蘭学はオランダ語で西洋の科学技術や文化を吸収することだった。「蘭」は広く西洋を表すようにもなり、明治に入って生まれた「蘭字」という言葉は、輸出するお茶の木箱に貼る英語のラベルを指した。絵も入れた木版画が多かった。
▼鎖国が終わると、お茶は生糸と並ぶ輸出品として期待された。注文を増やすために、生産者らが苦心した跡がうかがえるのが蘭字だ。富士山や美人画、七福神などを多彩な色で刷り、英字で「フジヤマ」「ジャパン・ティー」などと入れた。お茶の産地の静岡や伊勢には蘭字が残っている博物館や印刷会社がある。
▼蘭字作りに動員されたのは浮世絵の版木を彫っていた職人たちという。浮世絵が写真に取って代わられ始め、職人が困っていたときだった。視覚に訴える蘭字はその後、新聞、雑誌広告やポスターなどへ発展したとされる。浮世絵職人の雇用の受け皿になっただけでなく、広告や印刷産業を生みだす役割も担った。
▼お茶の輸出の後押しを超え、さまざまな効果を茶箱の絵がもたらした。どうしたら日本のお茶を買ってもらえるか、知恵を絞ったことから始まった。そんな攻めの姿勢が今、豪州などとの自由貿易交渉で政府にあるか。市場開放で影響のある農家への支援は要るが、農産物を外国から守るだけでは何も生まれない。
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