明窓 :  言霊の力 　駆け出し記者として警察を担当していた時、苦い思い出がある。警察官とどう接していいのか分からずある日、松江署で副署長の机上にあった写真を見て何も考えず「きれいな女性ですね。娘さんですか？」と尋ねた。副署長は言葉を濁した▼後で写真の女性が松江市鹿島町であった若妻殺人事件の被害者と知った。副署長は日々、写真を見詰め、闇に潜む犯人逮捕を念じていたのだった。自らの不明を恥じた▼一昨年１１月、広島県北部の山中で、無残な遺体で発見された島根県立大１年平岡都さん。事件の犯人逮捕に結びつく情報提供を呼び掛ける捜査特別報奨金制度の期限が、２５日でいったん切れる▼報奨金は最高３００万円。島根で初めて制度が適用され、昨年２月から昨秋まで約６７０件の情報が島根・広島両県警合同捜査本部に寄せられたが、犯人逮捕に至っていない▼出雲国風土記の安来郷の条は、猪麻呂のワニ伝承を記す。海岸でワニに襲われ娘を亡くした猪麻呂は嘆き、神々に訴える。すると多くのワニが１匹のワニを囲んで現れ、猪麻呂が１匹のワニを調べると娘を襲った証しが出てきたと伝える。研究者の加藤義成さんは猪麻呂が子を思う熱情を込めた祈りの言葉から「言霊の幸」が信仰されていたと説く▼都さんが巻き込まれた事件をめぐり、断片的でも不審者情報などを言葉にのせて生かしたい。鹿島の若妻殺人は時効になったが、捜査陣は法改正を受け都さんの事件に時効はない構えで臨む。何としても犯人逮捕を実現させたい。（道） ('11/02/05 無断転載禁止) << 相撲生命の危篤　　 宍道湖七珍 >>