児童養護施設の現場から 個々に合った絆づくり
産経新聞 2月11日(金)7時57分配信
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下校後、食堂の大きなテーブルで宿題をする小学3年の男児。児童相談所の一時保護が長引き、3、4カ月間も学校に通えなかったため学習面でつまづく子供もいるという=1月31日、千葉県船橋市の「恩寵園」(写真:産経新聞) |
「施設を出ても何のために生きていけばいいのか分からない。生まれてきてよかったと思えるように、職員の質の向上と施設の標準化をお願いしたい」
当事者たちが参加するNPO法人「日向ぼっこ」(東京都文京区)の代表、渡井さゆりさん(27)が1月28日、厚生労働省の「児童養護施設等の社会的養護の課題に関する検討会」でこう訴えた。
渡井さんは小学2年から母子生活支援施設で過ごし、小学4年から高校卒業まで児童養護施設で育った。「『望まない妊娠』による出産だった」と聞いている。
◆家庭に近い養育
児童養護施設は社会福祉法人や自治体が運営する。しかし、建物の規模や部屋割りなどのハード面に加え、施設長の方針、職員のやる気や経験などのソフト面も施設によって善しあしがある。厚労省によると、平成21年度には29件の施設内虐待事件も報告されている。
施設によっては、家族や以前の境遇について話してはいけない雰囲気があるという。「一番大切な自分のルーツが分からないまま自立を迫られても、頑張り続けられない。自信も後ろ盾も十分なく、無防備なまま卒園してしまう」と渡井さん。
家庭復帰がかなわない子供たちに自信を持って社会へ巣立ってもらうには、どうしたらいいのか? 調布市の児童養護施設「二葉学園」(定員52人)は一般の民家を借り、できるだけ家庭に近い形の養育「グループホーム」を行っている。6人の子供に対し、3人の職員が交代で泊まり込む。学校の保護者会やPTAの役員会も“親代わり”として積極的に参加。昨年度からは中学生の学習塾の費用全額が国と自治体から支出されるようになったため、中学生13人のうち8人が通塾し、学力でも自信を持てるよう配慮する。
ただ、学力とは違い、精神面では「親との関係や施設に入った理由をきちんと整理できない場合、総じて自己肯定感が低い」(小倉要(かなめ)副園長)という。小倉副園長は「『自分が悪かったから家族がバラバラになった』と子供なりに解釈する場合もある。『親の問題だ』と子供自身が納得しないと、なかなか前に進めない」と話す。
◆部活、バイト奨励
千葉県船橋市の児童養護施設「恩寵(おんちょう)園」の保育士、河村亮子さん(37)も同様の問題を感じている。職員になった10年前、子供たちは休みの日も施設内で固まって過ごした。「外の人と接する自信がないのかもしれない」と感じたという。
一人一人の内面に届くケアができないため、園では部活動やアルバイトを奨励。やがて友人を園に招く子供も現れ始めた。
民間からの寄付を使い、夏休みに自転車での県内一周旅行や富士登山をするなど、達成感を持たせる行事も始めた。
子供たちが進学し自立していくうえで相性の良い学習ボランティアの存在も大きい。長い人では高校進学後も5年にわたり、1人の生徒のために通い続けて絆を持つ。
昨年の秋から週1回2時間、数学を学ぶ中学2年の男子生徒(14)は「将来はパティシエになりたい。受験に向けて連立方程式が分かるようになり、良かった」と、しっかりした口調で話す。
「一対一の関係を続けることで学習面だけなく、いろいろな話を聞いてもらったり気持ちを打ち明けたりしているようです。卒園した後も親しい大人が1人でもいることは心強い。定期的で長い関係を築いてもらえれば、本当にありがたい」。河村さんは子供たちを見つめた。
■小規模型への転換
厚労省は、より家庭的できめ細かな養育ができるよう施設の改築の際には、定員6人程度のユニットケアやグループホーム化を推奨し、大規模型から小規模型の家庭的養護への転換を進めている。一方で、一対一の関係を築きやすい里親制度も推進。昨年1月に閣議決定した「子ども・子育てビジョン」では、自宅を使い5、6人の子供をケアするファミリーホームを含め、里親の委託率を平成26年度までに16%(昨年度10・8%)に引き上げる目標を掲げている。
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最終更新:2月11日(金)9時29分
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