小沢一郎と河村たかしの連携について - 政局の論理と政策の論理
小沢一郎を支持する者の中で、少なくない部分が河村たかしに期待を寄せ、河村たかしの「庶民革命」を絶賛しているが、それは幻想であり、思い違いをしているだけだ。子供騙しのポピュリズムの手法に搦め取られているだけに等しい。まず最初に考えるべきは、河村たかしと橋下徹の関係である。橋下徹の政策思想を理解していれば、それが「国民の生活が第一」とは相容れない点は明白だろう。小沢一郎と河村たかしの連携については、政局的な面と政策的な面の二つの観点からアプローチする必要がある。政局の観点からすれば、小沢一郎の政界生き残りを後押しする材料として意味があると言えなくもない。しかし、政策的な観点からはきわめて遺憾な問題で、「国民の生活が第一」の後退と溶解を危惧させるバッドニュースだ。最初に政局的な観点の方から述べよう。一昨日（2/8）、河村たかしが小沢一郎を訪問した件について、ネットでは関心が集中したが、テレビは大きな注目を向けなかった。例えば、ワイドショーで小沢叩きに狂奔している与良正男と杉尾秀哉にとって、今回の小沢一郎と河村たかしの連携と共闘の絵は、何とも不具合で説明しづらい事態の発生であり、面白くない政治場面の出現だろう。河村たかしがすぐに小沢一郎に挨拶に出向いた図は、明らかに小沢一郎の復権を意味する事実だ。
テレビのワイドショーは、2月に入ってずっと大相撲の話題ばかりで埋め、政局をネタに取り上げず無視する日が続いている。おそらく、予算委の審議で菅直人が追い詰められる状況を想定した上で、この時期に国会をテレビ報道の中心から外し、国民の関心を逸らすべく、警察が昨年から掴んでいた八百長の情報をタイミングを計って表面に出したのだろう。偶然ではない。計画的で意図的な事件と報道であり、権力による世論操作のためのプログラムである。そのワイドショーにおいて、小沢一郎は国民の敵であり、ダーティな金権政治の極悪人である。抹殺すべき金正日であり、「二分間憎悪」のゴールドスタインだ。一方、河村たかしは「庶民革命」の英雄であり、正義の使者であり、国民の待望の救済者である。この二人のツーショットは矛盾する。テレビ報道の説明とは矛盾する政治の現実だ。視聴者は奇妙に感じるだろうし、従来の政治報道に疑念を持ち始める者も出て来るだろう。テレビ報道は、自分たちが作り上げてきた悪と正義の二つのシンボルについて調整をしなければならず、これまでのシンボルの捏造と操作が露呈しないようにパッチを当てないといけない。要するに、テレビ報道側の構図が破綻を見せたということだ。ビッグブラザーとゴールドスタインが仲良く談笑して、今後の協調を確認し合う図があってはいけないのである。
すなわち、小沢一郎にとっては、今回の映像は極悪人のレッテルを貼られたマイナスイメージを中和する効果が期待できるはずで、政治的に追い詰められた状況の小沢一郎にとって、マスコミが人気者として持て囃す河村たかしと組むことは、執行部に対する反撃と牽制の材料となるだろう。政局的には、小沢一郎と河村たかしは反執行部という立場と利害で結合する形となっている。マスコミの描く構図に従えば、マスコミが持て囃すおかげで人気を得ている河村たかしが、「国民の敵」である小沢一郎と組むのはあり得ないのだが、河村たかしは、「国民の生活が第一」への支持が依然として根強く、国民の底流に小沢一郎への待望論が強く渦巻いていて、マスコミのバッシングや強制起訴にもかかわらず、それが衰えていない事実を知っている。つまり、河村たかしの方もWinWinなのであり、小沢人気を取り込んで集票しているのだ。河村たかしの今回の集票は、単にマスコミが演出した人気だけではなく、小沢一郎への支持も含まれているのである。だからこそ、当選翌々日に即座に上京し、小沢一郎の事務所に詣でるという動きを見せている。トリプルスコアの票の中に「小沢票」が多かった事実を承知している。その意味では、河村たかしは単にマスコミや財界の御輿には乗っていない。マスコミは、河村たかしの圧勝について「脱既成政党」の意味づけをしているが、むしろ、「国民の生活が第一」を裏切った菅政権への批判こそが大きいのだ。
一方、政策面だが、新自由主義色がギラギラする河村たかしの路線について、それを小沢信者が絶賛する根拠が私には理解できない。河村たかしの減税政策だが、報道では、議員報酬半額で浮く財源は6億円で、10%減税による減収は200億円に上ると言われている。差額194億円を埋める財源を得なければ、畢竟、住民サービスの削減に直結するに違いない。名古屋や愛知は製造業で保っている地域であり、しかも、どちらかと言えば、この失われた20年を通じて、トヨタを主力とする輸出産業の好調の恩恵を受け、中京地域は全国の地方平均より痛みの程度が小さかった。自治体財政も同様であろう。その特殊事情を考えると、縮小傾向が一般に言われる今後の地域経済の中で、得べかりし200億円が毎年欠損するのは大きいと思われる。事業仕分けを大義名分とした公共サービスの低下は、間違いなく、住民税軽減の利益を受けない貧困層や高齢者のところにしわ寄せが行く。医療や介護の自然増、道路や下水道など老朽化するインフラの補修、それに集中豪雨・猛暑・大雪等の災害対策が嵩み、自治体の出費は脹らむ一方だ。他方、少子高齢化と産業・消費の低迷によって、どこの自治体も深刻な収入不足に直面している。そうした財政難の環境の中で、減税によって「小さな政府」を志向するのは狂気の沙汰としか言いようがなく、医療も介護も教育も、必要なものは住民の自己負担で調達しろと言っているのと同じだ。
明らかに、河村たかしの場合は、そうしたツケ回しを国政転出で雲散霧消しようと企んでいて、名古屋市の住民行政が悪化する責任をとる意思は毛頭ないのだ。後は野となれ山となれの無責任に徹し、一時的なポピュリズムのブームを踏み台にして、政界再編の主役に駆け上がる図を狙っているのである。4年後の選挙に河村たかしはいない。河村たかしに利用される名古屋市民こそいい面の皮だが、市民はそれを見抜けず、あるいは見抜きつつ、市政を犠牲にした「反民主党政権の意思表明」の政局投票にして、河村たかしの野望に付き合う倒錯と狂態を演じている。私は、河村たかしの減税運動をサポートしている「草の根市民」の正体が理解できない。その市民運動に疑惑を抱いている。米国的な草の根新自由主義（茶会運動）の日本版なのか、背後で財界が糸を引いて操っているのか、改憲反共の闘士である河村たかしに共鳴する右翼系の草の根が関係しているのか、それとも、後房雄が旧左翼系を巧みに騙して誘導するボランティア主義（新しい公共）が絡んでいるのか。あるいは、それらのアマルガムなのか。ネットの言論状況で気になるのは、何か、小沢一郎に接近したり、小沢一郎が接触したものは、全て浄化されたり正当化されるように言う異常な「汎小沢主義」的な現象だ。真っ黒なものが、小沢一郎の傘の下に入った瞬間に真っ白になってしまう。この小沢一郎中心主義は危険だろう。大事なのは「国民の生活が第一」の思想と政策である。この地点から小沢一郎が動かないという保証はない。政局と政策を区別して、両者の相互関係を見なくてはいけない。
