2011年1月9日 2時30分
宇宙から降り注ぐ「ミュー粒子」を使って、地中の断層を撮影することに、東京大地震研究所の田中宏幸准教授(高エネルギー地球科学)らのチームが初めて成功した。日本列島の地下には無数の断層があり、一部は地震を起こす可能性のある活断層だ。地中の断層の調査は実際に掘って確かめるトレンチ調査が主流だが、この方法を実用化できれば、大幅な経費削減が期待できるという。
ミュー粒子は岩盤も通り抜ける素粒子だ。チームは、雨水などは断層の隙間(すきま)に沿って地中にしみ込むことに着目。水を含んで密度が低くなった岩盤を通り抜けたミュー粒子の数を測定することで、断層の有無を判断できると考えた。
観測実験は、日本を東西に分ける大断層線「糸魚川(いといがわ)・静岡構造線」で、10年6月から同7月にかけて実施した。同構造線が走る新潟県糸魚川市内の丘陵地にある既知の断層が、構造線があると予想される線(予想線)とは違う方向に延びていることから、予想線の地下にも未知の断層があると予測。丘陵地のふもとに観測装置を設置し、空から丘陵地を通り抜けるミュー粒子を観察した。
装置を中心に扇形の範囲を観測したところ、既知の断層だけでなく、予想線に沿った丘陵の地中にも密度が低い部分があり、未知の断層を確認できたと判断した。
田中准教授は「装置を設置して観測するだけなら100万円程度。一回数千万~数億円かかるトレンチ調査に比べ格安だ。将来的には密度の変化をリアルタイムで分析し、地震発生予測に生かせるかもしれない」と話す。【石塚孝志】