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世界初! 磁石を使わないハイブリッド車用モーターを開発!

―実用化されているモーターと同等以上の性能を実現―
2009年12月16日

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
東京理科大学 科学技術交流センター

NEDOの次世代電気自動車向け研究開発プロジェクトの一環として東京理科大学の千葉明教授は、世界に先駆けてハイブリッド車(HEV)などの次世代自動車用モーターとして実用化が期待されているレアアース(希土類元素)を用いないモーターの小型化に成功しました。
 レアアースを用いないモーターは、構造が簡単で耐熱性に優れ丈夫であることが特徴ですが、次世代自動車用モーターとして使用するには大型となり車体に搭載することが出来ませんでした。
 現在、次世代自動車用モーターは他国からの輸出に頼るレアアースを用いたモーターが主流ですが、この成果により、近年世界的な競争が激しくなっている次世代自動車の開発において、他国の資源に依存しないことで日本の競争力を維持し、ひいては環境問題の解決に貢献することが期待されます。


1. 背景

地球環境への問題対策として、HEVの開発競争が進んでいます。その中で次世代自動車用モーターの開発はリチウムイオン電池をはじめとする次世代電池と並び、重要な要素技術として注目を集めています。
 従来のHEVに搭載されているモーターは、レアアースを用いたIPMSM(※1)が使われています。しかし、レアアースは中国からの輸出が9割を占めるなど産出量が限られており、需要の増大により価格が2~3倍に上がりつつあります。そのため、磁石を一切使わないモーターであるSRM(※2)の実用化が待たれています。
 しかし、SRMは、モーターの重要なスペックであるトルクや効率においてIPMSMと比較して劣っているため、HEVに使用するのに必要な性能を確保するには、大型になってしまい車体に搭載できないという課題がありました。

2. 成果の特徴

 この度、東京理科大学の千葉明教授、星伸一准教授(理工学部電気電子情報工学科)、北海道大学の小笠原悟司 教授、竹本真紹准教授(大学院情報科学研究科)らが開発に成功した試作機は、モーター構造と材料の選定を工夫し、最適な組み合わせにすることで、従来のSRMにはないトルク密度(45Nm/l)を実現し、HEVへの搭載可能な大きさおよび効率を達成しました。
 この試作機は、2009年現在、最も生産台数が多いHEV車に搭載されている50kW出力のIPMSMと同一寸法で同等またはそれ以上のトルク・効率を記録。回転数1200r/minの際に、最大トルク403Nm(IPMSM:400Nm)、効率86%(同83%)と、実用可能な数値を達成しています。
 このモーターは、千葉研究室の持つSRM専用解析ソフトPC-SRDを用いて設計。モーターの構造と材料の選定を工夫し、最適な組み合わせを模索することで、従来のSRMにはないトルク密度(45Nm/L)を実現しました。構造においては、モーターの部品である回転子や固定子の数がトルクと関係していることが明らかとなったため、回転子と固定子を増加させた18/12極モデル(図:次頁)を設計。また、固定子に傾斜(テーパー)をつけることで、トルクの増加に繋げました。材料の選定においては、鉄心の材料に着目しました。HEV用モーターは、利用が多い低出力時の効率がより重要になります。IPMSMは、出力が小さくなるほど永久磁石の磁界が効率低下に影響を与えるため、磁石を使わないSRMは低 出力時に優位性があります。本モーターでは、さらに鉄心材料に6.5%ケイ素鋼板10JNEX900を適用したことで、特に低出力時の効率を上昇させることに成功。自動車用途に適した効率分布を実現しました。
なお、以上の数値は磁界解析によるものであり、今後実験での検証を行う予定です。
 他国の資源に依存しない本モーターの実用化により、近年世界的な競争が激しくなっている次世代自動車の開発において日本の競争力を維持し、ひいては環境問題の解決に貢献することが期待されています。

  • 12月22日(火)17時40分に上記文章について訂正いたしました。

(左)試作機について(右)効率マップ

(左)18/12極SMR構造(右)特性

3. 問いあわせ先

<本プレスリリースの内容についての問い合わせ先>担当:近藤、加藤(寛) / TEL:03-5225-1089 
E-mail: tlo@admin.tus.ac.jp

NEDO 燃料電池・水素技術開発部 宍戸、小林(憲) TEL 044-520-5260

<その他NEDO事業についての一般的な問合せ先>
NEDO 広報室 坂本、萬木(ゆるぎ)、田窪  TEL 044-520-5151

(参考)用語の解説

  • 1 IPMSM:
    ロータの内部に永久磁石を埋め込んだ構造を持つ回転界磁形式の同期モーター。高トルク運転や広範囲な速度での運転が可能であり、省エネルギー、高効率、高トルクモーターとなっている。電気自動車(EV)、HEV、高性能エアコン等で近年その利用が急速に拡大している。
  • 2 SRM:
    スイッチドリラクタンスモーターのこと。SRMは、磁気抵抗の差を用いて回転させるモーターであり、簡単な構造のため耐熱性に優れ、丈夫であるという特性があるが、IPMSMと比較してトルクやエネルギー利用効率が劣っている。