自民党県連から広島市長選(4月10日投開票)への出馬要請を受けていた元厚生労働省中央労働委員会事務局長、松井一実氏(58)は10日、広島市役所で記者会見し、立候補を正式表明した。「地方の時代の先駆けとして、広島を鋼のような存在にしたい」などと抱負を語り、企業誘致による経済活性化や歴代培われた平和行政の継続などを強調。市民の議論を尊重する市政を目指すことを掲げた。
松井氏は東区出身。広島市立基町高校、京都大法学部卒。76年に旧労働省に入省し、厚生労働省官房総括審議官(国際担当)などを歴任。08年7月から中労委事務局長を務め、10日付で辞職した。
松井氏は母親が被爆者という。「先輩諸氏が被爆都市を復興、発展させてきた。より発展させる努力は惜しまない。広島市を力強い存在にするために、私の人生をかけたい」と語った。
「広島市をどうしたいか、グランドデザインをみんなで考えることを根付かせたい。自分がまず決めるのは控える」と基本姿勢を強調。ヒロシマ五輪には「五輪自体はいいことだと思うが、さまざまな意見があると聞いている。自分の判断は白紙」と語り、旧広島市民球場は「街全体をどうするかという問題の中で議論する」、広島西飛行場の市営化は「重要なインフラだが、財政状況を見てから」と語った。
自民党県連は8日の役員会で、松井氏への出馬要請を全会一致で承認。岸田文雄会長が9日に正式に要請し、松井氏は応じる意向を示していた。【寺岡俊、矢追健介】
市長選の投開票日まで2カ月となり、候補者擁立で自民党県連が先手を打った。自民党は過去3回の市長選で推薦候補が秋葉市長に敗れた。前回市長選は、一部の市議が大原邦夫氏(61)の支援に回り、推薦候補の得票は大原氏を下回る惨敗を喫した。保守分裂選挙のあおりなどで市議会は6会派に分裂するが、今回は「一致結束して臨む」という方針を早々と確認。1月下旬、県連が松井氏に出馬を打診した後には、市議団が上京して松井氏に面会し、「一枚岩」を演出した。
中央官僚として国政の与野党が激しく対立する場面を見てきた松井氏は「党派を超えた幅広い支援を求めたい」と語る。同党県連も、その意向に配慮した支援態勢を検討する。旧労働省出身の松井氏は労働界ともパイプがあり、出馬要請に応じるに当たっては、連合の古賀伸明会長にあいさつをしたという。
連合広島が支援する民主党県連は、国政与党として初めて臨む統一地方選。市長選の対応は連合広島と共に選考作業を進めているが、過去に実質支援した秋葉市長の4選出馬を前提にしていたため、出遅れ感は否めない。幹部は「松井氏は自民の色が付きすぎ」と相乗りには否定的な見解を示す。
動向が注視されるのは、豊田麻子副市長(44)。三谷光男・民主党県連代表が水面下で接触した際には、豊田氏は「副市長の職務に専念したい」と返答。しかし、男女共同参画に取り組む市民グループが今月7日、豊田氏に立候補を要請すると、「真摯(しんし)に受け止めたい」と答えた。10日には秋葉市長に近い市議が「2月議会が近い」として決断を促した。この市議は「前向きな返事だった」と語った。
2大政党の間で第3極の存在感を高めようと、みんなの党は企業経営者を推薦候補として擁立する方針を決めている。
過去2回は候補を立てなかった共産党は、市民団体と連携し、擁立を検討中。
市議会では民主系市議と会派を組む社民党は、連合広島と協調する方針。
昨夏の参院選比例代表で、広島市内で6万5000票近くを集めた公明党の動向も注目される。
市長選には、松井氏と、再挑戦を目指す元市議の大原氏のほか、市民団体代表、呉羽山人氏(60)▽市議、桑田恭子氏(49)▽建築コンサルタント、田中正之氏(51)が、それぞれ無所属で出馬を表明している。
毎日新聞 2011年2月11日 地方版