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実例を知ることと刑事訴訟法の入門として,
2011/2/9
導入で使うと後の勉強が非常にスムーズにいくと思います。
主に第一線の捜査に従事する警察官、検察事務官などに向けて書かれたようです。
捜査の方法についての記述に特色があります。
文章は引き締まっており、判例が徹底的に引用されています。
(ポイント)
1)創作の具体例も豊富。判例は、興味深いものが選んであります。
検察官や警察官が、その経験をもとに、いろんな刑事関係の本を出しています。
そういう本は、しばしば「私の個人的体験では〜だ」式の内幕ものになり、
読む価値がないものが多いですが、この著作には、そういう世俗的な下品さ
はないです。これは特筆すべき長所。
わかりやすさ優先なので、公判で弁護人とやりあうようなものではないですが、
判例と条文解釈をベースにしてあり、それなりのしっかりした書き方になって
います。つまり、読者を子供扱いしていない。これも長所です。
2)実際に担当された事案をベースに説明が進んでいるところもあるようです。
筆者は、埼玉の夫婦殺人事件の公判担当検事として最高裁までがんばったりして
凶悪な難事件をかなり扱ってきたベテランの検察官です。
いまは、あとがきによると管理職です。検事長まで行くかも。そうすると最高裁判事の目が出ますね。
最高裁入りしてもらって、最高裁でも、面白い刑事判決をたくさん書いてほしいですね。
足利事件のときは直接謝罪をしに行ったんだったかな(高井検事正だったかな?)。
どっちだったかな?
たしか複数の検事(正)が直接謝罪に行ったと思うんですが。
新聞では正確に書いてなかった記憶あり。
謹厳ななかに、文中(ひそかに)だじゃれが連発してあって、笑えるところがたくさんあります。
弁護人としてみると、公判担当検事には二種類あって、事前の証拠整理など神経質
なほど細かい検事さんと、核心だけズバッと突っ込んでくる検事さんとがいます。
小技だけのマニアックな感じで、ビジョンがないタイプの検事さんもいます。
この筆者は、小技ももちろん得意だが、核心をずばっと公判で論争するタイプ
でしょうね。
この筆者から指示を受け取る警察官は丁寧に教えてもらえるでしょう。
3)現実的なイメージがわかないという受験生は、この本で、
頭の中に自分なりのものを作るといいと思います。実務はミクロできわめて細かいということを知るべき。
そのうえで、やっぱり、一つ一つの令状が具体的に思い浮かぶような勉強をすべきです。
冒頭に、刑事手続きの流れを書いてありますが、法曹会には「検察講義案」と
いうのがありますから、この本を読みながら、適当なときに、講義案へスイッチ
するといいのではないかと思います。大局を見失わないようにしましょう。
(新司法試験のために)
4)新司法試験は、この本の上に判例と条文の解釈をすこしだけ積み上げておく必要がありますね。
元々、司法試験受験準備のために書かれていないので、学説が書く「まくら言葉」の部分が足りません。
あとは、記憶だけの答案にならないように、自分で、簡単な文章練習をすれば十分です。
普段は、たとえば、前田=池田で勉強をしながら、わからないなあと思うところを
具体例で考えるとどうなるのかな、みたいな使い方をするといいのでは?
秘密録音とか、傍受令状とか、やっぱり具体的に考えないとわかりずらいですよ。
★ 証人尋問は直接出ないといわれていますが、尋問調書を資料として用いる論文問題は
ありうる出題です。この本には警察官への尋問例がかなり詳しく書いてあります。参考になりますよ。
★ 国際捜査は出ません。
★ 証拠開示は出る可能性あり。完全に改正法が浸透しているので、基本的なところがそろそろ出るかも。
時間がある人は全部読めますが、面白そうなところを拾い読みでもいいです。
それだけでも十分に元の取れる、いい本です。
抽象的なばかりの、学者さんの書いたものを、法科大学院や法学部の教科書に
使われてウンザリしている人は、この本を読んだらいいです。
圧倒的な力量の実務家の書いたテキストとはこういうものかと、目からうろこの
はずですよ。
がんばってください。