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社説:取引所大合併 さあ 日本はどうする

 世界で証券取引所のダイナミックな統合が相次いでいる。ロンドン証券取引所がカナダのトロント証券取引所を運営するTMXグループと合併し、上場企業数世界一の取引所グループが生まれることになった。

 その正式発表から数時間後、さらに大きなニュースが駆けめぐった。ニューヨーク証券取引所などを傘下に置くNYSEユーロネクストとフランクフルト証券取引所などを運営するドイツ取引所が、統合に向けた協議を詰めていると認めたのだ。

 実現すれば、上場企業の時価総額が約1500兆円と世界全体の約3割を占める巨大取引所グループになる。国際的優位性がある印象の両社ですら、現状維持では新興の電子取引所などにシェアを奪われ、収益力も低下するだけ、との危機感を募らせていたようだ。国境を越えた大再編の場外にある日本の取引所は、危機感が十分と言えるだろうか。

 電子化が進む昨今の金融・証券取引では、巨額の投資を必要とする最先端システムの導入が取引所の競争力を左右する。規模の拡大で投資効率を高め、世界の投資家や企業をひきつける必要がある。

 新たな収益源の獲得も課題だ。金融危機後の規制見直しにより、収益性が高いとされるデリバティブ(金融派生商品)取引が、不透明な相対売買から取引所を通じた売買にシフトすると見られている。NYSEとドイツ取引所の統合構想には、こうした成長分野で優位に立とうという狙いもあるようだ。取引所も収益力を増強し、自身の市場価値を高め続けないと乗っ取られる「食うか食われるか」の時代にあるのだ。

 米欧の規制当局による許可が必要で、統合がすんなりと実現するかどうかは不明だが、大再編のうねりがアジアに及ぶのは間違いなかろう。

 実際、動きは始まっているといってよい。昨年10月、シンガポール取引所がオーストラリア証券取引所の買収計画を発表した。韓国取引所もラオス政府と合弁で同国に証券取引所を設立するなど、成長市場で布石を打ち始めている。

 東京証券取引所は年間の株式売買代金で上海証券取引所に抜かれた。アジアでの株式上場を目指す多国籍企業が選ぶ取引所は今や東京でなく香港や上海だ。「アジアの金融センター」を目指し、取引所の活性化を図る努力は日本でも始まったが、変革のスケールとスピードで世界とのギャップはあまりにも大きい。

 低落しているとはいえ、日本はまだ世界第3位の経済大国であり、国内には約1400兆円の個人金融資産がある。それを十分、生かしきれているとは言い難い。戦略の「検討」ばかりではなく行動が急務だ。

毎日新聞 2011年2月12日 2時30分

 

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