余録

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余録:花粉症の春

 「春の初めの歌枕 霞たなびく吉野山 鶯(うぐいす) 佐保姫(さおひめ) 翁草 花を見捨てて帰る雁(かり)」は梁塵秘抄の今様だ。冬枯れの野山に春の彩りをもたらすのは「佐保姫」という春の造化の女神である。たなびく霞も佐保姫の衣の裾にたとえられる▲むろん梅も桜も佐保姫の衣にふれてつぼみをふくらませ、花を開く。そのご機嫌をいち早く知りたいのも春を待つ人の性(さが)である。まだ2月前半なのに桜の開花予想はとっくに出そろい、日本気象協会によれば西日本では平年並みか早め、東日本では平年並みだという▲桜の開花予想は気象情報各社の独自の理論や計算式によって行われるが、例えば元日からの毎日の平均気温の積算が600度を超えると開花するという説もある。何やらカードのポイントのたまり具合をしきりに計算する買い物好きの佐保姫の姿が頭に浮かんでくる▲佐保姫が集めているポイントには元日からの毎日の最高気温もあって、こちらは積算で400度ぐらいまでたまるとあることが始まる。ほかならないスギ花粉の本格的な飛散である。東北地方や北陸地方ではもっと少ないポイント、いや積算気温で飛び始めるという▲昨夏の猛暑の置き土産で前年を大幅に上回る花粉の飛散が予想されているこの春だ。1月の低温の影響で本格的な飛散は平年よりやや遅れるところもありそうだが、その場合も飛散開始と共に一気に大量の花粉が舞う恐れがあるという。重症化しやすい方は要注意だ▲ちなみに東京では佐保姫の花粉ポイントがきのうまでに380度を超えた。たなびく霞にも花粉の大量飛来を連想し、姫の衣の裾が花より鼻をくすぐる春が来る。

毎日新聞 2011年2月10日 0時01分

 

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