2011年2月10日15時22分
いまだ緊張状態にある朝鮮半島だが、韓国と北朝鮮の歴史研究者が近年、共同研究を進めていたとの話を聞いた。歴史の用語や概念について南北の違いを埋めようとの試み。その結果、両国とも、冷戦期の歴史解釈から大きく転換し、民族主義の視点が主流になっていたことがわかったというのだ。
冷戦期には、韓国は反共の立場から、一方の北朝鮮は共産主義の視点から歴史を書き上げた。違いが大きいと、将来、統一が実現しても歴史を共有できないのではとの懸念を背景に、南北融和に力を注いだ韓国の盧武鉉政権の時期に両国で合意、2007年に共同研究は始まった。
古代・中世・近代と分け、各300ほどの用語を選び、双方が納得できる解説をつくることを目指した。事件や人物、概念が対象。違いが明白な現代は除外し、1919年の三一運動までを検討した。
韓国側リーダーの鄭泰憲(チョン・テハン)高麗大教授によると、当初は「差異を固定化し、統一に逆行する動き」といった批判もあったという。それが昨年5月に終わった時には、「あまりにも違いがないので、研究した意味がないのでは」との冗談まで出たという。
冷戦が終わり、1990年代以降、韓国の歴史観が変わったことは知られている。反共に代わって民族主義の視点が重視されるようになった。
だが、北朝鮮も民族主義に転換していたとは鄭教授も予想していなかった。北朝鮮の現代史は、金日成主席を中心とした革命の歴史として描かれていた。ところが、94年の金日成の死後に刊行された回顧録で大きな変化が現れる。金日成は共産主義者であると同時に民族主義者だった側面が強調され、以前は無視されていた金日成以外の独立運動グループも評価されていた。
「北朝鮮の歴史観も時を同じくして転換していた。大きな変化なので、生前の金日成が語っていたという形にするしかなかったのでしょう」と鄭教授はみる。
歴史は自国の正統性を主張する大切な道具だ。冷戦の構造がそのまま残ってきたと言われる朝鮮半島だが、冷戦の終結により質的に変化し、イデオロギー的には似てきたことを示しているのだろう。しかし、そうすると現在の緊張状態は何のためなのか。一段とわからなくなってくる。(渡辺延志)