きょうの社説 2011年2月11日

◎新潟の予算計上拒否 国交省が責任もって説得を
 北陸新幹線を待ち望んでいる多くの石川、富山県民は、「もううんざりだ」という思い で眺めているのではないか。新潟県の泉田裕彦知事がまた、新年度予算編成で北陸新幹線建設費の地元負担金の計上を見送る考えをちらつかせている。予算編成の時期がくるたびにこんな「騒動」を繰り返していては、本当に2014年度の金沢開業が危うくなってくる。

 地元負担金増額や工事に関する情報開示、停車駅問題などをめぐる国土交通省の対応が 不十分だったことが、今回の予算計上見送りに関する泉田知事の「言い分」とされる。同知事は「(国に)協議してもらえないのだから、責任は国に負ってもらう」と反発しているという。

 ここで、泉田知事の主張が正しいかどうかをあらためて論じるつもりはないが、新幹線 は国家プロジェクトであり、「国が責任をもって進めなければならない」という指摘は、あながち間違いとも言い切れない。国交省には、早急に同知事と協議して説得に努めることを求めておきたい。

 泉田知事は、今年度予算にも鉄道建設・運輸施設整備支援機構から請求された地元負担 金163億円のうち150億円しか計上しておらず、しかも支払われたのはまだ25億8千万円だけだ。ここで話がこじれて予算に穴があけば、工事日程に致命的な狂いが生じかねない。国交省は危機感をもって対応してほしい。

 泉田知事の今回の予算計上見送りについて、石川、富山県は今のところ、事態を静観す る構えである。まだ検討中だから、そうするしかないということだろうが、このまま決定したら、黙っているわけにはいかない。

 石川、富山県にとって、開業の遅れは一大事である。「新幹線時代」を見据えた地域振 興策やJRから経営分離される並行在来線の運営準備などは、すべて2014年度の金沢開業を前提として進められているからだ。「相談なしにこれまでの合意をほごにすることはあり得ない」などと楽観視してはいられない。泉田知事に説明を求めるなど、何らかの意思表示は必要だろう。

◎きしむ日ロ関係 圧力に折れてはならぬ
 北方領土問題で日ロ関係のきしみが強まるなか、前原誠司外相が11日、モスクワでラ ブロフ外相と会談する。ロシア政府は領土交渉で強硬姿勢をとっているが、ここに来て北方領土の軍備増強を指示し、新鋭の強襲揚陸艦配備の方針まで示したことは由々しい事態である。日本としては、ロシアの「圧力外交」に折れることなく、北方領土の主権国の主張を貫き通すほかない。

 来年の大統領選をにらみ、北方領土の実効支配を強めるメドベージェフ大統領の言動は 、歴代の日ロ首脳が積み上げてきた約束事をほごにするのではないかという懸念をも抱かせる。前原外相は北方領土に関するロシアの主張を論破し、政府間合意を再確認させる必要がある。北方4島の帰属問題を「法と正義」に基づいて解決することを明記した1993年の東京宣言は特に重要である。

 メドベージェフ政権の思惑は、日本の領土要求を抑えながら、経済協力を取り付けるこ とであり、北方領土の軍備増強方針は、そのためのけん制、圧力といえる。ロシアは歴史的にみて、法や規範を重んじる意識より、「力」を信奉する傾向が強いといわれる。北方領土をめぐるロシアの態度には、そうした「力の外交」が強く感じられる。経済協力は日本にとっても有益であるが、領土交渉の進展が見込めない一方的な協力には慎重であるべきだろう。

 北方領土の軍備増強をいま指示したロシアの真意は明らかではないが、冷戦後の流れを 反転させるものであり、看過できない。日本政府は、冷戦後の安保環境の変化に対応し、新防衛計画大綱を策定したばかりである。その柱は、旧ソ連を仮想敵国とし、北海道を中心に整備してきた戦車部隊の装備を削減する一方、中国の軍事拡大に対応して南西諸島の防衛体制を強化することである。

 こうした日本の安保戦略が、ロシアの軍事方針で再修正を迫られることにもなりかねな い。今後の北方領土交渉では、感情的対立をエスカレートさせないことはむろん、軍事的な緊張を招かない冷静な安保対話も欠かせない。