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自分ではけじめをつけないというのなら、党としてきっちりとけじめをつけさせる必要がある。菅直人首相と民主党執行部の覚悟が問われる。民主党の小沢一郎元代表の政治資金問題をめ[記事全文]
喜ばしい結果だ、というだけではすまない。関係者はもちろん、多くの人々が共有すべき教訓がある。トヨタ自動車の屋台骨を揺るがし、1年前には豊田章男社長が議会公聴会に呼び出さ[記事全文]
自分ではけじめをつけないというのなら、党としてきっちりとけじめをつけさせる必要がある。菅直人首相と民主党執行部の覚悟が問われる。
民主党の小沢一郎元代表の政治資金問題をめぐり、首相と小沢氏がきのう、2度目の会談をした。
小沢氏の強制起訴を受け、首相は裁判が終わるまでの間、自発的な離党を求めたが、小沢氏は拒否した。衆院政治倫理審査会への出席要請にも、消極的な姿勢を変えなかった。
この間、小沢氏が挙げてきた理由には首をかしげざるを得ない。
まず、市民の代表で構成する検察審査会による強制起訴は、有罪率の極めて高い検察による起訴とは「本質的に違う」という理屈だ。
もとより両者の法的効果は全く同じである。推定無罪の原則も、等しく適用される。
これまで逮捕・起訴された政治家の多くが、有罪確定の前に離党や議員辞職といったけじめをつけてきたのは、法的な責任とは異なる政治的、道義的な重い責任を自覚してのことだろう。
小沢氏はまた、事実関係は裁判で明らかになると繰り返し主張している。しかし、司法の場での真相解明と、国会議員として説明責任を果たすことは全く別物である。
小沢氏はきのうの記者会見で、自身の離党や党の処分は「健全な政党政治と民主主義の発展にとって妥当ではない」とまで強弁した。1年以上にわたり、国会での説明を拒み続けてきた小沢氏の不誠実な態度こそが、国民の政治不信を高めているのではないのか。
民主党の岡田克也幹事長は週明けに、小沢氏の処分を提案するという。早急に結論を出さなければいけない。
いま検討されている処分は、最も軽い党員資格の停止が軸のようだ。そもそも自発的な離党を求めたのだから、最低でも離党勧告が筋ではないか。
首相は年頭会見で「今年を政治とカネの問題にけじめをつける年にしたい」と言い切った。小沢氏には「出処進退を明らかにすべきだ」と、議員辞職も含めたけじめを求めたのではなかったか。腰が引けた印象は否めない。
処分を軽くする背景に、ねじれ国会の下で予算関連法案を衆院で再可決するには、小沢氏や小沢氏を支持する議員らの「造反」を避けたいという思惑があると指摘されている。とするなら本末転倒の発想と言わざるを得ない。
首相は年頭会見で、政治とカネの問題に対する国民の不信を放置したままでは、国民に痛みを分かち合ってもらう改革は進められないと語った。その認識は全く正しい。
税と社会保障の一体改革や「平成の開国」など、困難な政策課題に臨む前提として、首相の「有言実行」が真に試される局面だ。
喜ばしい結果だ、というだけではすまない。関係者はもちろん、多くの人々が共有すべき教訓がある。
トヨタ自動車の屋台骨を揺るがし、1年前には豊田章男社長が議会公聴会に呼び出される事態に至った米国での製品トラブル。その中で最後まで調査が続いていた電子制御システムに絡む急加速の疑いについて、米運輸省が「シロ」の判定を下した。
システム解析で欠陥は見つからなかった。多くの急発進は、運転席のフロアシートがアクセルペダルに引っかかるという別のトラブルか、運転手のミスによるものだという。
アクセルペダルはリコール(回収・無償修理)ずみなので、巨額の民事訴訟などは残るが、一連のトラブルはひとまずケリがついた格好だ。
品質の良さで米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)を抜き世界のトップに立った矢先のトヨタは、ブランドイメージに深手を負った。米当局が電子制御にお墨付きを与えたことが失地回復への追い風にはなろう。
しかし、米当局の対応は振幅が大きかった。今後の安全行政にとって生かすべき点は少なくない。
例えば、疑惑報道で持ちきりだった昨年2月、米議会でラフッド運輸長官が「私の忠告はトヨタ車の運転をやめて販売店に持っていくことだ」と述べ、運転できないほど危険な欠陥なのか、との不安を広げた。
後に訂正したものの、この発言はトヨタの信用を失墜させる破壊力も大きかった。今回の「シロ」発表で長官は手のひらを返したように「私の娘もトヨタ車を買った」と語り、修復に配慮する姿勢を示した。
このような大きなブレは、米当局の姿勢に疑問を抱かせる。当時はGM再建に米国民が期待を寄せているさなかで、中間選挙を控えた時期でもあった。米メディアを中心とした過熱報道もあり、安全性をめぐる冷静な議論が見失われがちだった。
電子制御という新しいシステムの安全をいかに迅速に確認するか、という課題も浮き彫りになった。
トヨタにとっての教訓も重い。トラブルが発生すれば情報の洪水が世界を駆けめぐる。対応が鈍かった根本原因は、日本の本社に権限が集中しすぎていたことにあった。反省を踏まえ、安全対応への判断などについて海外拠点の発言権を大幅に拡大した。
世界のトップに立つと、批判の矢面にさらされやすい。トヨタでもなお「グローバル経営」というには課題が多いということだろう。
多くの企業が新興国を含む世界市場へ改めて打って出ようとしているいま、トヨタが直面した問題は、脱皮しようとする日本の企業すべてが我が事として考えるべき教訓に満ちている。