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2011年2月10日(木)付

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党首討論―定例化し論戦の主舞台に

与野党協議で成案をまとめるのが先か、衆院解散・総選挙で国民の信を問い直すのが先か――。菅直人首相の就任後、初めてとなるきのうの党首討論では、税と社会保障の一体改革をめぐ[記事全文]

元素戦略―資源の制約に知恵で挑む

少し加えるだけで磁石の力を強めたり、光を出したり、レアアース(希土類)はまるで魔法のような元素だ。その魔法は、ハイブリッドカーのモーターやさまざまな電子部品など、日本が[記事全文]

党首討論―定例化し論戦の主舞台に

 与野党協議で成案をまとめるのが先か、衆院解散・総選挙で国民の信を問い直すのが先か――。

 菅直人首相の就任後、初めてとなるきのうの党首討論では、税と社会保障の一体改革をめぐる与野党の対立を解きほぐす糸口はみつからなかった。

 放っておいても毎年1兆円ずつ増える社会保障費。2年続けて借金が税収を上回る危機的な財政。一体改革が急務であるという認識は共有しながら、ともに解決策を探ろうという機運には程遠い。角突き合わせるばかりの与野党の現状に落胆を禁じ得ない。

 先の代表質問で、衆院解散が与野党協議に応じる条件だとハードルを上げた自民党の谷垣禎一総裁は、党首討論でも同じ主張を繰り返した。

 国民の信を失った菅政権に大改革はできない。マニフェスト(政権公約)を作り直して総選挙に臨むことが先決だ。それが改革を実現する「一番の近道」であると迫った。

 谷垣氏や公明党の山口那津男代表が盛んに攻撃したように、民主党のマニフェストに多くの破れ目が見えていることは事実だ。しかし、それを解散要求に直結させる議論には疑問がある。

 政治空白が生じるだけではない。その後の政権の枠組みづくりをめぐり混乱が続けば、結局は課題を先送りし、次の予算編成も再び当座しのぎに終わりかねない。

 総選挙でいったん政権を委ねたら、衆院議員の任期4年間はおおむね見守る。マニフェストの達成状況に対する評価は、次の総選挙で審判をくだす。それが、政権交代時代の基本的な政治の進め方ではないか。

 対立は深刻だが、トップ同士が何度でも議論を重ね、妥協点を見いだすしかない。そのためにも党首討論を定例化して頻繁に実施し、国会論戦の主舞台に位置づけ直すべきである。

 衆参両院の多数派が異なる「ねじれ国会」の下では、責任を「分有」する与野党の党首が、対等な立場で大所高所に立った政策論を戦わせる意義が一層増している。

 菅首相はきのう、谷垣氏に何度か逆質問を試みたが、これまでの討論は、残念ながら、専ら野党の党首が首相を追及する一方通行が多かった。これでは通常の予算委などでの質疑と代わり映えせず、党首討論の名に値しない。攻撃的な非難の応酬に終始するなら、せっかくの論戦も実を結ばない。

 国民は首相の考えと同時に、次に政権を担うかもしれない野党の党首の理念やビジョンにも関心があるはずだ。具体的な対案を示し、双方向の議論になるよう努めるべきだ。きのうの谷垣氏にも、一体改革の自民党案を丁寧に説明してほしかった。

 党首討論では、野党党首の言動もまた問われていることを心すべきだ。

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元素戦略―資源の制約に知恵で挑む

 少し加えるだけで磁石の力を強めたり、光を出したり、レアアース(希土類)はまるで魔法のような元素だ。

 その魔法は、ハイブリッドカーのモーターやさまざまな電子部品など、日本が得意とするハイテク製品に欠かせない。だが困ったことに量が限られ、また主要な産出国である中国が輸出を制限し始め、価格が急騰している。天然資源が乏しい日本にとって、深刻な問題だ。

 もし、地球上で最もありふれた元素である鉄で、その魔法を実現できたらどうだろう。

 それこそ夢のような話だが、決して夢ではないかもしれない。

 科学者たちが「元素戦略」と銘打って、元素をとことん研究することで、新たな機能を引き出したり、希少な元素の代替をしたりする研究を進めようとしている。文部科学省、経済産業省なども後押しし、3月にはシンポジウムが開かれる。

 大いに進めてほしい。決してやさしくはないが、困難だからこそ挑戦したいという研究者もいるはずだ。

 資源の制約は希少元素に限らない。

 たとえば、植物に必須の3元素である窒素、リン酸、カリウムのうち、空気中の窒素を使って工場で肥料にできる窒素を除けば、資源はやはり限られている。とりわけリン酸については、中国が原料となるリン鉱石の輸出を制限し始めている。

 液晶パネルに欠かせないインジウムなどのレアメタル(希少金属)も、むろん資源は限られている。銅などのもっとありふれた元素も代替が難しく、盗難が相次ぐ事態になっている。

 こうした材料をめぐる技術は、産業界も含めて日本のお家芸だ。たとえばハイブリッドカーにも欠かせない、レアアースであるネオジムを使った強力な磁石は1980年代、住友特殊金属(当時)の佐川真人さんが世界に先駆けて開発した。

 細野秀雄・東工大教授は、鉄を使って超伝導物質を開発し、世界的に注目されている。

 しかし、安閑とはしていられない。物質・材料分野の重要論文の数では昨年、中国に抜かれてしまった。

 元素戦略は、日本の強みを生かしてさらに飛躍しようと、中村栄一・東大教授が2004年に提案した。

 大気中の窒素を肥料にする技術は19世紀末、「窒素肥料が足りなくなったら餓死者が出る。化学者は空気中の窒素を利用できるようにすべきだ」と英国の化学者が呼びかけた。

 東工大の細野さんは「意欲のある若い研究者にぜひ挑戦してほしい」という。地球の資源が有限であることを考えれば、元素をとことん生かす研究は人類にとって重要だ。資源小国の日本から、この花を大きく咲かせたい。

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