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天声人語

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2011年2月11日(金)付

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 命取りになる証拠ほど早めに消したいものだ。大相撲の八百長を暴いたメールも、一度は削除されていた。復元できると知り、慌てて保身を図る男性もいよう。この携帯電話、どうやって女房に踏ませようかと▼八百長メールに連座した力士たちが、なんだかんだと携帯の提出を渋ったらしい。「妻が踏んで壊れた」は、あまりの都合よさで評判になった。事実としても、踏み消したい過去があるように聞こえる▼ほかの関取たちも、面談調査に携帯と預金通帳を持ってこいと言われている。日本相撲協会にすれば、存亡の危機にプライバシーも何もない、きれいごとは言えぬという思いであろう。遠出を禁じる通達まで出した▼英国の爆笑番組「ミスタービーン」に、ホテル滞在中の主人公が全裸で通路に閉め出されるシーンがあった。ビーンは案内表示を二つ外し、だいじな所を隠す。前が「PRIVATE(私用)」、後ろは「EXIT(出口)」というギャグだ▼裸でぶつかる相撲取りとはいえ、交友やら金の出入りやら、「私用」の極みまで丸裸にされてはつらい。身に覚えがないならなおさらだ。八百長が積年の習いとすれば、力士は師匠にこう問いたいに違いない。「親方衆こそどうなんですか」▼相撲協会が生き残るには、現役より幹部に厳しくありたい。かつての人気力士たちは「秘話」を明かすべきだ。それでこそ、ガチンコ大関の誉れ高い放駒が理事長にいる意味がある。連絡役の付け人ら、消すに消せない証人も健在であろう。妻が踏みつぶしていなければ。

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