【カイロ鵜塚健】市民数十万人が連日参加した反政府デモに“追放される”形でムバラク大統領が11日に辞任を表明したエジプト。歓喜に包まれたカイロ市内は、国旗を振り、歌い踊る市民で、夜通し盛り上がった。花火やクラクションの音が夜空にこだまし、さながらパーティー会場のような光景が夜明けまで続いた。
深夜になっても、国旗を窓から出して走る車やクラクションを繰り返し鳴らす車が幹線道路を行き交う。まるでサッカー・ワールドカップで優勝したかのような騒ぎだ。
デモ開始以降、略奪も発生したため、カイロ市中心部では路地のあちこちで自警団が警戒を続けてきたが、この日だけは緊張感は消え、いすや地面に座り込み笑顔で独裁体制打倒の喜びをわかちあう姿が見られた。
「空を飛んでいるような自由な気分よ」。カイロ市内の旅行会社に勤める女性、ヘバ・ガラルさん(29)は叫ぶように話した。ガラルさんは大学を卒業し、英語とスペイン語を習得したが就職は困難を極めた。「これまでのエジプトは、ムバラク大統領や有力者につながるコネが重要で、私も就職で悔しい思いをした。今後は多くの人に公平な社会を望みたい」と新生エジプトに希望を託す。
独裁体制打倒を支えたのは市民のねばり強さだ。「私たちに武器はなかった。しかし意志があった」と多くの市民が「勝利」の理由を語る。人権団体の調査では、先月25日からのデモで、少なくとも300人が死亡、1500人が負傷している。治安当局に拘束されたデモ参加者は何万人にも上ると推定される。多くの犠牲がはらわれた。今月3日、デモに参加中に理由もなく半日間拘束された薬剤師のガベル・アブドさん(42)は、「今後は本当に民主的な国を望みたい」と未来への強い思いを語る。
会社経営のアフマド・イブラヒムさん(60)は「これまでは何をするにも役所からわいろを要求され、断れなかった。時間がかかってもいい。エジプトの社会は絶対に良くなると信じたい」と話した。
毎日新聞 2011年2月12日 東京夕刊