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[25664] 紐糸日記 StS
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:6f20eee5
Date: 2011/01/28 02:05
1スレ目(A''s編):記事番号4820番
2スレ目(空白期編):記事番号10409番

以上の続きにして、完結編の予定。
不定期更新です。



[25664] 1
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:6f20eee5
Date: 2011/01/31 22:36
 オリーシュは悩んでいた。
 10年近く捜したが、ポケモン世界が見つからない。ドラクエ世界や杜王町や幻想郷や核の炎に
包まれた世界はあったがどうでもいい。ポケモンたちのいる世界だけが、どうしても見つからない。
 探し方が悪いのだろうかと、3、4年前には考えた。だが手当たり次第あたっていく以外に道は
なく、ずっと試し続けてきた。そしてその度にハズレを引いてきた。
 ちょっと危険だが、とあるダンジョンからテレポーターの罠がかかった宝箱を持ち帰り、改造し
てランダムジャンプを実行したりもしたものだ。
 いきなり首と手だけのデスタムーアさんの目の前に出たときは、はぐりんたちが怖がるのでちょ
っとだけ困った。
 握手だけして帰って来られたのは、まぁ運も良かったのだろう。それ以来ランダム転送はできる
だけ控えることにしていた。大丈夫だと思うが、さすがに壁と融合したくはなかった。
 そして、現在。

「なかなかやるじゃないか、運命の神とやらも」

 ことこの手の話題について、オリーシュの辞書は断念の文字がない残念な辞書だった。
 「その辞書、欠陥品だから」と突っ込める人材も、八神家や高町一族、ハラオウンファミリーに
はもはやいない。だっていつもこんなんだし。

「でも俺は考えたんだよ」

 この出だしで始まる話はたまにロクなことにならない。クロノはよくわかっていただけあり、反
射的に身構えていた。
 一昨年はスパゲッティが超進化を遂げ、空飛ぶスパゲッティ・モンスターになって対処に追われ
たような気がする。どういうわけかバリアジャケットからトマトソースの染みがなかなか取れず、
本当に大変だったのは思い出したくない記憶だ。ジャケットに永続してかかる、ある意味で呪いに
も近かった。どう考えてもAMFよりいやらしいとしか思えない代物だった。
 けれども、とりあえず話を聞いてあげる程度には付き合いも長く、ついでに心も広かった。
 これでも一定の確率で本当にイイことをしでかす辺り、宝くじを買うときの気分に似ている。

「ポケモンがいないのなら、自分で作ればいいじゃない」
「良くない。そもそもの話、法律がだな」
「足掛かりとして管理局にジムリーダー制を導入したしな。リイン倒せたらSSSランクで」
「あれは君の仕業だったのか」

 人の話を聞かないのもいつものことで、もう慣れた。
 慣れるまではたまに頭が痛くなったりもしたが、流し方を心得ると気分的には非常に楽だ。
何も考えなくていい。

「まぁジムリーダー制はともかく、作るのは無いか。さすがにそこは判ってますよ」
「全くだ。こと生き物が絡むと、君の作るものにはろくなものがない。空飛ぶスパゲッティとか」
「ノンフライ麺はあるから、今までに無い奇抜なフライ麺を作ってたら勝手に飛んでった」

 ふざけた話であるが、悲しいことにこれが事実なのだ。なんともやるせない気分になる。

「そして去年は、人間サイズのカキフライが芋虫のように地を這ったな」

 その姿は正しく、地を這うカキフライ・クリーチャー。
 巨体から滴る高温の油とタルタルソースは、トマトソースどころではないインパクトがあった。

「世界は牡蠣の炎に包まれたんだ」
「君を衣に包んでカラッと揚げてやろうか」

 実際にやってやりたい衝動に駆られながらも、クロノは耐えた。彼に悪気がないのはわかってい
たし、被害と言っても自身のバリアジャケットの他には、彼のアトリエがタルタルソースまみれに
なった程度だ。自業自得である。
 報酬のマジックアイテムも、地味になかなかおいしかった。これだけを見れば単なるギブアンド
テイクだが、それだけの関係ならここまで長続きはするまい。
 そんなことを考えるたびに、不思議な友人だと、クロノはいつも思うのだ。

「まぁしかし、希望はあるんですよ」

 自信に満ちた顔を見て、ほう、とクロノは小さく返す。

「とある世界でワープゾーンを見つけたんだ。なんでも、人によって行く場所が違うとか」
「行くのか」
「行く。帰り道は消えるらしいが、ふくろがあれば大丈夫。行ってみる価値はある」
「わかった。行くまでのナビは任せろ」
「バリバリー」
「やめろ」

 この時クロノは、全く心配していなかった。
 警戒心が皆無とはいえ、この男はベテラン冒険家。護衛には地上最強の生物はぐれメタルを筆頭
に、そこかしこで仲良くなったモンスターたちが、魔物パークにもわんさかいる。
 しかしその安心感が、逆に一番危険だったのである。あらかじめ気付いていれば、気を配ってい
れば、あれほどの事故は防ぐことができていた。
 あの初歩的な、致命的な事故を。
 防いでいた、はずなのだ。





「キメラの翼がない」

 こうして彼は大学を欠席した。
 ついでにStSにも遅刻した。



(続く)



[25664] 2
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:6076d7a3
Date: 2011/02/04 02:23
「あ……新しいページが……現れた……ゾ」
「なのはとフェイトとはやては、魔法生活にかまけすぎて……!」
「単位が足りなくてリタイアだァァ――――z________ッ!!」
「ウケ ウケ ココケッ ウコケ コケケ ケケケケケ ウココケケッ コケコッコッ」





 女性から取り上げた本をひとりの青年が朗読する奇妙な夢で、キャロはようやく目を覚ました。
 眠い目をぐしぐしこすり、アトリエの主人が見つけてきた、年代もののランプに灯をともす。
 昨晩長い間探し物をしていたのは覚えているが、どうやら見つけたら見つけたでそのまま寝てし
まったようだ。その直後から記憶がすっぽりと抜けている。そのくせ夢だけはよく覚えているのだ
から、人間の記憶は不思議なものだ。
 新しいページとやらに書いてあった3人が肩を組み、満面の笑顔を浮かべながら、

『びっくりするほどラフレシア! びっくりするほどラフレシア!』

 と踊り始めたあたりから夢だと分かっていた。ただ途中から登場人物が替わって、夢と現実の境
界がだんだん紛らわしくなっていったような気がする。
 夢の中くらい静かにしていてもいいのにとしみじみ思う。現実で大人しくされたところで、頭が
悪いのか頭がおかしいのかどちらかにしか思わないのだから。
 間違えた。両方だ。

「こんな立派な鍋があるんだから、馬鹿につける薬を開発すればいいのに」

 何を煮込んできたか気になる大鍋は、釜戸の上で放置されたまま。訳のわからないトマトソース
を作るくらいなら、そういう用途に使った方がよほど実用的だ。
 数年前にこっそり開いた「オリーのアトリエ」は、今は使う者は居ない。こうして顔を出してい
るキャロでさえ、置いてあった荷物を出掛ける前に取りに来ただけだ。
 外に出てみると、辺りはまだ薄暗かった。起き出すには早い時間だったらしい。普段は野良狼や
野良スライムや野良恐竜がうろつく秘密のアトリエのまわりも、まだ生き物の気配らしいものはな
かった。
 主人を失い、放り出された隠れ家は静けさに包まれている。山の中にあることも相まって、どこ
か物寂しさを感じさせられた。――見知った部屋はこんなにも広かっただろうかと、キャロが疑うくら
いには。

「さて……よいしょ、と」
 昨晩のうちに探しておいた荷物を背負い、きゅるる、と寝息を立てる相棒を起こす。
 思い起こせばこの部屋で「適当な石与えたらマムクートになるんじゃね!? 見たい見たい!」
とか訳のわからないことを話したような記憶がある。今となっては懐かしい思い出だ。

「じゃあ行こうか、フリード」
「きゅっ、きゅるる!」
「え? 私宛ての宝箱をみつけた?」
「きゅるるる、きゅる」
「50ゴールドとこんぼう……アリアハン王の真似事ですか。書き置きして、貰っちゃいましょう」
「きゅる!」
「『全部換金してやります。ざまあないですね、ふ、ぁ、っ、き、ん』……と」
「きゅる!?」

 ここに居ない彼とは数年前に出会った。以来たまに行動を共にし、そうしてトラブルに巻き込ま
れてはふぁっきんふぁっきんさのばびっちと罵った仲だ。
 時空管理局の魔道士ランキングの一部に、ジムリーダー制が導入されたのが3年前。設立されて
から多くの魔道士たちの頭上に豆電球を点してきた、「はぐりん道場(ひとしこのみお断り)」の
運営が始まったのが、今から2年前のこと。
 その両方にこっそり関わっていたのだと、やり遂げた男の顔で言ったのを思い出す。自分が楽し
いと思ったら、即断即決即行動。やることは突拍子がなくて思考は完全に斜め上だったり下だった
りだが、その思い切りの良さはキャロも嫌いではなかった。何も考えていないだけだとしても。
 少し前にあの人が消えたと聞いた時は、それは確かに驚きはしたけれど。でも広い広いこの世界、
そのうち会うこともあるでしょう。
 それまでに自分の世界を広げておこう。と、そんなことを考えながら。
 キャロはフリードリヒの背に乗って、迎えのフェイトの下へと飛び立った。機動6課が、待って
いるのだ。





「お久しぶりです、フェイトさん」
「キャロ! 元気にしてた?」
「そこそこです。……フェイトさん、前から気になってたんですけど」
「どうしたの? やっぱり、新しい場所に入るのは心配?」
「いえ。フェイトさんたちのことです」
「え? 私の……いいよ、何でも聞いてっ」
「部隊と大学って両立できるんですか?」
「うん……Sランクの枠を1つ、なのはと私とはやてで、3交代シフト制にすることになって……」

 この部隊大丈夫かなぁ、とキャロは思った。



(続く)



[25664] 3
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:6f20eee5
Date: 2011/02/04 02:26
 ミッドチルダ郊外の静かな街に、八神家が間借りしている部屋がある。
 管理局の業務に関わっていると、地球に帰るには遅い時間になることもある。そんなこともあろ
うかと用意してあった、八神家のささやかな拠点だ。
 「オリーのアトリエ」は多くの者が頻繁に利用するものの、あれはミッドチルダとはまた別の次
元世界にある。管理局の仕事の本拠地にするのに適した立地とは言えない。ミッドチルダを経由し
て他の世界に飛ぶ時なんかにも、そちらではなくよくこの部屋が使われてきた。
 その一室が、今朝はいつになく騒がしい。

「り、リーゼさんたち、先週完成した資料、見覚えはっ」
「ちっちゃなカードに移動してたよね。どれかは知らないけど」
「あっ……あ、あった、これだ! 印刷機、印刷機は……あれ?」
「こっちは全部デバイス経由で表示できるだろ。地球のシステムと混同してないか?」
「そ、そうだった、よかった……なら今のうちに、自己紹介の練習を……!」
「落ち着きなさい。原稿が上下逆さじゃない」
「はくさい!」
「それは夕飯の買い物メモだ馬鹿」

 なのはが資料を揃え、本棚から本棚へとあわただしく動き回っていた。それを気持ち手伝いなが
らも、リーゼ姉妹とヴィータは比較的まったりしたいつもの調子で、のんびりと自分の準備を進め
ていた。

「どうしてそんなに余裕なんだろう……」
「あたしはもう準備済んでるし」
「教えるのは私たちじゃないから」
「あくまでも補佐だから」

 昔取った杵柄。以前はクロノやなのはたちにも、魔法を教えていたことがある。
 機動六課の目標としてとある目的を果たしつつ、同時に後進を育てていくことが本線となった際、
補佐に立候補したヴィータ以外にも、グレアムを経由してリーゼ姉妹に話が舞い込んだのだ。同じ
くなのはのサポートという名目で。

「教育実習生を見守る教員ってこんな気持ちなのかもね」
「それにしても、この子が教える立場にねー……ついこないだまであんなだったのに」
「うう、き、緊張する……昨日はぜんぜん寝られなかったし……」
「大丈夫だって言ってるのに。バックアップは万全なんだから。私たちもいるじゃない」
「まさに猫の手を借りるってわけだな!」
「カナヅチは黙ってなさい」

 とはいえ、補佐はあくまでも補佐。教わる新人たちのためにももしもの時はサポートに回るが、
差し出がましい真似はしないようにと申し合わせてあった。それがなのはのためでもある。
 学校に通いながら管理局に勤め続け、魔導師としての経験を積み続けて10年近く。ユーノに手
を引かれ魔法を手にしたなのはは、後進を導く戦技教導官を、いつからか目標に掲げていた。勉学
との両立を図った結果時間はかかったが、ようやく取得できた憧れの資格だ。
 機動六課はそれ自体が結成の目的を持つが、管理局内で意見に上がってきていた新たなシステム
を取り入れた、実験部隊という意味合いが強い。
 そのため教導官のなかでも、リイン道場(一見様お断り/魔法攻撃はともかく物理攻撃の苛烈さ
ははぐりん道場の比ではない)を長く利用し続けてきた経験を持ち、某米のアルカナ契約者に連れ
られて様々な世界を見てきたなのはに白羽の矢が立った。
 しかしなのはは資格を取って間もない。技術はあれどまだまだ慣れていない部分も多く、機動六
課の新人たちのランクは、なのはが受け持った中でも最も高かった。
 もともと責任感は強い性格だったが、そのため逆に神経質になってしまっているのが現状だ。新
人のスカウトははやてが行ったため、今日が初顔合わせなのもプレッシャーに拍車をかけている。

「……学級崩壊」
「ひ」
「不良少年」
「うっ」
「モンスターペアレント」
「うああっ……」

 新人たちの保護者なんてフェイト・テスタロッサとゲンヤ・ナカジマのたった2人、かろうじて
ギンガ・ナカジマを含めてめ3人しかいないのにどうしたのこの人。
 しかし悪戯好きな猫姉妹+遊び好きなヴィータとしては楽しいだけだ。こうも反応が素直だと、
ついつい顔がにやけてしまう。

「反抗期」
「ひきこもり」
「不登校」
「……やめなさい、3人とも」

 調子に乗って弄り続けていると、様子を見ていたグレアムが嗄れた声でたしなめた。

「グレアム提督……」
「不安はわかるが、心配し過ぎは良くない。出来るものもできなくなってしまう」
「それは……でも」
「そういったものから解き放たれた人間を、君は見てきたのではないのかね」
「アイツは解き放たれすぎだけどな」
「もう少し縛られるべきよね」

 その考えは共通していたらしく、姉妹もヴィータもうんうんと口々にうなずいた。
 グレアムの言うことはもっともだが、今は居ない彼についてはまるで参考にならないとなのはは
思った。「黄金のチャーハン探しに行く」と言って東に飛んだかと思えば、「フライパンが時空の
狭間に飲み込まれて過去の遺跡に吹っ飛んだ」と訳のわからないことを口にしたりするのだ。言っ
とくけどそれ次元震だから。それに遭遇して平然と帰ってくるってどういうことなのあの人。
 しかし。あの自由奔放さを考えると、気持ちはいくぶん軽くなった。
 いまの彼と、対して機動六課が置かれている状況とを考えると複雑だ。だがそれでも気分が楽に
なったことにかわりはない。ここにいない人間に元気づけられるとは、と思うと正直なところ不思
議な気分だけれども。
 緊張は抜けきっていないが、先ほどまでのプレッシャーは取れていた。
 ぱっと顔を上げ、なのははグレアムに礼を言ってから、「先に行ってます!」と明るく元気に駆
けて行った。





「……それにしても、まさかじいさんに指揮される日が来るとはな」

 なのはが出ていった後、ヴィータはぽつりとこぼした。
 おや、とグレアムは振り向いて、「不満かね」と小さく笑う。

「別に。てっきりはやてが隊長やると思ってただけだ」
「あの子は世の荒波に揉まれるには若い。その点、この老いぼれは相応しいだろうよ」
「……」
「方針と支援はこちらに任せて、好きにやるといい。細かい部分は現場の君たちに任せる」
「そうかい」

 部隊の頭を務める話が持ち上がったときは、さすがに躊躇したものの。
 老いて朽ち果てる前に、遺せるものがあれば。はやてに何かしら、見せられるものがあるのなら。

「過労死すんなよじーさん」
「あと20年は生きる」
「へっ。言うじゃんか」

 仇と恨み、憎んでいた相手と、こうして手を取り合うこともある。
 それを60以上もの年を重ねてからようやく経験するという事実に、グレアムは世界の縁の数奇
さというものを感じずにはいられなかった。



(続く)

############

「高町なのはです。これから1年間、皆の教導を――」
(おお……こうして見ると、仕事のできる女にしか見えないんだが)
(そりゃそうよ。この子これで、今までけっこう結果出してるし)
(あ、でも手が隠れてぷるぷる震えてる)


 じいちゃんの資料(年齢とか管理局の定年とか)探してたのにどこにも書いてなくて泣いた。
 紐糸的にはたぶんこうなるハズなんです。ポジション的には不動GEN……いやなんでもない。


2/4 2:25 修正入れたら上がっちゃったかもしれない。ごめんなさい。



[25664] 4
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:6f20eee5
Date: 2011/02/08 09:46
「これだけやって手がかりゼロなんか。ったくもぉ、何処に行ったやら」
「『ポケモン世界で持ち物を持ち換えたらバグった』なんてことでなければいいんですけど」
「シャマルは一昨年それで灰になっとったよな」
「最新のゲーム機であんなことになるなんて……あれはもう死にたかったです……」

 機動六課の当直室は、基本的に常に人がいるようになっている。朝の間はなのは、昼から夕方に
かけてはフェイト、夜ははやて。訓練がない時間帯にはそれぞれが詰めているのだ。
 大学生活との両立を考えた結果であるが、突然の事件にも24時間対応できるので案外賛同は得
られた。後から知ったことだが、救急などの現場ではさほど珍しくもないらしい。
 とはいえ、今はまだ出動が求められる事態は起こりそうもない。ないから、書類仕事を済ませた
らぐだぐだと管を巻く。
 はやての他にも様子を見に来るヴォルケンリッターやリイン姉妹、暇を持て余した猫姉妹や仕事
を片付けたグレアムまでもが、夜間も時折足を運びんでいる。その時はたまたまシャマルが、昼間
行った広域探知魔法の結果を報告していた。

「もうこうなったらいろんな次元世界で、片っ端から魔力ブーストしたレミラーマ使うしか」

 彼の残した不思議なアイテムは、役に立つものもあれば全く役に立たないものもある。
 最近の作品である「帰ってきたいのりの指輪 Mk-2」は前者だ。以前改造したいのりの指輪に加
え、台座に希少な素材を導入することにより、使用者の意図したとおりの魔力ブーストを可能にす
るという逸品だ。
 詳しい原理は作った本人にもわからないので、量産がきかないのが欠点である。

「宝扱いですか……反応しなさそうですけど」
「たしかに宝箱に入ってても、インパス唱えると青く光らなさそうやな」
「敵なら赤ですけど、何色に光るんでしょうか」
「どどめ色」

 何色だ。

「あーもお! モンスター図鑑に登録しとったら居場所が生息地扱いされて出るのに!」
「そんなまたスイクン探すゴールドさんみたいな……」

 口を動かしながら手も動いているのは、この数年で身につけた技術だ。下らない話をしながら、
書類を片付け、ゲームボーイアドバンスを操作……はさすがにしない。勤務中なのでそこは我慢で
ある。
 八神家も時代の流れには逆らえず、旧き良きゲーム機にも世代交代の波が押し寄せてきていた。
ゲームボーイはアドバンスへ。64はキューブに。プレステはついにプレステ2になった。驚くべ
き進化と言えよう。

「帰ったら今年の大河ドラマ『赤頭巾 茶々』を録画しとかんと。楽しみにしとったし」
「『NHKがついにふっ切れた!』って嬉しそうにしてたのに……本当、どこ行ったんでしょう」
「大学の進学手続きは済んどったからええけどな。久々に同クラスになったと思ったら……ったく」
「ふふ。はやてちゃん、寂しいですか?」
「シャマル後で埋めたる」
「そんなぁ!」

 たらたらと話しながらも、はやては考える。
 彼の安否そのものについては、あまり心配していなかった。
 いつもどこかをふらふらと冒険していたし、長い休みには何日も家を空けることもあった。「ア
トリエつくる!」と言いだして、夏休みに山にこもっていたのはまだ記憶に新しい。
 完成した途端にキャロに「御苦労さまでした。今日からここはルシエのアトリエです」と乗っ取
りを宣言されていたのには笑ったけれども。

「……早く帰ってこんかなぁ」
「ですね」

 そのうち帰ってくるとは思う。あれだけ大学生活を楽しみにしていたのだ。しかもなのはと続け
ている試験対決を考えると、少なくとも定期試験までには戻ってきているはずだ。
 ただ事情が事情だけに、それではマズいのだ。

「見つけるまでに鍛えに鍛えたイーブイパーティーでべこんぼこんにしたるわ」
「最近負けが溜まってますしね」
「5回勝ち越したら『なのはとひのきの棒・おなべのフタ装備で模擬戦させる』ってゆーとったし」

 あの男を見つけなければ。そして、あの予言の真意を確かめなければならない。オリーシュをヴ
ィヴィ太郎に会わせてはならないという、その予言の正体を。





「また魔改造されるってことでしょうけどね」
「可能性大やな。まさかの性転換とかになってたら笑えへんわ」

 後のヴィヴィ男さんである。



(続く)

############

赤なのか茶なのかはっきりしろNHK、とザフィーラは思った。



[25664] 5
Name: しこたま◆b2ee5f7a ID:9fcff5af
Date: 2011/02/10 13:31
「*やみのなかにいる!*」

 オリーシュは薄暗い空間をさまよいながら、自分の置かれた現状を端的にそう表現した。
 はてさてこの状況になってから、何日が経過したかは定かではない。行けども行けども洞窟が続
き、太陽の下に出られる気がしなかった。ランプの明かりに照らされた洞窟とおぼしき空間は、い
まさっきの声が反響して四方八方から聞こえるばかりだ。

「おお、そっちか。よくわかんないけど行ってみるか!」

 後ろをゆるゆるついて来ていた3匹の魔物たちが、声の反射をたよりに行く手を示す。音の響き
方から、先へと続く道がわかるのだ。長年の冒険で得た能力は、こんなときに役に立つ。

「スバルを相手のゴールにシュゥゥウウ!! ……あっちか! あっちなのか!」
「?」
「いや、スバルは青髪のやつ。ゲバルじゃないから。髪で三半規管とか壊せないから」
「……」
「スバル投げて遊んでもいいのかって? ああ、まぁ、いいか。スバルは投げ捨てるもの」
「……?」
「ティアナの趣味は違うよ。たぶんスバルを踏むことじゃないかね」

 超! エキサイティングな会話を連れのはぐれメタルたちと交わしつつ、オリーシュは進む。遭
難したら動かないのが鉄則だがそんなことは関係ない。食料はあるし、体力もある。ただし自重と
いうものがなかった。最悪だ。
 それにしても、広い洞窟だ。
 もうかなり歩いたし野宿は何度もした。どうやら水も流れているようで、時々川のせせらぎも聞
こえてくる。
 一度死ぬ前はよく秋の山なんかに出かけたりしたのでわかるが、どうやらどこかの山岳地帯らし
い。火山だったら野生のドラゴンがいたりするのでまずいなぁと思っていたが、今のところそんな
ことはなかったのは幸いか。

「帰りたい 帰りたいのに 帰れない」

 さてこうなると、さすがに帰りが心配だ。
 10年ぶりの大学生活なのですっかり忘れていたが、大学の講義は履修の希望を届け出ないと受
講したことにならないのだ。こればっかりははやてに託せない。残念ながらそういうシステムでは
なかった。

「なのはを差し置いて……留年だと……?」

 末代までの恥である。末代どころか一代で終わる可能性も大だがとにかく恥だ。中高のなのはは
勉強も本腰を入れて頑張っていたのだがそんなことは関係なく、彼の中のなのはは頭が良くなって
もずっと変わらないままだ。
 実際のところは、

「そう扱うとなのはがもっと勉強するみたいだし」

という桃子さんの言葉もあってのことだが。そろそろやめようかなと思ったこともあったが、本人
もあんまり嫌がってなさそうだし。
 それはさておき、出口だ。出口がない。洒落にならない。これは困った。

「『なのはを留年させる方法』……ああちくしょう! 電波届かねえ!」

 グーグル先生に尋ねようとしたが、残念ながら携帯は圏外だ。諦めて助けを待つか、歩き回り出
口を探すか、もしくは脱出アイテムを見つけるしかない。

「はぁ。まあ、いいか。そのうち出られるべ」
「……」
「え! 看板見つけた? えーと、はく……白金山だと? 厨二病な色ですね!」

 三匹が怒った。

「白金連峰なんて聞いたことはないけどなぁ……まぁいいや、進もう」
「……」
「ここらでキャンプ? いやいや、俺の辞書は後退のネジを外してあるんだ」
「?」
「ネジはあるよ。電子辞書だもの」

 今度はどんなやつに会えるのだろう。オリーシュは期待を胸に抱いたまま、シロガネ山の洞窟を
奥へ奥へと進んでいった。



(続く)

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【リザードン様が】はがねタイプだけで最強のトレーナーに挑む【倒せない】


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