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社説:日露外相会談 領土、信頼築き粘り強く

 昨年11月のメドベージェフ・ロシア大統領の国後島訪問以来、国防相ら政府要人の相次ぐ北方領土訪問と、菅直人首相の「許し難い暴挙」発言。これに対抗するかのような大統領の「ロシアの不可分の領土」発言と、北方領土の軍備増強指示--。激しい応酬と不信のスパイラルに陥る中での前原誠司外相のモスクワ訪問、日露外相会談となった。

 最大のテーマは北方領土問題だった。会談冒頭、ラブロフ露外相が首相発言を念頭に「友好的な雰囲気の中で会談したかったが、そうならず残念だ」と不快感を示したのに対し、前原外相は「お互いが知恵を出して乗り越えなければならない問題だ」と述べ、北方領土は歴史的にも国際法的にも日本の固有の領土であると日本政府の立場を強調した。

 一方、北方領土での経済協力については日本の法的立場を害さない前提で議論を進めることで一致した。が、会談後の会見では、ラブロフ外相が中韓両国との協力の可能性に言及し、前原外相は「日本の立場と相いれない」と反対の考えを示した。

 前原外相が、北方領土の帰属や経済開発協力について原則的な考えを強調したのは当然である。しかし、同時に、領土問題解決は極めて困難なテーマであり、両政府のハイレベルの話し合いがなければ前進が期待できないのも事実だ。両外相が「静かな環境下で協議する」ことを再確認したことを評価したい。

 今、求められるのは両国間の不信の連鎖を断ち切り、議論の環境を整えることだ。会談が新たな信頼関係構築と首相の訪露につながるよう、両政府の一層の努力が不可欠だ。対露外交の立て直しが日本政府に必須であることは言うまでもない。

 ロシアにしてみれば、近年、日本の対露政策が手薄になっていることに不満があるのだろう。実際、民主党政権発足後、首相の訪露はなく、外相の訪問も09年12月以来である。12年の大統領選を控えて領土問題で強い態度を示さざるを得ないという事情もあるのかもしれない。

 しかし、北方領土の実効支配を軍事・経済両面で強める行為は事態の悪化しか招かない。冷え切った両国関係が、ロシア側の言動によって引き起こされていることを自覚すべきである。

 会談では、資源・エネルギーなど広く経済分野の関係強化についても話し合われた。交流の促進は日本経済、企業の利益にもなる。ロシアへの一方的譲歩とみるのは間違いだろう。「経済外交」は前原外相の看板であり、領土と経済は対露外交の車の両輪だ。とはいえ、経済関係の進展が領土問題の比重低下と国民に受け取られるようなことがあってはならない。思慮ある対応が必要だ。

毎日新聞 2011年2月12日 2時32分

 

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