いつからだろう??
決して今の生活が不満な訳じゃない。友達や後輩、部活仲間とも上手く行ってる。
ただ、どこかあたしは日常生活に物足りなさを感じていた。
プロローグ
――Who's Calling me??
「せんぱーい!!」
学校が終わった放課後、帰り道後ろから呼ばれる声にナツミは振り向いた。そこには一つ下の後輩、カツヤが笑顔でナツミに手を振っていた。
カツヤはすぐにナツミのとこへ駆けて来る。
「どうしたのカツヤ君??」
ナツミが問いかけるとカツヤは照れくさそうに頭をかいている。
「今帰りなら、良かったら駅まででも一緒に帰りたいな~って思いまして」
そう言いながらもカツヤは恥ずかしそうに頬を赤く染めている。ナツミはそんなカツヤを見て、にっこり笑うと「いいよ。一緒に帰ろうか」と返した。
二人が並んで歩き出すと、カツヤは泣きつくような声でナツミに訴えかけてきた。
「聞いてくださいよ先輩~。新堂キャプテンの練習最近ずっと走りばっかなんスよ~」
カツヤが所属するバスケ部のキャプテン、新堂ハヤトはナツミの幼なじみでもある。
小学校、中学校、高校とずっと同じ学校に通い、家だって近所のため昔から仲が良かった。
そんな馬鹿で単純だけど、曲がったことが大嫌いな幼なじみを最近ナツミはずっと気にしていた。
「あいつは熱血だからね~。でもきっとカツヤ君たちのことを考えてそんな練習にしてるのよ」
「それは分かってるんスけどね~」
ナツミの言葉にカツヤは苦笑いをして、「それでもキツいッスよ」と言った。
ハヤトの練習はキツいってみんなが言っている。だけど、バスケ部を辞めた人は誰一人としていない。きっとみんなキツくてもハヤトを慕ってるんだとナツミは考えていた。昔からハヤトは人を寄せ付ける力があった。常に周りにはたくさんの友達が居る。ハヤト自身もたくさんの人間に囲まれて毎日楽しそうに見える。「きっとハヤトには悩みなんかないんだろうな」、いつからかそんなクラスの幼なじみを見て、ナツミは心のどこかで羨ましいと思っていた。
暫くして駅に着き、ナツミはカツヤと別れた。
駅から自分の家までは近いが、ナツミは直接家には帰らず近くの丘の上にある見晴しの良い公園に足を運んだ。
高校に入学してからナツミは何か考え事や悩み事がある時にこの公園に一人で足を運ぶようになった。
ベンチに座り、太陽が沈みかけ闇に染まろうとする街を見下ろしながらナツミはぼーっと考えていた。
いつからだろう??
いつからかナツミは日常生活に物足りなさを感じていた。
毎日が決して楽しくない訳ではない。後輩とも友達とも上手く行っている。何の不満だってない。
ただ、このままで良いのかな??
今のまま生きて行って大学に入り就職して、結婚する――…。
そうすればそれなりの幸せは手に入るだろう…。
だけど、それじゃそれ以上の幸せは手に入らない。決められた道を歩くだけじゃ、他の大事なものを見つけることは出来ない。
だけどそんなものがあるという保証もないため、自分は飛び込むことも出来ずにただ迷って悩んでいる。
他の人とは違う、自分の生き方って何だろう。
自分にとっての幸せって何だろう。
自分にしか出来ないことって…。
気が付けば、太陽は沈み街は闇に包まれていた。
闇の中でポツリと目立つ公園の街灯がいつもより寂しそうに見える。
「そろそろ帰ろうかな…」
ナツミがベンチから立ち上がった時だった。ハッキリとは聞こえないが誰かの声が聞こえる。
ナツミは周りを見渡すが、周りには誰もいないし人の気配もしない。
「……て」
「誰!?誰なの!?」
再び聞こえた声にナツミは大声で問いかける。
「助けて…。何もかもが壊れる前に…」
その声がハッキリと聞こえた瞬間、ナツミの周りに不思議な光が発生した。
その光はあっという間にナツミを覆い、強烈な光となっていく。ナツミはその強烈な光の中で意識をなくして倒れ込んだ。
「助けて…。リィンバウムを…」