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社説:トヨタ最終報告 危機管理の重み増す

 トヨタ自動車の大規模なリコール(回収・無償修理)に発展した急加速問題について、米運輸省が「電子制御システムの欠陥は発見できなかった」という最終報告をまとめた。トヨタ側の主張を全面的に認めるものである。

 この問題でトヨタの北米での自動車販売は落ち込み、イメージも悪化した。今回の発表で問題は収束に向かうとみられるが、グローバル展開を急ぐ日本企業にとって、大きな教訓となる事件だった。

 発端は米国の西海岸で09年夏発生した4人の死亡事故。これを契機にトヨタ車のなかには電子制御システムの欠陥で急加速する車があると指摘する声が強まった。

 トヨタはアクセルペダルがフロアマットにひっかかるなどの不具合を認め、カムリなど延べ800万台近くをリコールしたが、電子制御システムに欠陥はないと主張した。しかし、事態はおさまらず、ついには豊田章男社長の米議会公聴会での証言という異例の事態に発展した。

 当時の米国は中間選挙を控え「政治の季節」に入っており、経営危機のゼネラル・モーターズ(GM)を税金を投入してでも救済すべきかどうかが議論になっていた。このため、この問題が政治的に利用された、という見方が根強く存在する。

 米国は車の品質と価格が適正であればどこの国の車であれ、差別なく受け入れてきた。世界一オープンで公正な市場だが、その一方で、消費者は安全性に厳しく政治も敏感に反応する。訴訟多発社会でもある。トヨタ車の電子制御システムに欠陥はなかったにしろ、トヨタ側の初期対応が後手に回り、問題を拡大させてしまった面があるだろう。

 また、最近の車は「電子機器のかたまり」といわれる。トヨタはいち早くグローバル展開を成功させ、90年代以降の不振の日本産業界にあって、気を吐いたメーカーである。そのような企業にしても、海外で現地企業から電子部品を調達する場合、国内のようには機敏な対応がしにくいようだ。

 少子高齢化で日本の国内市場の縮小は避けられず、日本企業が生き残っていくには海外展開するほかなくなっている。だが、海外市場は地雷原のようにリスクだらけだ。発展途上国では政治腐敗や知的所有権の欠落によるリスクが大きい。

 しかし、先進国には先進国のリスクがある。米国は世界で最も豊かで自由な市場だが、市民(消費者)の権利意識は日本では想像もできないほど強い。対応を誤ると手ひどいしっぺ返しをうける。トヨタのリコール問題はそれを改めて思い起こさせるものであった。

毎日新聞 2011年2月10日 2時30分

 

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