現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2011年2月10日(木)付

印刷

 女性の地位のために権力と闘った市川房枝さんだが、大臣に感謝することもあった。例えば吉田茂首相の下で法相を務めた犬養健(いぬかい・たける)だ。造船疑獄で指揮権を発動し、後に首相となる自由党幹事長佐藤栄作の逮捕を阻んだ人である▼市川さんはその挙を糾弾しつつも、売春防止法制定までの尽力を多とし、後年の自民党葬に参列した。「他の政治家のようにごまかさないで、逃げないで、率直に事実を認め、自分の言ったことに責任を持たれた」と、逝去に寄せた一文で称(たた)えている▼この賛辞、彼女を師とする菅首相ら、民主党幹部には痛かろう。なにせ、政権公約のほころびを「率直に認めよ」と野党に責められ通しだ。ごまかし、逃げ、無責任と、国会での「口撃」はやまない▼自民党の谷垣総裁は昨日の党首討論で、消費税論議よりマニフェストの破綻(はたん)処理が先だと、衆院解散を迫った。「八百長の片棒は担げない」と。菅首相は熟議を訴えて応戦するも、手詰まり感が漂う▼民主党は、小沢元代表への処分を決められずにいる。首相の優柔不断を難じるほどに、政策論争でも野党の勢いが増す仕組みだ。「いい加減に乗り越えよう」(谷垣氏)との叱咤(しった)は、金銭話の本家筋とは思えぬ歯切れ良さだった▼市川さんは頑固なまでの清廉で知られた。1974年の参院選で自分を担いだ市民運動家が首相になり、空前の金権選挙を仕切った田中角栄首相の愛弟子(まなでし)と同じ党を背負う。すでに理解の域を超えていよう。早いもので、明日が没後30年。政治の情熱、歳月の浪費に暗然とする。

PR情報