【東京】トヨタ自動車の今回の世界規模でのリコール(回収・無償修理)による影響は、今後1年間で総額50億ドル(約4495億円)を上回る可能性があるとアナリストらはみている。販売奨励金プログラムと訴訟関連経費に加え、販売促進努力の拡大が背景だという。
トヨタにとって重要な問題は、今回のリコールが同社にとって最大市場である北米市場での自動車販売に、どのくらいの期間にわたって影響が続くかだ。トヨタは遅ればせながら批判に反論するとともに、5年間ローンへの金利を0%とし、リース価格を低めに抑え、同社車種の80%に対し無料整備サービスの提供など、米国で積極的な販売促進キャンペーンを開始した。
1月下旬からのメディアによる否定的報道の激しい攻撃にもかかわらず、トヨタの米国市場シェアは2月には12.7%と、前月の14%を若干上回る水準からわずかの低下にとどまっている。ドイツ銀行の自動車担当アナリスト、カート・サンガー氏(東京在勤)は、「トヨタ(の北米市場シェア)が1月から2月にかけて130ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の低下にとどまっているという事実は非常に目覚しい」と指摘。さらに、「今後はどの程度回復できるのか、また、それにはどの程度のコストが必要となるかが重要だ」と続けた。
トヨタは引き続き、3月31日までの通期決算で800億円の純利益を計上する見通し。前年通期は4370億円の純損失と、同社の59年間の歴史の中で初めて損失を計上していた。
ミズノ・クレジット・アドバイザリーの水野辰哉代表は、年度末までに1カ月を切っており、大幅な影響は予想されないと指摘。ただ、来年度には大幅な影響が出るとみられ、来年度に簡単に利益計上ができるかどうかは判断しにくいと述べた。
トヨタ自身は今年度のリコールによるコストとして、1800億円を織り込み済み。これは同社をめぐる今回の混乱に関して、トヨタ自身が公表している唯一の見通し。しかし、アナリストらはコスト総額は今後、さらに大幅に拡大するとの見方を示している。トヨタの広報担当者は9日、来年度のコストに関するアナリスト見通しについてコメントを控えた。
JPモルガンは、トヨタのリコールに関連する一時的コストは総額で4000億円に上り、訴訟関連コストとしてさらに1000億円を予想している。JPモルガン証券のアナリスト、高橋耕平氏は来年度のトヨタの通期営業利益目標を5400億円と、従来予想の7600億円から下方修正した。
ドイツ銀行は、今回のトヨタの一連のリコールによる営業利益への影響は2900億円と予想している。
トヨタにとっての最大の課題は今後も継続して新規顧客を獲得することで、現在、中立の立場を取っている顧客の取り込みだ。自動車関連市場調査会社、CNWマーケット・リサーチによると、リコール以前にトヨタ車の購入意向があった米消費者のうち7%が現時点では、トヨタ車を購入しないと回答している。
トヨタは一連の販売奨励金プログラムの開始によって、懐疑的な顧客の取り込みを目指している。ドイツ銀行はトヨタによる販売奨励金の平均は来年度上期には2500ドルと、今年度の同1450ドルから拡大すると予想している。しかし、トヨタの販売奨励金はそれでも、現四半期の業界平均である2650ドルを下回っている。