。

A’s、Stsは別のあに……姉貴がエントリー予定。




[17100] キャスト:フェイト・テスタロッサ ~Such a wonderful trash is the world~
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:dffb9f54
Date: 2010/07/24 21:00
 カラダが、千切れそうだ。

 だらりと投げ出した手足。重力だけに縛られ弛緩しきっている、にも関わらず断続的な痛みが走り続けるのは、ついさっきまでずっとこの枯れ木よりも細い手足に限界の力を掛けていたから。疲れを通り越して、もはや激痛しか感じない。

 空にさらけだした腹。消化器も横隔膜も働いていない、そのくせ意識を掻き乱し続けるのは、ついさっき穴でも空ける気なのかと思う程の強さで拳をブチ込まれたから。錯覚なんだろうが、内臓が潰れてどろどろに溶けあっているグロい感触だ。

 呼吸も心拍も淡い胸。生きている証の動作でさえ遠く聴こえる、だというのに蝕む様な疼きを感じ続けるのは、リンカーコアなんていう胡散臭い特殊器官が暴れているから。休憩無しで十時間以上『まりょく』を絞り取っていれば、ストライキも起こしたくなるらしい。

 痛み、痛み、イタミ。

 聞く話によると、本質的に『痛さ』と『熱さ』は似ている。どちらも肉体に好ましくない異変が起こっている事を意味する信号なのだから当たり前で、互いに錯覚するのもしばしば、らしい。

 嘘を吐くな、と言いたい。今俺が絶望的なまでに感じているのは『痛み』と、そして震えるくらいの『寒さ』だ。実際に震える気力は無く、またそんな動きをすれば傷口が開いて余計な苦痛を上乗せするだけなのでしないが。

(あん?――――ああ、そうだった。)

 傷口、そう傷口だ。思考にふと並んだ言葉で思い出す。

 『そういえば、血塗れダルマになる程度には、負傷していたんだったか。』

 痛みの割に能天気に考えていたものだ、とその理由が分かった。同時に、感じる寒さの原因も。

―――血が足りない。

「っ………。」

 こういうのは自覚すると一気にクる。まるで拷問。意識があるだけ続く、だが潜在的な恐怖と刺激信号で意識を落とす事も不可能。もう嫌だ、死ぬのは嫌だ。地獄があるならさっさと落として欲しい。いやこの状況がすでに地獄とやらの臨死体験なのか?

(……本格的に、マズいか?)

 思考の脈絡もどんどん欠け落ちているのに危機感を抱く俺の視界に、ふと黒い影が過った。

 メートル定規と背比べをしなければいけない身長まで『縮んで』しまった俺からすれば巨人と呼んで差し支えない大男。『身体年齢一桁の女の子』を喜悦を浮かべながらこんな状態にした悪趣味極まりないクソジジイ。

「オラ立て、まだ訓練時間は終わってないぜー?」

(、マジ………冗談……………、)

 訓練?『どれだけ死なないかごっこ』の間違…い……じゃ――――――。

…………。

……。

…。

「―――――ッッ!!?」

 跳ね起きた。『あの時』みたいな絶え絶えのじゃなく、贅沢なくらい荒い息。それで精一杯吸い込んだのが肌にまで染み付いた生ゴミの臭いだとまず嗅覚が教えてくれて、覚えたのは安堵だった。

 乱雑に『長いくすんだ金色の髪』に出来た寝癖を抑えながら蹴り飛ばした毛布を丸める。そのまま段ボールとビニールシートで作った寝床を出ると、そこに毛布を置く代わりにコンビニのメロンパンを取り出し封を開けてかぶりついた。

「もぐ……っ、クソ、最悪な夢見たし…。」

 やさぐれた『水樹奈々ボイス』。響くのはビルの壁面・コンクリートに挟まれた限定空間―――所謂路地裏。あまり大きく開かない口で唾液を持っていくもさもさした食感を下しながら辺りを見回す。

 雑多に転がる、種類にもデザインにも統一感の無い物品の数々。申し訳程度の衣服、懐中電灯、歯ブラシ入りの袋、蟲の死骸……。最後のやつ以外は毛布やこのパンも含めてどこかから盗んだか漁って来たものだ。

 そんな中視界の脇で何かが光ったとそちらを見ると、割れた鏡だった。覗けばうまい具合に『少女の顔』が幾つも分身する。俺が見つめるだけ鏡の中から見返してくる無数の『赤い眼』。綺麗だとは思わない。俺にとって、疎ましいものでしかない。

――――もうお分かりとは思うが、『俺の場合』は転生モノの黄金パターンであるところの『アリシアクローンの失敗作に憑依』だった。

 映像アニメ作品『魔法少女リリカルなのは』シリーズ。映画化までされた人気作品で、ネット上で何千もの二次創作も生み出されていた。そんな二次創作小説の中でも主要なジャンルの一つが転生モノだ。もともと分かり易いカッコよさを出せる魔法バトルもので、しかも『おっきいおにいさん』向けで制作されたリリカルなのはは可愛い女の子が大量に登場し、また彼女らが想いを寄せるような男性キャラが存在しない―――だからこその大量の二次創作なんだろうが―――為、じゃあ自分(を投影した主人公)がその世界に行って原作知識を使って活躍しよう、ただそのまま世界を移動だけすると生活とか大変だし現地の子供に生まれ変わってしまえ、という流れで生まれたのが転生モノだ。厳密には憑依と呼ぶべき話もこれに一括りにされている。

 当然の様にそれらの妄想の行き着く究極は自分が原作の可愛いヒロインといちゃいちゃするという幻想なんだろう。それが悪いとは言わない。あくまでここまでの考察は俺個人の見方であり、それに逆説的だが供給があるという事は需要があるという事で、かくいう俺もそんな作品を愛読していたからだ。

 問題は―――そう、問題は。そんな俺自身までもが転生オリ主の仲間入りしてしまった事だろう。

 始まりは、トラックに跳ねられたと思ったら次の瞬間には体が縮み大切なナニかを失った状態で、医療用にはどうにも見えない蛍光色の液体in人体用カプセルの中に浸かってた、などというあまりにお約束なパターンだった。お約束過ぎてテンプレな現実逃避に走る事も出来ずに至極呆気なく現状を把握し認識し対処してしまった。

 頭の中に書き込まれていた知識から転移魔法ですぐさま離脱し―――魔法をきちんと学んだ今ではそれがどれだけ危険だったか解る、下手すれば永遠に次元の狭間を彷徨う可能性もあった―――辿り着いたとある管理世界。そこで俺は、文字通りの第二の人生を生きれるだけ生きてみると決めた。原作介入?どうでもいい。ハッピーエンドが約束されたような妄想の主人公ならともかく、どんなに可愛くても二次元の存在如きに実際に本物の命を懸ける趣味は無い。そんなお気楽な思考をする余裕すらあった。

 俺は当初この世界を舐めていた。腕前があれば犯罪者でさえも、管理局で働くと当然の様な顔をして尉官の地位に居座れる世界だ。多少出自不明の密航者でも生きる術は見つかるだろうし、違法実験体らしい魔力資質もあればなおさら職を得る事すら容易いと何の根拠もなく信じていた。

 その結果が才能ある子供に戦闘方法を仕込み戦力として使い倒す組織に騙されて連れ込まれるという嘘みたいな展開。『人を人として見ない』『弱い奴から死んでいく』そんなマンガなんかじゃありがちの、だがだからこそ最悪な環境に俺は叩き込まれた。

 ゆとりまっしぐら、そんな俺がなんの冗談か白兵戦術・暗殺技術・諜報―――『女』としてのやり方を含めた―――などの物騒で人間の尊厳なんてどこかに置いてきた様な代物ばかりを、魔法の座学込みで来る日も来る日も学ばされ続ける。容赦なんて無く出来が悪ければ、やり過ぎて死んでしまっても構わないという意図が透けて見える暴力が飛んで来る。夜は大抵半死半生の中そんな事に頓着してくれない次の日の地獄に耐えられるように自分で治癒魔法をかけているか、誰かにかけてもらえるものの代償としてロリコン共の慰みモノになっているかのどっちかだった事が殆ど。

 『ふざけるな』『なんで俺がこんな目に』『俺tueeeなんて出来なくても普通に生きられればそれでよかったのに』『原作?助けて欲しいのはこっちだ』『プログラムや気違いのオバサンなんぞの為に動く前に俺を助けてくれ』『もう嫌だ』『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い』『おなかが、キモチワルイ』『汚くて臭くておぞましい――飲みたくない』『ああ、こんなに簡単に人は死ぬんだ』『ひどい』『やめて』『…………殺す』『絶対に殺す』『こいつらを殺して自由に』『そしていつか、』


 幸せになりたい。


………思い出すんじゃなかった。過程を省略する。結局俺は今魔法の隠匿の為に治安組織が手を出し難く通常の三倍近い刑罰を科せられるリスクがあり犯罪組織も活動したがらない、比較的文明が発達し人口の多い管理外世界の都市でホームレス<社会のゴミ>をやっている。いくつか条件に合う世界はあったのに故郷に良く似た97世界の日本を選んだのは感傷だろうか。そして……適当に放浪して居着いたのが『海鳴』だったのは。偶然、なんだろうか。ついこの間、夜空から降り注いだ幾つかの魔力反応を観測したのは。

「……ハッ。」

 軽く笑い声が口から洩れる。だって考えたら笑えるだろう?過程を省略して結果だけみれば今の俺は、『原作知識持ちで過去ポ可能な悲惨な過去(笑)ありでそれによってSランクオーバーの魔導師(笑)で原作開始時期に海鳴にいるTS幼女』なんだから。見事なテンプレ二次のご都合主義。素敵だ。

 素敵過ぎて、吐き気で頭がイカれそうだ。

 思い当たらなければよかった。いや、それはどのみち無理な相談だっただろう。魂に書き込まれているとでもいうのか、この体になってからのどうでもいいことは普通に忘れるのに『前世』の知識は一片の曇りもなく全て引き出せる。アニメ・リリカルなのはのキャラのセリフ全部、見たMADの一コマ一コマから読んだ二次創作の地の文の誤字まで何もかも。そのおかげでいつまで経ってもこの世界がアニメの世界だという認識が無くならないんだから、ある種の呪いだ。

 転生して最初の内はまだどこかで混乱していたんだろう。そして間もなくあの境遇に落とされ、ある意味だがそれから最近までは受けた苦痛からあのクソジジイ共を恨み憎んでいればそれでよかった。だが自由になってホームレスだとしても平穏に繰り返す日々に慣れると、無意識に目を逸らしていた事から逃げられなくなった。

 世界が歪んだ歯車で軋み噛んで崩れ合うジャンクにしか見えない。オリ主たるべきと言われているかの様な整えられ過ぎた俺の環境が、アニメの世界などというふざけた『現実』が。気持ち悪い。なにより、俺が理不尽に受けたあの地獄が予定調和だとしたら。

 間違えてまだ寿命があるのに殺しちゃった俺を転生させた神様なんて奴がいるのならいっそ出て来て欲しい。そんな意味の無い事を本気で考える気分。そんな時だった。

「……………きみはっ?」

 『オリジナル』が、何の前触れもなく俺のいる路地裏に踏み込んで来たのは。

――――ほぼ無意識で隠していた銃型デバイスに手が伸びる。

「……ン…で、お前…がっ!」

「え?」

 頭が真っ白になった。

 溢れるのは『なんでこいつが』という何を訊きたいのかすら定かではない問い。

――――待機モードの変形すら排し、一つの機能に特化した兵器。

 俺の視線の向こうで呆けるフェイト・テスタロッサ。後で冷静になればジュエルシードを探してこんな路地裏に来たんだろうと予測は出来たが、多分俺の問いの答えはそんな単純じゃない。

――――大口径と言うにも大きすぎる銃身の拳銃。

『Guard against her, sir!』

「…っ?……??」

 バルディッシュの警戒を促す声も聞こえてないのか、動こうともしないオリジナル。

――――セーフティを解除すると、儀式魔法によって封印されていた磁場が銃身の中で暴れ狂う。

 震える衝動に反比例して全く正確にオリジナルの左胸に銃口を向ける。まるで見えていないかの様に反応が無い。普通は誰も自分にそっくりな人間がみすぼらしい格好でこんな路地裏にいてしかもいきなり銃を向けてくると思わず、この反応も当然なのかもしれないが、それでもこの鈍さに無性に苛立った。

――――自然界には決して存在しない、圧縮された磁場の中心に超電導魔術加工弾頭が起される。

 こんな奴が。

 能天気な面して石っころを漁ってる様な奴が。

 過去のしみったれた思い出なんぞにしがみつく<しがみつくことができる>マザーファッカーが。

――――トリガーを引く。

 俺より綺麗な手で。俺より綺麗な躯で。俺より綺麗な心で!

 なのに俺と鏡映しの姿で、今目の前に立っている。

――――生物ならば即体内の電流を完全に狂わされてしまう死の磁場に後押しされ、鋼の獣が喜び勇んで飛び出した。

 なんで。

 何で。

 何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で、

『Protection―――、』

「弾ぜろォォッッッッ!!!」

――――音速の壁同様に、無機質なAIが勝手に張った障壁も獣は容易く突き破る。

 そして。

 地平線の彼方まで貫いたレールガンの前に、気が付けば『フェイト・テスタロッサだったモノ』は、跡形も残っていなかった。

…………。

……。

…。

「ここ、か。」

 見上げるドア。見下げる下界。高層マンションの一室の前。『フェイト・テスタロッサ』の家に俺は来ていた。

 ノブを捻り引っ張る。鍵が掛っていた。当然だ。家主は外出どころかもうこの世の何処にもいない。嘘だ。『俺』がいる。

 壊すまでもなく鍵を魔法でさらりと開ける。オートロックは空を飛んでかわした。扉を開けると、殆ど物が見当たらない買ったままの様な、生活感のない空虚な部屋が広がっている。分譲式のマンションを拠点として手に入れて、そのまま早速ジュエルシード探索に乗り出したところに俺と接触してしまった、こんなところか。あるいは生活必需品は使い魔に買うよう指示を出していたのかも知れない。今頃はもう主の死で魔力欠乏になり、後を追っているんだろうが。

「………ふん。」

 彼女らはここでどんな生活を送る筈だったのか。そんな事をちらりと考えたが、無駄な事だった。床に乱雑に置かれた偽造戸籍に住民票、残額八桁に届く預金通帳。死んだ跡すら残っていないオリジナルがこの世界に接点を殆ど持っていない以上、この部屋も含めて全て俺が使っても誰も文句を言わないし、気付きもしない。

 『キャスト:フェイト・テスタロッサ』は俺が引き継ぎ、世界は何も変わらない。

 バスルームに入り、ホームレス生活から襤褸々々の服を着たまま数ヶ月ぶりのシャワーを頭から被る。震えが来る位の冷水が丁度よかった。すぐにガスが働き出し、温水になったが。―――――それに溶ける様に、眼から溢れた涙が混じり始めたが。

「~~~~っ。」

 今なら分かる。フェイトを殺した理由、あの衝動は、ただの八つ当たりだ。

 過去の自分より恵まれた境遇の、望みさえすれば自由が得られるオリジナルの境遇への嫉妬は的外れだし、何より俺が苛立ったのはそんな事じゃない。『魔法少女リリカルなのは』の世界なんていう不自然な環境で、それを象徴する作家の妄想に踊るだけの筈の『原作キャラ』が―――それも、よりにもよって俺と同じ顔のあいつが一番に遭遇してしまった。それが俺にとってどうしようもなくむかついただけの事。

 勘違いしないで欲しいのは、その程度の理由でフェイトを殺した事に泣いてるんじゃない。無関係のガキを殺した程度で動揺する精神なら俺はとっくにあの時代に死んでいる。

 どうしようもなく悲しいのは。泣いてしまう程腹立たしいのは。

 オリジナルを殺し、俺が『キャスト・フェイト・テスタロッサ』に成り替わって致命的に原作のシナリオは破壊された。なのに世界は何も変わらない。

 レールガンの余波で、射線上に居た何百もの命が消えた。オリジナルを殺してから何事もなくここに来るまでにパニックがそこかしこで起きていた―――その騒ぎに乗じもしたが―――し、街頭で覗いたニュースで速報が流れていた。それでも世界は変わらない。

 このクズみたいな世界は厳然と在り続け、俺もそこに存在している。それだけで痛い。

「……ぅ…ぁぁぁ…~~~~っ。」

 水道水のシャワーの中の嗚咽は、やはり世界に飲み込まれ空しく消えていった。




………続編じゃなくて?

………だって結構悩んだけど実際希くんじゃA’sは八神家の事管理局に通報して終わり、で話拡げようが無いし。Stsだって地球には何の害も無さそうだから放置でしょ?

………で、希以上に見方によっては全く同情の余地がないこいつでA’s?

………一発ネタかもしれないけど。いい加減このパターン飽きた?

………飽きた、っていうか、ねぇ?

………奇は正に混じってこそだよ。テンプレTS幼女が絶滅寸前のこの時代に、馬鹿じゃないの。

………っ、今まで語尾は疑問形で続いてたのによりにもよってそこで流れを切るか!?認めない、俺は、非難の多い転生TS幼女でも愛好している。立てよ同志、再びTS幼女に黄金時代を!!あの日の栄光を!!

………もしかしてあんた、――――それが書きたかっただけ?

……………。

 続かない?



[17100] 第六次聖杯戦争………なのか?
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:dffb9f54
Date: 2010/07/24 19:57
「……え?このアザ、まさか?」

「稟様、下がって―――、っ!?」

 再び突如崩れる日常。

「う、わあああぁっ!?」

『お前の望みを言え、どんな望みでも叶えてやる。』

 立ち上がる召喚と契約の光。

「やはりだ、凛。サーヴァントが召喚されている。」

「アーチャー………全くどうなってるのよ!?」

「ミステリーだな。」

 第五次に況して更にあり得なかった筈の第六次聖杯戦争が、

「す、凄い………。近接格闘主体でも他のサーヴァントより一段劣るアサシンとはいえ私よりも強い。勝てるよ、クラウド!!」

「興味ないね。―――行くぞ、ティファ。」

 渦巻く闘志によって加速し、

「く、くくく。頼みますよ、セイバー………いえ、信長公。」

「フン、戯れよ。」

 今、華開く!!

「桜内くーん、お裾分けに来たよ………って、え?」

「わーい、弟くんだ~~~っ!」

「ちょっ、離れて……。あ、純一さんに白河さん丁度良かった、助けてーっ!!」

「なっ、キャスターのサーヴァント!?」

 次々と揃う参加者達。

「アーチャー、あんな。家族に、なってくれへんか?」

「ふふ、喜んで。」

 そして、火蓋が落とされる時が来る。

『ほらほら、殺らなきゃ殺られるよ?』

『男なら覚悟決めんかい!』

『そうだよ良太郎、答えは聞いてない!!』

「あーもう、行くよモモタロス。変身!!」

『Sword form』

「おっしゃあ!俺、参上!!」

「ライダー一つのクラスに、サーヴァントが四騎。しかも一体がマスターに憑依した!?」

「関係ねえな、この拳でぶち抜くだけだ。行くぜ、衝撃のォォォ―――ファーストブリッドォォォォォォォッッッッッ!!!!」

「はっ、上等じゃねえかバーサーカー。俺は最初から最後までクライマックスだぜ!!」

 殺し合いを超えた激突。

「ぃっけぇぇぇぇ―――っ!!」

「くぅ、アサシンはマスターがこんなに………弟くん、逃げるよ!?」

「逃がしはしない。星よ、降り注げ!!」

「………音姉ッ!!?」

 戦いは熾烈を極め。

「なんやっ、アーチャーとそっくり?」

「何のつもり?貴女は何者なの!?」

「ランサーのサーヴァント、真名は高町なのは。これだけ言えば満足でしょ?」

「ふざけないで!高町なのははわたしだよ!!」

「わたしにとってふざけてるのはあなたの存在そのものなんだけどね。正直不快なんてレベルじゃないし、例え世界が変わっても稟くんの為に動く事に変わりは無し。だから刻んであげるよ――――最速の『誓い』<エンブレム>!!」

 少しの可能性の間違いが生んだ、『本物』同士の交錯。

「天下布武、在る已!!」

「アンタがセイバーだと?Ha, no kidding!!魔王さんよ、テメエの時代は終わったんだぜ!!」

「主の為、亡きお館様の為、そして罪無き民草の為、其方を生かしておく訳には行かぬ!!」

 平穏の中から前参加者達も各々立ち上がって行く。

 絡み合う思惑と意志の中、勝ち残る勝者は果たして誰か?いや、そもそも勝者など存在するのか!?

 Fate×リリなの×D.C.II×FFVII×仮面ライダー電王×戦国BASARA×スクライド×舞羽クロス(やり過ぎ)―――――『刀舞う時、天の魔星に桜反る』、乞うご期待!




…………しないで下さい。絶対に連載は無理ですね調子乗りましたゴメンナサイ。

 あと、判んない所は脳内補完か判らないままにしておくのが吉。




[17100] 気晴らしに書いては見たけれど
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:dffb9f54
Date: 2010/07/24 19:59
※ネタばれは特に無い。筈。

※いちゃラブというものを書いてみたかった。なのに。

※栞×駆。やり逃げはダメ、ゼッタイ。

※キャラがたまに壊れる。いつもの事。

※駆はむっつり。異論は認めない。

※ブルマに愛を。スク水も可。




 見えない糸に吊られているかの様に、所々雲掛かった薄明かるい青空に月が浮かんでいる。今にも消えそうな、だけど決して弱々しくない透明な月。

 俺はそれを樹に凭れ掛かりながら見上げていた。

―――もう、あの時の様な邪心と悪意を一つの闇の中にぶち込んで固めた様なおぞましい黒い月を見る事は無いだろう。

 赤い夜が明けて暫く経つ。あの戦いで、俺だけでなく巻き込まれたそれぞれが過酷な現実を叩き付けられ、向き合う事を強制された。

 だけど、その中で得たものも確かにあった。仲間との絆とか、愛する人、とか。

 今俺は綾芽ヶ丘と新綾芽を結ぶ大橋の辺りの公園で彼女を待っている所だった。彼女、というのは文字通りの意味で。

………と、噂をすればという訳ではないが来た様だ。唯でさえ気配の薄い彼女の足音も芝生で小さくなっているが、赤い夜からしっかり鋭くなってしまった感覚がそれを捉える。

「――――お待たせしました。」

「いや、俺も今来た所だか……らぁっ!?」

 いい意味で規則的な、静かながらも芯の通った声。それにお決まりの言葉を返しつつ、振り返った所で目に入った光景につい語尾が裏返ってしまった。

 光を照り返してきらきら輝く長い銀髪の両側面にリボンを絡める様にして一房ずつ纏めたいつもの髪型。名前と裏腹に西洋系の輪郭のしっかりした綺麗な顔。兎を連想させる赤い眼。ここまではいい。

 問題は服装だ。上は伸縮性に富んだ白い生地。その中心に堂々と貼られたゼッケン、書かれているのは平仮名で『しおりん』・ハートマーク付き。下は……ぶるま。ブルマ。BU☆RU☆MA。スク水と双璧を為す女の子に不思議な魅力を与えるつるつるした紺色の萌えアイテム。かつて国中の娘を手込めにしても全く満足する様子を見せなかった王様が忌わの際に王妃がブルマを履いている光景を見て究極の愛を知り、生涯で最も安らかな顔で逝ったというエピソードがあるとかないとか。女の子の体操服はこれでなければならないというのは世界の真理であるという所までその地位を確固たるものにしている千萌(せんとう)服が彼女の荒れという言葉から程遠い繊細な肌の生脚・細腕と互いに引き立たせ合ってしかしメインはあくまでブルマ、ニーソなどの邪道オプションは勿論あってはならないが上の体操服は必須という矛盾を孕んだミステリアスな主役が放つまるで全ての汚れを拒むかの様な艶々の輝きに直視した俺の精神は楽園という高みへとほあああぁぁぁ………。

(はっ、俺は何を!?)

 あまりの衝撃に意識が飛んでいたらしい。その間に何か支離滅裂な事を考えていた様だが恐らく俺の中にいる俺でない誰か―――劫<アイオン>の眼の仕業だろう。おのれヴェラード。

――――おい、待て駆ッ!違うだろう!?

 どこかから焦った様な声が聴こえて来た気がするが気のせいだ。そうゴスロリ魔女っ娘☆、それも邪教シスター系ロリババア混合などという最早化石とも言える道を進んだ男の時代はもう終わっているのだ。ブルマ、ブルマこそは単一にして利便性、機能性、ビジュアル性の三つの究極系にして融合系たる進化の―――、

「………?駆、どうしました?」

「、!!あ、いや。」

 何やら無限ループに入りかけた俺こと皐月駆(さつきかける)を、現れた彼女こと百野栞(もものしおり)が引き戻した。

 そう。彼女こそが、赤い夜の中で俺が想いを交わした女性。

 最初は、無表情で、どこか常識知らずで放って置けない子だった。それが何時から俺の心の中で多くを占める様になったかは知らない。もしかしたら最初から一目惚れだったのかもしれない。

 ただ、ある事情で彼女が誰か男の人と交わらなければならなくなった時、出来ることなら俺がいいと言ってくれた。そしてその時俺は、栞が誰か別の男に抱かれるのがどうしようもなく嫌に思えて、自分の感情を自覚した。

 小さくて、今にも折れそうな儚い栞の躰。大事に大事に、性欲に暴走しかける思考を捩じ伏せ―――最終的には栞の方が乗り気だったものの―――ありったけの優しさを込めて抱いた。

 それは繋がった彼女も感じてくれたのだと思う。以来、赤い夜の決戦を乗り越え、恋人として付き合っていた。

 とはいえ。

 あれからそんなに時間が経っている訳でもない。現に今彼女を待っていたのだってこれが初めてで。俺も栞も言葉にはしていないけど、世間的には初デートと呼ばれるものだろうか。

 幼なじみのゆかを除けば経験の無い女の子と二人で出掛けるという機会に、緊張もしていた。そう、俺だってデートについて語れる様な知識も持っていない。が。

「栞……なんでその格好?」

 そういえばあの時と微妙にデザインも異なるし。

「プロデュースト・バイ・ゆきぽん☆、だそうです。」

(あいつはぁぁぁっ!!)

 空に悪意に満ちた笑顔で手を降っている雪子の映像が浮かんでいるのを振り払い、こめかみに鈍痛がするのを手で押さえる。

 そんな俺を下から覗き込む様に、栞がこちらを見上げていた。

「どうですか?」

 主語の無い問い。だが訊きたい内容は会話の流れと、何より期待に満ちた瞳を見れば判ってしまう。それに対する答えも、思った事を素直に言えばいいので簡単ではある。

「………とても、可愛いよ。」

「ありがとうございます。…………良かった、この様な場合女性は男性が好む服飾を全力をもって装うべきであるとの事でしたので。あなたが気に入ったこれで来て正解でした。」

 間違ってはいない、んだけど。この場合の『好む』は性的な意味ではないしましてコスプレをして来いという意味では断じてないと思う。この妙な所でズレている彼女を、どうしたものか。

 本当の事とはいえ単純な褒め言葉に上機嫌になってふるふると首を振っている栞に抱き付きたい衝動がどんどん湧いてくるのを抑えながら、取り敢えずこれからまず行くべきは当初の予定を変更して服屋だな、というのは考えていた。

――――。

「ありがとうございましたーっ。」

 店員の声が俺達の背を追う様に掛かり、雑踏のざわめきの中に消えて行った。

 俺の隣を歩く栞は先程にもまして上機嫌で、普段起伏の少ない表情が良い意味で崩れている。

「服、ありがとうございます。」

「ん、いや。似合ってるよ。」

「……ぅ。その、嬉しいのですが、あまり褒められると、その…。」

 照れたらしく視線を逸らす栞が今着ているのは、モノトーンのワンピースにひらひらのカーディガン。清楚な雰囲気のそれは彼女の容姿に良く合っていた。

「っ、?」

「あ、その……。」

 ふと何かが触れた手を見ると、栞が躊躇いがちに握っていた。唇が自然と緩む。小さな手を優しく握ると、赤らめた頬が気持ち上向いた。

「ですが、良かったのですか?」

「何が?」

「服の代金です。あなたにとって決して安価とは言えない――、」

「いいよ。喜んでくれれば。プレゼントだと思って。」

 懐が寒くなった事は否定しない。だけど街をコスプレした女の子を隣に連れて(栞の身分は学生だからブルマは正確にはコスプレではない筈だけど、なんか犯罪の香りがするのは変わらない)歩く勇気は無かったし、何より今の栞の上機嫌な姿を見ればお釣りが出る。そもそも栞の私服姿自体が滅多に見れるものではない訳だし。

 納得したらしい彼女はもう一回だけ礼を言うと、手を繋いだまま一緒に歩き続けていた。

「「………。」」

 沈黙が二人の間で交わされる。気まずくはない。栞は口下手という訳ではないが必要ない事はあまり喋らないし、俺も常に話していないと気が済まないタイプではないからだ。というか、俺はこの落ち着いた空気が好きだ。

 対照的な街のざわめき。行き交う話し声や幟が風にはためく音、店頭に流れる歌謡曲など雑多に混ざり合った中に俺と栞の二人分の足音がはっきりと聞き取れる。

 意外に意地っ張りで、顔には出さないながらも歩幅の違いを一生懸命埋めようと歩調を早める栞と、それを微笑ましく思いながらゆっくりと歩く速度を緩める俺。さりげなくしたつもりだけどすぐにバレて、栞が拗ねと嬉しさが半々の視線で見上げてくる。

 繋いだ手の温もりは変わらず。何時しか自然と歩速も同じになって。まるで心臓の鼓動までシンクロしている様な錯覚。ただ二人で歩いているだけの事が、とても幸せ。

 そんな時間が暫く流れ、唐突に終わる。本来の目的地に着いたのか。そう思って立ち止まった栞の視線を追って目に入った看板。

―――アニ○イト

(なんだかなぁ……。)

 そう言えば『図書室には無い資料を探しに行く』とは聴いていたものの具体的な場所は知らなかったな、と現実逃避気味に考えていた。

――――。

「べ、別にあなたの事が好きって訳じゃないんだから……。」

「そんな、栞っ!!嘘だろ!?」

「(………ツンデレは効果ゼロですか)嘘に決まってます。信じないでください。その……、寂しいじゃないですか………。」

「っ!栞ぃーーーっ!!」

…………。

「猫耳、メイド服、銃器―――、」

「し、栞っ?」

「萌えというものは奥が深い。此方はフィギュア、彼方は……。」

「待っ、そっちは同人誌!」

「ご心配なく。私達は世界の都合で十八歳以上という事になっていますから。」

「何の話?」

「さあ。しかし、触手凌辱ですか。駆が望むならなんとか出来なくもないですが……。」

「知らないから!俺はブルマ一筋―――ってまた何を口走っているんだ自分は!?」

…………。

「(店長、あのお客さん達さっきから――、)」

「(何も言うな。俺は今、モーレツに感動している!)」

「(は?っていうか何泣いてんですか店長!?)」

「(馬鹿野郎!これが泣かずにいられるか!!重厚な内なる萌えを抱えつつもそれを表に出せないムッツリ少年。そんな彼氏に健気に応えようと頑張る無垢な少女。この荒んだ世の中で、彼女こそが最後の希望と呼ぶべき存在ではないか!!」

「………っ!店長っ、俺が間違ってました!!彼女持ち氏ねと嫉妬していましたが、あのおにゃのここそが我らの崇めるべき萌え神様なのですね!?」

「うむぅ!うむぅぅぅーーーーっ!!!」

「ってそこの二人!途中からハッキリ聴こえてるぞおい!!」

――――。

「………疲れた。」

 栞に連れられたアニメショップで、ほんとーに色々あって(あの会話はほんの一部だ)。

 ついつい口から零れるくらい疲れてしまったのと栞が大量に買い込んだグッズの関係で一端俺の家に戻る事になって。

 学習机とセットの椅子に凭れ掛かる俺の視線の先、ベッドに座って買った物を開封していく栞がいた。

「なあ、栞。」

「なんですか?」

「そういう知識、どこで仕入れたんだ?」

 問いつつも犯人は一人しかいないだろうなと考えていたら、案の定栞から雪子の名前が出てきた。いつか成敗しないといけないか……?

(あはー。駆先輩じゃ返り討ちが関の山ですよ?)

「………。」

 妄想の声にすら反論出来ない自分がどこか悲しかった。

 でも、結局。

 それに乗って暴走するどこかズレた栞を強く止めないのは、役得だという考えがあるからというのは否定出来ない。

 何より、俺の為に、或いは俺の気を引こうと自分なりに頑張る栞の姿に、『可愛い』『愛しい』以外の感情なんて浮かぶ筈が無い。

 そんな事を考えると顔がにやけるのが止まらない。いけないと思いつつ栞の方を見ると、相変わらずグッズを開封している彼女の表情も緩んでいた。

 椅子から立ってベッドの栞の隣に腰を下ろす。栞の視線は作業をしている手元から動かないが、その横顔は更に嬉しげに緩んだ様に見える。

「なあ、栞。」

「なんですか?」

「今、幸せか?」

 ふと思いついて出た問いに漸くこちらに顔を向けた栞の表情は、はっきりと判る笑顔。

「はい。―――駆が、隣にいてくれるから。」

 そう言うと栞は俺の肩に顎を預ける様にして上目遣いに俺を見上げると、ゆっくりと目を閉じた。

 可愛らしく何をねだっているかなんて分からない筈が無いし、間違っていたとしても今俺がそれをしたくて我慢出来ないから仕様がない。

「愛してる、栞。」

「私も――、」

 すぐに零になる距離。栞からの返事が言い終わる前に唇を塞いでしまった。きっかり十秒―――体感としては永遠とも一瞬とも思える―――その温かさと柔らかさを堪能し、離した。

「………ずるい。私にも最後まで言わせて下さい。」

 どこまでも俺の心を擽る理由で拗ねる栞を、そっとベッドの上で押し倒す。抵抗は全く無い。信頼仕切った腕が肩に回される。期待と熱の籠った視線が全く同質の俺の視線と絡み、離れなくなる。

 今度は話せなくなる前に、か。一言。

「私も。愛しています、駆――――。」

 それ以上の言葉は、もう必要なかった。




<あとがき>

 なれない事はするものじゃないとつくづく思う今日この頃。ぐだぐだでほんと申し訳ありません。

 アニメ放送中なのでネタばれを可能な限り避けようとしたら別にオリキャラでよくね?と思ったのは書き終わってから。口調とか曖昧で変になってるかもしれないし。



[17100] 機動戦士ガンダムDecade
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2010/07/24 20:44
――――これまでのガンダムDecadeは!

「それぞれ別々の世界に九つのガンダムが生まれた。しかし今物語が融合し全てが崩壊しようとしている。」

「Seedの世界……?」

「アンタがディケイド?この世界を破壊するっていう……。」

「話は聞いているぞ!悪魔ァァァッッ!!」

「ジェネシス……、こんなものを、地球に!?ラウ·ル·クルーゼ、あなたは!!」

「妬み、憎み、その身を喰い合う!やがて人は滅ぶ、滅ぶべくしてな!!それが人の定め、人の業。キラ·ヤマト、君とてその一つだろうが!」

「ラクスーーーーっ!!?」

「キラ……もう、撃って悲しむ事の無い様に。撃たれて、悲しむ事……の…何より、貴方自身が……、………。」

「確かにこいつは憎んだ。守れなくて取り溢したものもあったし、友とも撃ち合った。だけど許せた!悲しみを乗り越えて、こいつは優しさの種を蒔いていける。たった一人の、人間として!!」

『Final Attack-Ride...s.s.s.Seed!!』

「それでも、守りたい世界があるんだああぁ―――――っ!!」

――――。

「Ζ(ゼータ)の世界も終わって、今日からまた新しい世界、か。よし、頑張ろう!」

 あれから、何故か成り行きでディケイドガンダムのパイロット、ツカサ·カドヤの世界を廻る旅に同道しているキラは、ふと自分の出身世界での出来事を思い出しながらも拳をぐっと握って気合いを入れた。

 世界が変わっても、自分のやるべき事は変わらない。ラクス·クラインとの最期の約束はまだこの胸にあるし、ツカサだって大切な友人で彼を手伝う事にも異存は無い。

 決意を新たに拠点である光写真館の玄関を開けると、均一で不自然に陰りの無い人工的な光を浴びた。世界が変わる度にその場所にあった病院や喫茶店などと入れ替わる様に出現し、地下には何故かツカサのディケイドガンダムとキラのストライクガンダムの格納庫まである、ある意味魔窟の光写真館。今回はどうも宇宙空間のコロニーに出てきたらしい。

「………?」

 ただ、人工的な自然と家々が並ぶ街の光景に、ふと何処かで見た様な感覚を覚える。生命を拒む宇宙空間にいると思わせない清浄器で綺麗に整えられた空気、遠心力で重力の代わりとしている関係で上を見ると空の向こうに僅かに見える逆しまの街。コロニーなら当たり前の何処にでもある光景で、既視感もそのせいだろうか。

 と、ふと覚えた感覚をそう片付けようとして、写真館から出てきたツカサに振り返り固まった。

「………ぁっ(ぱくぱく)。」

「どうしたキラ。寝惚けてるのか、馬鹿面して。そんな所に突っ立ってると邪魔だぞ。」

「え、えっと、そうじゃなくて!その服は!?」

 茶色の癖っ毛にトレードマークの首から提げたカメラ。無愛想で憎まれ口を叩く様は紛れもなくツカサ·カドヤである事は間違いない。ただ問題は、世界が変わる度にいつの間にか変わっている彼の服装だった。

「………ああ、これか。今いるここは、『プラント』所有のコロニー『アーモリー1』。」

 血の様に赤い、二の腕の部分に軍のマークが縫い付けられた制服。それは、キラが己の世界にいた時に敵対した事がある集団の中のエリートである事を示すもの。

「どうやらDestinyの世界、らしいな。」

 ザフトの赤服だった。

――――。

 世界の破壊者Decade。九つの世界を廻り、その瞳は何を見る―――。

――――。

「この世界は………。」

 カシャ、カシャ。

 コロニー内の町並みを歩きながらツカサとキラ、そして光写真館の一人娘であるナツミ·ヒカリはキョロキョロと辺りを見回していた。

 石灰色の地面にきっちりと区分けされた建物群。雑草一つ無い管理された花壇や芝生。宇宙空間において夜の時間帯を演出する為の街灯。通りすがる市民。何気ない風景だが、ツカサは一つ一つをカメラに収めていく。

 ツカサのトレードマークであるマゼンタのカメラ。だが彼がそれによって『まともな写真』を撮れた事は無い。いつもピンボケな上に歪んだシュールな像しか撮れないのだ。その理由は、彼曰く―――、

「……ふん。ここも俺に撮られたがっていないらしい。この世界も俺の居るべき世界じゃない、という事か。」

「でも、九つの世界もちゃんと消化してきてますし、ツカサくんの世界ももうすぐ見つかりますよ、きっと。」

「どうだか。」

「またそうやって。強がらなくても一応それなりの付き合いがあるんですから、あなたが帰りたがってる事くらいは分かります。」

「ふん。俺の世界があったとしても、俺に見つけられたがってないんじゃないのか、この分だと?」

 ツカサには過去の記憶が無い。そして、幾つもの世界を旅しながらも自分の元いた世界を未だ知らなかった。

 ツカサが旅をする理由は、未来を切り拓くだの変革を迎えるだの宗教にはまってるみたいな口癖の不思議な男に全ての世界の崩壊の危機が迫っていて、それを避ける為に―――詳しい理屈は聞かされなかったが―――自分が旅しなければならないとと知らされたからだけではない。自分が帰れる世界、それを探す目的もあった。

 常に周囲のあらゆる存在全てから緩やかな拒絶の雰囲気ばかりを感じ、自分を持とうとしてもその拠り所の記憶が存在しない。その彼の心境はいかなるものか、負けず嫌いで自分を表に出すのが苦手なツカサだから、想像するしかない。

 そんなナツミの保証の無い慰めを、ツカサは皮肉げに受け流していた。

「それで、Destinyの世界だっけ、ここはどんな所なんだろう。」

 辺りを見回すのも飽きたのか、それとも話が暗い方向に行くのを防ぐ為か、キラがツカサにこぼす。

「見た所僕のいたSeedの世界に似てるみたいだけど。ツカサが着てる赤服といい。」

「……でも、なんかあの世界よりも元気がない気がします。」

 ナツミがざっと見てきた印象をキラに付け足す。それは、今いる『アーモリー1』が工場の様な建物が多く工業用のコロニーだろうがそれにしても通りをすれ違う人達がなかなかいないし、人を見かけても妙に暗い雰囲気だったりピリピリと緊張していたりするというものだ。

 戦時下だったSeedの世界よりも元気が無い世界、というのは穏やかではあるまい。

「それは、こいつの所為だな。」

「掲示板?……えっと、『デスティニープラン進行率57%、進度伸び悩み』。」

「デスティニープラン、って何ですか?」

「そいつの適性を生まれた時から審査して、コンピューターで最適と判断された職業を紹介するシステムらしいな。」

「それの何処が悪いんですか?便利な事じゃないですか。」

「………はっ。ま、なつみかんには紹介でもしてもらわないとちゃんとした職業に就けない危険があるからな。」

「何ですって!?それにツカサくんが他人の事を言えた義理ですか!」

「俺の格好が見えてないのか?この世界のザフトとやらが俺の能力を必要としているだろ。まあ俺に掛かれば出来ない仕事なんか無いからな。」

「またあなたは……っ。」

「まあまあ、二人とも。」

 広報が貼られた掲示板まで近寄った三人はこの世界の特徴について話し始めた。多少脱線気味になったがキラが抑える。

「………で、何が問題なんですか?」

「何が問題、ってまあ、紹介された以外の職業にはどう頑張っても一生なれない事だろうな。」

「「ええっ!?」」

 異世界から来た二人は、ツカサの口からぽろっと出た内容に驚愕してしまった。

 無理もない。職業選択の自由が無い社会とは旧暦の時代もびっくりの身分制社会に他ならない。そこに住む者達が送るのはそれが家系か才能かの違いでしかなく、生まれた時から運命に敷かれたレールを走るだけの人生だ。将来の夢なんて言葉が欠片も存在しない社会を作り出そうだなんてトンデモ政策にも程がある。

「そんなの、無茶苦茶です!」

「それがこの世界のルールなんだろ―――と言いたいが、そう思うのは俺達だけじゃないみたいだな。」

「え?」

「――――例えば、アレとか。」

 突然あらぬ方向を指差したツカサ。その先で、爆発音と共に崩れ落ちる建物があった。

 程なくして、三つの巨大なシルエットが立ち上がる。睥睨する様に辺りを見回すと、それらは散開して各々の凶器を振り回し始めた。

 背中に追った分離独立可能なポッドから放たれるビームや細かなミサイルをばら撒き、空を舞いつつ時に猛禽の様な形態に変形し手足にセットされた爪で緊急に出動した紫の空戦MS·ディンを墜としていくカーキ色の機体。

 トビウオの様なヒレを開閉し、備え付けられたビーム砲や機関銃、矛槍を薙ぎ払いパイロットのいない人形状態のMSや施設を破壊する水色の機体。

 四脚の獣型で地面を駆け巡り、人型で単眼の丸いMS·ザクと切り結んで翻弄する黒い機体。

『ミネルバクルー!カオス·アビス·ガイアがファントムペインの工作員に奪取されました。パイロットは各自出撃して奪還に入って下さい。最悪の場合撃墜も許可されています!』

「………成る程。大体解った。取り敢えず今俺はアレらを墜とせばいいんだな?」

 逃げ惑う市民や右往左往する軍人を見て出ようとしたツカサの軍服のポケットに入っていた通信機から女の子のオペレーターの声が流れた。

 それに一人ごちながらもツカサは大きめのバックルとホルダーを取り出し、ホルダーから抜いたカードをバックルに勢いよく差し込むと真上に放り投げる。

 そして、後を追って跳躍。筋力、というよりは重力が異常を来した様な高さまで辿り着いて一瞬静止した。

『Gundam-Ride...Decade!』

 そのツカサを囲む様に現れる九つの半透明な灰色の影。それは物語として生まれた、『ガンダム』の名を持つ巨人達の虚像。

 それが一つに重なった時、其処には異形とも言えるマゼンタのガンダムが佇んでいた。

 十枚の黒いプレートが並び、内中央の四枚が外側に跳ねて角の様になって構成されている外見の特徴的なマスク。赤紫の、肩から胴、両脚の外側まで覆う厚いバーニア内蔵の可動アーマー。それと裏腹の、俊敏かつ柔軟に動く黒いスーツフレーム。

 そんなツカサの機体·ディケイドガンダムが動き出したのを見届けたキラはナツミと光写真館に戻ってストライクを起動させようと思ったが、ツカサの行きしなの置き土産とばかりに発せられた言葉に動きを止められる。

『ああ、そうだ……キラ、ファントムペインってのはデスティニープランに反発するテロ組織の一つだ。同じように幾つも反対勢力が世界中にいてこの世界の政情は酷く不安定になってる。そしてそれを鎮圧するのがこの世界のザフトだな。』

「………ツカサ?」

『あとそのテロ組織の中でも最大勢力の名前が―――クライン派。リーダーは「ラクス·クライン」だそうだ。』

「――――ッッ!!?」

 比喩無しで、心臓が止まるかと思った。

 キラは覚えている。忘れられる筈も無い。最終決戦でジェネシスにエターナルで特攻を掛け、散って逝った彼女の最期。優しくて、傷ついた時には温めてくれて、間違いを犯しても受け入れ穏やかに諭して。そんな賢者の様でありながら可憐で、また独裁政治で父を失った悲しみも他人と違う忌まわしい出生もを共に支え合いもした。

 大切だった。何よりも。自分の命に代えても守りたかった存在だった。

 はっきり言って、彼女が最後に残した約束とツカサに手を引っ張ってもらわなければキラはクルーゼと同じように世界を憎み壊そうとしていたかも知れない。或いは現実を否定し心を閉ざしていたか。

 幾ら自分の出身と酷似した世界とはいえ、彼女が存在しそれも生きているという予期しなかった事実はまだ浅くない心の傷痕を露呈させた。

――――おそらく、ツカサは問うているのだ。自分はこの世界でやる事をする、お前は別の世界のラクス·クラインを前にどうするんだ、と。

「………っ。」

 答えなど出ない。そのまま蹂躙の限りを尽くす三機に向かっていくツカサのディケイドガンダムを見送る事も出来ずにただ呆然としていた―――。



[17100] まおう が あらわれた!
Name: サッドライプ◆a5d86b40 ID:3546bf84
Date: 2010/11/26 15:35
 旅立ちの日。俺は、使命を帯びて王の目前に跪いていた。その使命とは、人間界の支配を目論む魔界の魔王軍の侵略を食い止め、魔王を倒す事。周囲の大臣や兵士達の視線を一身に浴び、己の肩に掛かった責務に震える。

『えらばれし でんせつ の ゆうしゃ よ!まおう を たおすのだ!』

 簡素で厳かな励ましの言葉の後にそう言って、王は餞別とばかりに兵士に命じて俺の横に宝箱を持って来させた。旅立ちの日、きっとそれは、心に刻み付け離れない初めての相棒たる武器で、僅かな畏れと抑え切れない憧れと共に俺は宝箱を開けそれを手に取り――――、

「なんっで『ひのきのぼう』なんだあぁぁぁぁぁ!!」

――――城門から出た後、思いっ切り地面に叩きつけた。

 ありえねぇよ。『ひのきのぼう』って。そこらの農家の方々から鋤とか鍬をごめんなさいした方がよっぽど強えじゃん。しかも今考えたら周りにいた兵士全員背中に鉄の槍背負ってんじゃねぇか、その支給品すら回して貰えないってどんだけだよ。あのクソ王俺に魔王倒させる気無いだろ。しかもなんだ路銀100円って。子供の小遣い以下だろ。ダイソーですら何も買えねえし。

 てかそもそも何で俺?そりゃご先祖サマは偉い人だったかもしんないけど、俺は下町の一般ピープルよ?剣とか生まれて一度も習った事無いし(あったら自分の剣持って来てるだろ常考)、魔法も才能はあるらしいけど呪文もろくに知らない。そんな俺に何しろってんだ。

 とはいえ、王命として出てしまった以上俺に逆らうという選択肢は無い。国家反逆者になればとっ捕まって拷問した後晒し首とかの地獄の様な惨い処刑が待ってる。

「……けっ。魔物より人間のがよっぽど凶暴じゃねえか。」

 俺に出来る事は妙に悟ったような愚痴を言いながらもとりあえず西の村まで歩いて行く事だけだった。

 そうして気が立った状態で歩いていたせいか、気配に敏感な何かを引き寄せてしまう。

 見渡す限りの草原。その中で俺の近くの草むらがざわめき、中から飛び出して来る、人生初のエンカウント……!

―――まおう が あらわれた!

「……………………はい?」

 俺の見間違いかなー。初戦から魔王って、そんな中坊が自分ではおもしろいつもりで作ったクソネタRPGじゃあるまいしー。いや、最初に絶対ラスボスに一回負けとくって感じのイベントバトル?無理無理無理無理、生き返るって分かってても、いや、何度でも生き返らされるって分かってるからこそ絶対に死にたくない。だからそれもあり得ない。うん、我ながら完璧な理論的だ。さすが勇者な俺、国語力はパーフェクトっ!

―――ゆうしゃ は こんらん している!

 ていうか、俺の見間違いに違いない。まおう、なんてひらがなだからよく見間違うんだよなあはは。まおうじゃなくて実はらおう、って違ぇよ!世紀末覇者とか余計やべえじゃん、せめてカップラーメンの方で……ってそれはそれで意味不明だよ、ある意味一番怖ぇよ!

―――ゆうしゃ は こんらん している!

「………………………………………………………………………………………………………………………。」

…………落ち着け、俺。まずは本当に相手が魔王かどうか確かめるんだ。最近はメッセージログなんてものが見れるから、確認するのも簡単だ。俺の相手がこんなに魔王なわけがない………ってだから俺落ち着けって。ほら、ピッ。

【りれき】:まおう が あらわれた!

「……………。」

 ピッ。

【りれき】:まおう が あらわれた!

「………。」

 ピッ。

【りれき】:まおう が あらわれた!

「……。」

 ピッ。

【りれき】:まおう が あらわれた!

 ピッ。

【りれき】:まおう が あらわれた!

 ピッ。

【りれき】:まおう が あらわれた!

「………………………。」

 ピッ、ピッ、ピッピッピッピッピピピピピピピピピピピピピ――――ッ!

【りれき】:ゆうしゃ は こんらん している!

「~~~っ、だあぁぁぁぁぁっ!!!」

 ピッ。

【りれき】:ゆうしゃ は こんらん している!

……………。

「……はあっ。ホントに落ち着け、俺!」

 此処に至っては致し方無い。そこはかとなく慚愧に堪えず絶望的にやぶさかでもなく(誤用)認めたくないが、俺の初エンカウントは魔王なのだとしよう。

「ねぇねぇ、お兄ちゃん。」

「………っ!」

 急すぎる事態に精神がこんがらがって変人みたいな行動をしてた俺に、何がいいのかころころと楽しそうに笑みをこぼしながら話しかける魔王は、

 ぶっちゃけすごく可愛いかった。

 見掛けと身長は成人なりたての俺より二つ三つ年下くらい。ただ発育がいいのか髪の色とお揃いの群青色のふりふりひらひらしたドレスが二ヶ所ほど膨らんでいる。人と異質なのは短い二本の角と鐵のように光を弾く硬質な翼が生えてるくらいで、他はお転婆なお嬢様って感じで、うぅ。町中で会ったならお付き合いを申し込みたい程なのに。

 いやね、さっき俺魔法の才能あるって言ったじゃん。すると呪文は知らないけどさ、それでも自分と相手の魔力の差ぐらいは分かるんだよ。簡単に言えば蟻と巨人。もちろん俺がアリンコですよ。ぷちっと踏み潰せます。

 だから、次俺が取る行動は決まってた。正確には、本能が勝手に足を動かしていた。

「……くっ。」

―――ゆうしゃ は にげだした!

「あ、待ってお兄ちゃん。」

―――しかし まわりこまれてしまった!

 っておいぃぃぃぃ!!しっかりしろよ俺の足!なにこのあっさり感。駆け出そうと振り返った瞬間目の前には後ろにいた筈の幼女が。魔王からは逃げられないんですねわかりたくなかったです。

 俺は覚悟した。逃げ出した体勢の俺は敵の追撃を避けられない。まして相手は魔王、他にどう足掻いても勝ち目なんかある訳ない。その時湧いた感想は、旅立ったばかりのこんな所でという悔しさでもこんな早くに死にたくないという悲しみでもなく、せめて苦しまずに死ねたらなぁなんて暢気な思いだった。

 ああ――。

「…………………………、………………?」

 あれ?

 いつまで経っても何の攻撃も来ない。恐る恐る前を見ると、相変わらずのにこにこ顔の魔王。

「ねぇお兄ちゃん、わたしお兄ちゃんについてっていい?」

―――まおう は なかま に なりたそうに こちら を みている!

「………いやいや。」

 何で魔王が『なかまになりたそうに』?あり得ない、ってさっきからずっとこのパターンだな。でも仕方ないだろこんな訳の分からない事が急にポンポンと続いたら。

―――ゆうしゃ は こんらん している!

「だからそれはもういいから!」

「っ!ぇぅ、ダメなの?」

 俺の一人言の剣幕を否定にとったのか、じわっと涙を溜めて上目遣いになる幼女魔王。なんかこう見てるだけで罪悪感が湧いて来る。

―――なかま に してあげますか?

  はい
  いいえ

「………勝手にしろ。」

 →はい
  いいえ

「っ!!うん、ありがとうお兄ちゃん!わたしは魔邪顕皇マリスプレーデ、マリーって呼んでね!」

 相手が魔王とか、そんな事は頭から抜けてた。ただ目の前の涙が放っておけなくて、気がつくと肯定の返事を口にしてた。たったその一言だけでマリーはころころと笑顔に戻る。

…………ちくしょう、可愛いしコンチクショウ。

 そんな感じで俺と魔王の魔王を倒す為の旅(!?)は始まったのだった。




[17100] 世界を変革する力☆
Name: サッドライプ◆f639f2b6 ID:88306c04
Date: 2011/02/12 06:47
「貴様は歪んでいる!」

「そうさせたのは君達だ……ガンダムという存在だ!」

 ロックオンが散る。ティエリアが、アレルヤが、トレミーの仲間達が。紛争への武力介入による恒久和平実現の為に戦った私設武装組織ソレスタルビーイングの計画は私欲によって利用され、今滅びを迎えようとしていた。

 確かに自分達を共通の敵とする事で世界は統一への道を歩みはじめた。それを平和というのならばそれもいい。統一された世界を支配しようなどと妄言をほざいた阿呆はエクシアの剣で断罪した。ここまで来たのなら、奴の言葉通り自分達は滅ぶべき宿命の存在なのかもしれない。

 それでも。

 ソレスタルビーイングは、存在する事に意味がある。生きて、戦い続ける。

「ならばその歪み、この俺が断ち切るッ!」

「よく言ったァ!」

 トランザム直後で粒子残量も殆ど無く、武装もGNソードライフルしか残っていないガンダムエクシアを駆り、一騎討ちを挑んで来た擬似太陽炉搭載型フラッグに斬りかかった。

 歪みを破壊しようとして生み出した新たな歪み。相手はかつて圧倒的な性能差を持ったガンダムの存在によって誇りや立場をズタズタにされたMSパイロットだと知る。それでも、だからこそ、彼はただ歪みを破壊する存在であり続けた。武力による紛争根絶を体現する者、『ガンダム』として。

 振りかざしたGNソードがフラッグの片足をもぎ取り、代金とばかりにエクシアの左腕がビームサーベルに切り取られる。構わず降り下ろした剣は相手のコクピットを掠めるが仕留めるには至らず、その隙に頭部にサーベルを突き刺されメインカメラが死ぬ。

 瞬く間の攻防で満身創痍となっていく二機のMS。だが刹那も敵も全く躊躇いを見せずに機体を加速させ、最後の激突を図った。

 緑のGN粒子の光を放つエクシアと赤の光を放つフラッグ。幻想的に見えてその実命を奪うだけの光の粒は交錯しあい、爆発する。

「ガン……ダ…ム……………。」

 そして刹那の意識は、その白い光の中へと吸い込まれていくのだった。

 暖かく、包み込む様に。

 白く。

 拡散して曖昧になる。

 死ぬということはこういうことなのか。『死の果てに神はいない』と言い切った刹那でも分かりなどしなかった。柔らかく、優しく、全て受け入れられる感覚は甘くそして―――、

(それでも俺は、生きたい!)

 死への欲求を拒絶する。死は何も無い。振り払い突き上げた手は何かを掴み……彼の体が抱き上げられた。

 驚いた彼は当然の様に目を開く。眩しい白、しかし人工色だと明らかに分かる光を背景に黒髪の少女が自分を―――いくら背が低いとは言え第二次性徴を半ば過ぎた筈の自分を!―――抱き上げている。

「くす………千冬おねーちゃんだぞ、一夏。ほら泣くな。わたしがまもってやるから…。」

 それはしかし、刹那·F·セイエイが確かに死に、織斑一夏として生まれた瞬間に他ならなかった――――。

――――。

『これで世界が変わると言うのか……。』

 ビルなどに遮られない太陽の光は見てるだけで暑苦しい。織斑千冬は波一つ無い海面に反射するそれを空から眺めながら、そんなどうでもいいことを考え隣にいる変声機を通した相棒の声を何処か遠く聴いていた。

 イルカが跳ね、鴎でも鳴きそうな程のどかな青い情景。ほんの数分前までここが戦場だと―――それもミサイルが何千と飛び交い戦闘機や空母まで参戦した大規模な海戦の現場だと、普通は想像出来ないだろう。

 波が巻き起こす白い紋様の代わりに海面に浮かんだ、無数の鉄屑さえ無ければ。

―――ましてそれらが戦いを挑み全滅させられた敵はたった二機の機動兵器だと、誰が考え及ぶというのか。

 『IS<インフィニットストラトス>』。音速を軽く超える速度で空中を飛び回り、ミサイルの直撃にも耐える装甲とバリアを持つキチガイ染みたパワードスーツ。そしてそのコアにGNドライブ機能などという更によく判らないものを搭載したエクストラステージのIS『ガンダム』。

 というより、ISを作り出した悪友·篠ノ之束と、顔も見た事が無いがGNドライブの構想を束に渡し更にISを凶暴化させた元凶·刹那·F·セイエイ。この二人が織斑千冬の目下の頭痛の原因だった。

 現存する全ての兵器に優越する発明品であるISを世界から失笑と共に拒否されそれを認めさせようと無意味に突き抜けた頭脳を活用しようとした束と、紛争に満ちた世界を変えるなどと言い出した刹那の利害が一致して出た計画。それは、九カ国の軍事コンピュータを束がハッキングで掌握し全戦力を日本に向けさせ、それを悉く刹那が返り討ちにするなどというとんでもないものだった。

 千冬は当初そんな二人の世界を相手にした馬鹿げた悪戯に付き合う気など更々無かった。どうでもいいと思っていた。だが。

『ほんとにいいのー、せっちゃん?ミサイル一発でも撃ち漏らしたら何の罪も無い一般人があぼーんだよ。どーんっ!』

『構わない。ガンダムマイスターのミッションに失敗は許されない。それだけだ。』

『わぉ、自信まんまん勇気りんりんっ!?そんなせっちゃんに痺れる憧れる惚れる濡れちゃう!』

『……?エクシア、光学迷彩起動。刹那·F·セイエイ、ミッション時間まで待機する。』

 こんな通信を聴いて、刹那一人に迎撃を任せるなど出来る筈もない(それを見越して束も千冬にわざとこの通信を聴かせたのだろうが)。束を止める?彼女はやると決めたら絶対にやってしまう女、不可能だ。それにあんな事を言っていても、刹那一人で十分可能な『ミッション』だと束は判断しているのだろう。その判断が信用出来るかは千冬には分からないが。

 こんな事で人死にでも出たら堪らない。気が進まないながらも千冬はIS『白騎士』を纏い、刹那に合流するしかないのだった。

「はぁ……。」

 振り回されて、心労でため息が出る。今日は帰ったら一夏で癒されよう。

 口下手で感情を出すのが苦手だが、そんな彼なりに千冬を精一杯気遣ってくれる不器用な愛弟を思い出して自分を慰める千冬。

 彼女のため息を聞き咎めたのか、刹那からコアネットワークを通して話し掛けられた。

『どうした、千冬?』

「いや、何でもない。それより増援だ、二方面……お前は日本海側を頼む。」

『いいのか?いけるな?』

「誰に言っている。お前こそトチるなよ?」

―――刹那も、悪い奴ではないんだが。

 刹那のIS『ガンダムエクシア』は青と白の西洋甲冑の様な手足と胸部の球形と頭部の二本角が特徴的な全身装甲<フルスキン>タイプ。今は更に巨大な一対のクローとビーム砲頭、ライフルを備えたそれ自体が汎用ISとして機能するインチキ追加装備『GNアームズ』とドッキングしているが、それはさておき。

 ISを脱いだ刹那を見た事が無いから、千冬は『彼女』がどんな容姿をしているのかも知らないのだ。顔はおろか髪の色も年齢の程も。分かるのは千冬より少し大きいサイズのエクシアから割り出せる体格くらい。更にコアネットワークでの通信でさえ変声機?であからさまなアニメ声に聴こえる(絶対に束の趣味だ)念の入れよう。

 怪しいことこの上ないが、興味の無い人間に対しては個人の識別すらしない束の数少ない関心を持つ対象で、今の様に気遣いもしてくれる。ISを操る実力もあり、なんだかんだで千冬は刹那を背を預けられる相棒として信頼していた。

『……了解。GNアーマーType-E<エクシア>、ポイントE-2-Kへ向かう。刹那·F·セイエイ、目標を駆逐する!』

 だから尚更、世界を変えたいという発言が解せないのだが。

「考えてる時ではない、か。奴なりの事情もあるだろうしな。それよりも――。」

 ISの高感度センサーが捕捉する艦影に向かって白騎士を加速させる。死人を出さない様に、特に戦闘機に乗っている相手を確実に脱出出来る様に撃墜するのは面倒だが、刹那もやっているしやるしかない。こんな事で人殺しになるのも馬鹿らしいから、

「―――織斑千冬、白騎士、目標を斬り伏せる!」

 適度に緊張を抜く意味でも刹那の真似をしてみて、まずは空母上の出撃前の艦載機に向けて片っ端から近接対バリアブレード『雪片(ゆきひら)』を薙ぎ払った。




[17100] 世界を変革する力☆そのに
Name: サッドライプ◆f639f2b6 ID:6a2012dc
Date: 2011/02/12 06:51
…ガキンッ!!!

 千冬の雪片が、エクシアのメイン武装『GNソード』に受け止められる。剣身が折り畳み式でバックラーとライフルと一体になったブレードだが、その切れ味だけは雪片を超える事を知っている。千冬は間髪入れずに退避、その鼻先を刹那が左手に持ったGNサーベルが掠めていく。

 時は流れ、IS世界大会<モンド·グロッソ>決勝戦。

 あれから世界は本当に変わった。束と刹那が思い描いた通りに。

 たった一機のISが一国の軍隊を凌ぐ武力であると世界に証明され、その台頭と共に役立たずとなった兵器という兵器が駆逐されていった。それによってISの女性しか動かせないという特性から軍事の中心が女性となり社会も女尊男卑に傾いたのは余談である。

 しかし篠ノ之束は彼女しか作れないISコアの製作を467基で止めてしまう。そして数少ないコアの取り分をめぐって決定的な紛争にならないようGNドライブとISを駆逐するIS·ガンダムの存在を示唆し、各国を牽制した。

 そうなるとISの兵器としての欠陥が不意に浮き彫りとなった。

 ISは数打ちならともかくより強力にするとなると操者に合わせて最適化されながら自己進化する、つまりは『そのコアは世界でたった一人しか使用できない』著しく汎用性に欠ける兵器となるのだ。

 人間は24時間活動出来る訳ではないから、例えば別の国の都市を占領するとしてISに出来るのは相手を降伏させる所まで。いくら一人で軍隊を破壊出来ても、そこを長期間防衛し続けるのは不可能だ。かと言って通常軍備で警戒をしていてもIS一機に潰される。『戦闘』では最強を誇っても、『戦争』ではそれ程の意味を持たないのだ。ISと通常軍備のあまりの戦力差のために。

 前記の理由で、ISの台頭とその絶対数が少ない事により、領土·資源·宗教、少なくとも『場所』を得る為の戦争は取る取られるをごく短期間に繰り返すだけの不毛なマスゲームと化し意味を失った。また他に戦争をする理由は民族·宗教的に相手を殲滅する為のものもあるが、これや独裁弾圧にISを使用した場合その紛争にガンダムで『介入』すると束は発表している。

 やがて世界は徐々に戦争の意味を見失い、無くなる事はないものの争いは減っていく。統一とは別の形の紛争根絶がここにあった。

 そんな中、各国は思惑を抱えながらもIS条約に批准。ISは軍事兵器でありながらその強さを決めるスポーツの役割まで果たす様になっていた。

………本当に余談だが、ISの開発者の出身国で先の事件で『誤作動』でミサイルや軍隊を向けられたという各国に非常に有効なカードを持っているにも拘わらず日本の立場がさして良くない条約なのは、それらによる被害が実質なかったというだけで危機感を持てない平和ボケし過ぎの日本国民と無駄に腰の低い外交しか出来ない時の政権が原因と思われる。

「そしてこの世界大会<モンド·グロッソ>でガンダムが他のISを蹴散らして優勝する。それでお前達の計画はひとまず完了という事か、刹那!?」

 IS条約に基づき開催された、国の威信を懸けて最強のISと操者を決める第一回国際大会。当然出場選手は各国の国家代表なのだが、一人だけ例外がいた。

 それが今決勝戦で戦っている片割れ、『IS発明者·篠ノ之束』枠として出場した刹那·F·セイエイとガンダムエクシア。目的は千冬の言った通り、ガンダムの性能を見せ付け世界に対する牽制という効果を確定させる事。事実これまでの試合で全ての対戦相手を長くとも三分以内に沈めてしまった。

 通常のISのコア·エネルギーでは絶対に間に合わない量の出力。標準弾頭を直撃させても傷一つ付かない装甲。むしろそんなものを相手に、

「しかし悪いが知っての通り私は負けず嫌いだ。優勝はいただいていくぞ!」

『……GNブレイド。』

 真っ向からやり合える織斑千冬が異常なのだ。

 二本の実体剣を交差させて斬り掛かるエクシアに対し、千冬はそれを雪片で受け止める。しかしそれは一瞬の激突。GNブレイドの性能で雪片の刀身そのものを『鋏み切ろうと』したのを本能としか言い様の無い勘で察知し、エクシアの胴体に蹴りを入れる。

 ダメージは当然無く、蹴りの効果は僅かに間合いを離した程度。刹那は崩れた態勢をも利用して体を回転、左から弐太刀目を振るう。白銀の刃が伸びきったままの暮桜の右脚部を襲い、

 犠牲にした右脚部装甲とスラスターを置き去りにして目標を見失う。

「まだだっ!」

 振り切ったエクシアの右腕、その更に外側に瞬間加速<ブーストイグニッション>で回り込んでいた。スラスターの一部を失い態勢を安定しづらく、いつもよりも更にエネルギー残量が減るが、もとよりそのコンセプトから超短期決戦を主眼とせざるを得ないのが今千冬が駆るIS『暮桜』だ。それにガンダム相手に出し惜しみなど、あり得ない。

 右手のライフルを使う暇は無い。構える間に一気に間合いを詰めてガンダムの装甲すら切り裂く刀·雪片を振り抜いてしまえるのが織斑千冬だ。そう判断した刹那は、左手のGNブレイドを千冬に向かって放り投げる事を選択した。

 だが、織斑千冬は刹那の瞬時の判断の更に上を行く。

『な……ッ!?』

「この雪片なら!!」

 体への負担と回転しながら迫り来るGNブレイドを無視しているかの様に、二段目の瞬間加速。首を傾げて猛スピードですれ違った剣に頬を切られながらも―――エネルギー節約の為に絶対防御すら一時的に切っていたというのか!―――刹那に肉迫、

 振り下ろした雪片が、勢い余ってエクシアの左腕を斬り飛ばした。

 その瞬間、会場が、中継を通してその試合を見ていた全世界の人が驚愕の余り沈黙した。

 人型をしたエクシアの左肩から下がごっそりと無くなっているから?違う。確かに試合中の事故とはいえ片腕が切断されるのは十二分に大事なのだが、違うのだ。

 元からエクシアの左腕の中身が無いのだ。

 ISならば身体の動きがイメージ通りになる様に補助する機能があるから、中身の入っていない空の鎧の腕を本物の様に動かすのは可能である。

 しかし―――ならば、エクシアの中身の人は隻腕だった?違う。切断面から機械部品の奥に人間の肩が見える。おそらくエクシアの胴体部に体を丸める様にして入っているのだろう。

 千冬より少し大きい程度のエクシアの胴体部に収まる程度の体の大きさ。ちらりと見える肩の、折れてしまいそうな細さ。

 まさか。

「まさか……。」

 織斑千冬ですら知らなかった、『刹那·F·セイエイ』の正体は、年端も行かぬ子供?

 全ての人が、織斑千冬に一撃を許したからといって刹那が機体性能だけに頼った戦いをしていた訳ではない事は、今までの試合でよく知っている。国際大会で通用する程のIS操縦技術を、その歳で持っているというのか。

 そして、それ以上に千冬は混乱していた。理屈ではなく、内側から込み上げてくる焦りに似た何かに。

 目の前の相手は、正体が子供だったとしてもやはり自分の知る刹那だ。だがそれ以上の何かが、千冬の心臓を煩いくらいに揺さぶり動かす。

 まさか、と。

 彼女は心の何処かで、あるいはそれを理解していたのかも知れない。

 動きを止めた千冬に、刹那は右腕のGNソードを展開し真っ直ぐに突進する。

 愚直なまでに、単純な動きで、だから、

 突き込まれたGNソードを今までの戦闘経験で身体に染み付いた動きで対処する。無意識の内に身体を斜めにしてかわし、流れる様に雪片をエクシアの右目に突き刺してしまう。

 エクシアの―――『刹那·F·セイエイ』の仮面が破壊され、右目から血を流す本当の『彼』の顔が見えた。

 一夏―――!!!??

 やはりという納得。あり得ないという驚愕。愛する弟に傷を付けてしまったという焦燥。何故気付かなかったのだという後悔。

 そんな、瞬時に沸き上がるべき感情が―――しかし、その前に全て淡紅色の粒子に浚われていた。

 一夏と千冬の、意識ごと。




[17100] 世界を変革する力☆そのさん
Name: サッドライプ◆f639f2b6 ID:75f60bef
Date: 2011/02/12 06:55
――――もう、どうでもよかった。

 織斑一夏として生まれ変わった刹那は、時代が彼の生きた頃から三百年も逆行している事に驚きながらも、変わらず紛争の絶えない世界に楔を打つ存在になる事を考えた。『ガンダム』になる事を決意した刹那にとってそれは当然で。

 しかし、『織斑一夏』には家族がいた。刹那·F·セイエイことソラン·イブラヒムの行動の根本には虚像の神を信じ己の家族を無為に手にかけた後悔があったから、その家族を捨てて主義に走る事は、かつての己の行いと重なりどうしても不可能で。その想いは両親が自分達を捨て千冬とお互いに世界でたった一人の家族となったことで更に増す。

 結局このまま千冬と、織斑一夏として平凡で穏やかな人生を歩むことすら本気で考えたのだ。

 千冬を通して知り合った篠ノ之束の作成したIS<インフィニットストラトス>の図面を見るまでは。

 彼には理解出来た。これがかつての太陽光発電システムと同じく世界を変えられる発明品であることが。そして世界でたった三人しか他人を識別しない束が、間違いなく最初のIS操者に千冬を選ぶことが。

 ISは兵器だ。それが変革させた世界においては、最初の操者である千冬の居場所は戦場に他ならない。

 そんな事はさせないと。たった一人の姉を必ず守ると。

 だから一夏は、再び『刹那·F·セイエイ』を名乗ったのだった。自らの為でもなく、世界の為でもなく、たった一人の姉を守り抜く為に。

 ガンダムエクシアに使われていたので『当然』それまで初等教育すら受けていなかったのに必死に勉強して覚えていたGNドライブの基礎理論を、公表しない事と太陽炉を六基以上作らない事を条件に束に提供し、完成したIS『エクシア』のマイスターとなった。

 そして、計画を発動させる。『ソレスタルビーイングの刹那·F·セイエイ』なら絶対に忌避した筈の、自ら紛争を起こしそれを粉砕する―――僅かでも罪の無い人間を危険に曝す歪んだ行為を行ってでも。

 そんな中一夏は正体不明の千冬の相棒として傍で守る一方家では何も知らぬげに姉を気遣う弟を装っていた。いや、装って、というと語弊がある。一夏が刹那·F·セイエイとなったこと自体元は同じく姉を気遣う気持ちなのだから。

 結局計画は予想以上に上手くいき、期せずして紛争根絶すら実現した。ISは各国の思惑はあるものの大部分においてスポーツ化し、もはやISを世界に認めさせるという束の目的も千冬を戦場に置かないという一夏の目的も達成した。

 ガンダムの性能のデモンストレーションは準決勝までで十分だろうし、通常のISに敗北したという事で多少ガンダムの牽制の効果は弱まるとしても、千冬が世界一という栄光を得る事を考えたら許容範囲だ。

――――だからもう、どうでもよかった。

「そうか……。」

 奥行きも何もない、暖かい光に包まれた不思議な空間。居るのは千冬と一夏の二人きり。その中で千冬は何故か一夏の行動の理由を全て理解していた。

「そうか……………。」

 理解する。一夏の想いを、誓いを、そしてその為にどれだけのものを一夏が犠牲にしたのかを。

 人生の支えだった『ガンダム』すら、千冬の為に捨てさせたのだと。

「馬鹿者がッ!!」

 理解して―――千冬は一喝した。

「何故私に何も言わなかった!勝手なことを、私がそんな事を望むとでも思ったのか!!」

「………。」

 想いが全て伝わるこの空間で一夏は無表情で沈黙を保つ。何も伝わって来ない。

 それは、その選択が彼にとって考えるまでもない当たり前の判断だったから。

「………そうか。」

 理解する。

 ああ、この『子供』は愛することはしても、愛されることは知らないのだと。

「馬鹿者が。」

 だから、手を伸ばした。一夏が転生者であったことなど全く関係ない。まだ赤子だった一夏を抱いた時、その温もりが弟だと知った時、自分とて誓ったのだから。

 弟を守る、と。

「その気持ちに嘘などあるものかっ!」

「、姉さ…ん…!」

「お前だって自分の道を歩いてよかったんだ。歩いていいんだ。私が傍で、見守っているから――。」

 初めて動揺を見せる一夏を、抱き締める為に、手を伸ばした。

 あと少しで届く―――、

「…トランザム。」

「……っ!?」

 その前に、二人きりの世界は弾けて消えた。

 結局、二人きりの世界で呆けていた時間は一瞬にも満たなかったのだろう。

 しかし、千冬が現実に回帰したと見るやそれを待っていたエクシアの姿が霞む。

 その瞬間誰にも何が起こったか分からなかった。

 その次の瞬間誰の目にも状況は明らかだった。

 根元から折れた雪片と、それを破壊したGNソードを振り切った体勢のエクシア。

 今まで使って来なかった『単一仕様能力<ワンオフアビリティ>』を発動させたと思われる、その全身の装甲が赤く輝いていた。

(トランザム、か。単純にして最も厄介な、能力値の一時的な飛躍的上昇……!)

 雪片は『暮桜』唯一の武装。それが破壊されたのだから、誰の目にも決着はついていた。

『――――ここに、ガンダムの最強とそのミッションの全完了を宣言する。』

 不意にオープンチャンネルで変声機を通した『刹那·F·セイエイ』の声が流れる。見れば、トランザムの眩いばかりの赤い輝きのせいで一部破壊されたエクシアの頭部の中身が伺えない。刹那=一夏はまだ自分しか知らないようだと判断した。

『現時刻を以てガンダムは一時的に歴史から消失する。願わくば、永遠に。』

 そして不意にエクシアは上昇すると、会場の遮断シールドを紙の様に切り裂いた。

『だが世界に再び争いが満ち、歪む時。俺は何度でもまた現れるだろう。その歪みを破壊する為に。…………そう、』

 一度停止し、全ての人間が仰ぎ見る空で一夏は、

『俺が ガ ン ダ ム だ!!!』

 全世界に向けて高らかに吼え、この世界のどんなISでも追い縋ることも出来ない速さで蒼穹の果てへと飛んでいったのだった。

 残された千冬は……笑った。馬鹿笑いだった。

「くっく……あはははははっはひははははははははっ、ははは、げほっ………はふぅ…………。」

 誰が見ても決着のついた状態で、しかし判定を下される前にエクシアは去った。つまり千冬の棄権勝ち、世界大会<モンド·グロッソ>優勝。夢を追ってもいいとは言ったが、一夏はそれ(ガンダムが全てのISを駆逐するISであると世界に証明するミッション)と千冬に世界一の栄光を渡すことを両立させたのだ。

(私の想いは、届いたらしいな……期待以上だよ。さすが私の弟だ。)

 おまけで降って湧いた様な優勝だが、決勝戦まで勝ち上がったのは純然たる千冬の実力だし、何より一夏の成長に免じて甘んじて受けることにした。

―――ただまあ仕返しに今日はちょっとゆっくり帰ってみるか。

 騒然となる会場を一人平然と見回しながら、生まれて初めてそんなことを考えた。だって。

 絶対に一夏は家で自分を待っていてくれる。

 本当の意味で、そう確信していたから―――――。





おまけ+後日談+嘘予告=?

「ただいま、一夏。高校入試はどうだった?」

「……姉さん、これを。」

「っ、IS学園の合格通知!?それも宛名が『刹那·F·セイエイ』、その上にフリガナでわざわざオリムライチカなどと………!」

「俺がそうであると知っているのは、世界で姉さんと束だけの筈だ。……筈だった。」

「ISを操れるのは女性だけ。万に一つも男であるお前にたどり着かれる筈がないと思っていたのだがな。どうするつもりだ?」

「誘いには乗る。そして出てきた相手が世界の歪みならば、駆逐する。それだけだ。」

「……やはりな。」

「既に束から擬装用追加装備『白式』は届いている。『世界で唯一ISを操縦出来る男』程度の身分で入学する手筈だ。」

「程度って……。まあいい。私もそこの教師だ、何かあったら私をすぐ頼れ。いいな、絶対だぞ。」

「了解した。ありがとう、姉さん。」

 そして一夏のIS学園での物語は始まる。

「……時に俺は寮での生活になるが、この家の家事は問題ないのか?」

「う゛……な、ないっ!」

 始まるったら始まる!!

「篠ノ之菷。」

「っ、………(ぷいっ」

「(関わって欲しくないのか……?ならそうするか、残念だが。)」

――――ファースト幼馴染みとの再会、しかし口下手と口下手で普通に疎遠。

「認めませんわ。こんな島国の野蛮な男をクラス代表にするなど!私はサーカスの猿のおまけを一年など耐えられませんわ、決闘を申し込みます!!」

「断る。俺に受ける理由が無い。」

「あら、理由ならあるでしょう?これだけ馬鹿にされても何も言い返せないなんて、これだから男は軟弱で―――、」

「そんな単純な偏見と底の浅い悪口に一々反応する理由が無い、と言っている。」

「な…、むきーーーっ!!?」

――――突っ掛かっては普通にスルーされる英国代表候補生。

「やっほー一夏。」

「鈴……。やはりお前といるのが一番落ち着く。いてくれてよかった。」

「にゃ!?あぅ、ぇ、い、一夏ぁ~~っ。」

――――コミュニケーション能力不足の一夏にとって唯一の話し相手となる友人なためひたすらクーデレられる転校してきたセカンド幼馴染み。

「一夏!」

「目標を紛争幇助と断定、介入行動を開始する。『白式』擬装解除、GNドライブ稼働開始。刹那·F·セイエイ、『ガンダムエクシアホワイトリペア』、目標を駆逐する!!」

「嘘……一夏があの『刹那·F·セイエイ』っ!?」

――――お約束、これが無ければ厨二を名乗る資格無し、『実はスゴイ正体』バラしシーン。

「シャルルさんは一夏くんのルームメートになるので、お世話も宜しくね。」

「えっと……宜しくお願いします!」

「(俺に続いて二人目の男のIS操者……俺に近付くには絶好の立場。俺が入学して数ヶ月も経たない内になどと時期が良すぎる事を踏まえてもクロ。何が目的だ?尋問も視野に入れるべきか……。)」

――――バッドエンドフラグが立ちました、男装仏国代表候補生。

「……なんのつもりだ。」

「私はお前を認めない、刹那·F·セイエイ。教官が貴様に劣るなどと、絶対にな。私のシュヴァルティア·レーゲンで貴様のガンダムを叩き潰す!!」

――――相変わらずの独国代表候補生、出るか脳量子波テレパシー。

 IS00<インフィニットストラトスダブルオー>続く!…………誰か続けてくれると…いいなぁ………。



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