2011年02月10日
TOEICはどれぐらい英語ができるかを測る試験ではない。どれぐらい英語ができないかを測る試験だ。
日本企業が求めるTOEICスコアは低すぎて役に立たないにも記載したが、TOEICは基本的に簡単な試験であり、ろくな英語力を持たない状態でもすぐに点数が飽和してしまう。一般に900点というスコアはとても高い英語力があるかのように受け取られているフシがあるが、実態はようやく必要最低限のスタート台に立ったというレベルに過ぎない。ある程度の点数を取ったら英語ができると考えるよりは、ある程度の点数がなければ英語は出来ないと受け取ったほうが合理的と言える。
日本企業が求めるTOEICスコア一覧表(2011年1月版)で日本企業のTOEIC基準スコアを紹介したが、韓国企業のスコアを紹介すると次のようになる。
説明 | |
---|---|
920点 | サムスン(中核人材A級) |
900点 | サムスン(新入社員足切り) LG(新入社員平均) |
800点 | サムスン(既存社員基準) LG(新入社員足切り) ヒュンダイ(新入社員足切り) |
日本企業よりも遙かに高い点数が要求されていることが分かるが、TOEICが簡単な試験だと言う認識に立てば、彼らの要求は決して高く無いことが分かる。彼らにとってTOEICが800点に満たない者は、彼らの仕事に必要な英語力を持たないということを示しているに他ならない。
週刊ダイヤモンドの2010年2月27日号「ソニー・パナソニックVSサムスン」に、今や日本企業を軽く凌ぐグローバル企業となったサムスンの外国語への苛烈な取り組みについて記載があるので以下に引用する。
あるサムスン幹部によると、05年に、新入社員900点以上、既存社員800点以上というTOEIC基準が設けられたという。最近では、中核人材に位置づけられるA級は920点以上、S級はA級合格かつ流暢な会話と筆記の能力が必要とされる。
A級以上でなければ、課長クラスへの昇進は不可能となった。というより、920点未満では事実上、会社に残ることができなくなる。もっとも、すでに社員の90%以上がA級以上とも言われている。
部課長クラスには、語学研修の集中プログラムが設けられている。約3ヶ月の研修期間中は、外部との電話連絡や家族との面会すら制限されるという徹底ぶりだ。英語だけではない。フランス語、スペイン語からヒンディー語、タミール語まで、サムスンの海外展開に対応すべく、あらゆる外国語のラインナップが用意されている。
サムスンの海外売上高比率は87%で、ソニーの75%、パナソニックの47%を遙かに上回っている。韓国のGDPは84兆円で、日本の494兆円の5分の1にも及ばない。国内に市場を持たないサムスンにとって、グローバル化は宿命であり、高い語学力はその絶対必要条件なのだ。とりわけ海外駐在員には、その土地で骨を埋める覚悟を持つべく、徹底した現地化が求められている。
このようにグローバル化が日本のより進んでいる韓国では、TOEIC900点が出発点なのである。猶予期間を考えて800点といったところか。日本企業と比較するとその差に愕然とせざるを得ない。日本企業の求めるレベルだと彼らの出発点にも遠く及ばない。これではグローバル競争において韓国に勝てるわけがない。
TOEICスコアとコミュニケーションレベルの評価は、通常次のように紹介されている。
レベル | TOEICスコア | 評価 |
---|---|---|
A | 860点~ | Non-Nativeとして十分なコミュニケーションができる。 |
B | 730点~855点 | どんな状況でも適切なコミュニケーションができる素地を備えている。 |
C | 470点~725点 | 日常生活のニーズを充足し、限定された範囲内では業務上のコミュニケーションができる。 |
D | 220点~465点 | 通常会話で最低限のコミュニケーションができる。 |
E | ~215点 | コミュニケーションができるまでに至っていない。 |
しかし、実態を鑑みるとビジネスに必要なレベルの英語能力は900点を超えたところに位置しており、TOEICスコアのレンジと乖離してしまっている。とすると、TOEICはどれだけ英語ができるかではなく、どれだけ英語が出来ないかということを測るテストだと考えたほうがしっくりくる。上記の表を逆にして次のように考えると良いかも知れない。
レベル | TOEICスコア | 評価 |
---|---|---|
E | ~215点 | 英語に近づいてはならない。 |
D | 220点~465点 | 英語が全く出来ない。 |
C | 470点~725点 | 英語ができない。 |
B | 730点~855点 | 読み書きは多少できるが、必要なレベルに達していない。 |
A | 860点~ | 最低限の英語力を備える。 |
すなわち、TOEIC700点とか履歴書に書いてあれば、それは私は英語が出来ませんと主張しているのと等しく、自己PRどころか逆効果になってしまうのだ。
もちろん、現時点の日本において上記は事実ではない(気分を害された方がいればごめんなさい)。今TOEICで700点あれば評価されることは日本企業が求めるTOEICスコア一覧表(2011年1月版)を見れば明らかだ。しかし、こんな状態はいつまでも続きはしない。じきにTOEICは足切りツールとして広く活用されるようになる。武田薬品工業が2013年春入社の新卒採用から730点の足切り基準を設けると報道されているが、この動きは今後数年で一気に広がるだろう。TOEICは英語が出来ないことを測る手段なのだ。
最低限の英語力を身につけた後は、その英語を使えるレベルまで上げるためにより一層勉強せねばならない。また、英語だけでは足りず、中国語をはじめとする第二外国語の習得が求められるようになるだろう。こうしたことからも、就活生にとっては英語は遅くても学生時代の内に最低限のレベルまで伸ばしておき、さらに第二外国語の習得に時間を割くことが必要となるに違いない。
たとえばコマツの新入社員に対する語学研修は2010年度より英語から中国語に変更されたというし、伊藤忠商事では日本語、英語に加えて第3言語の習得を徹底させグローバル人材を育成する「特殊語学派遣制度」を2010年に導入したという。また資生堂も2010年度より「グローバルキャリア開発プログラム」を開始し、1年間現地に赴任して語学力の強化に取り組んでいるという。
日本市場の拡大が見込めない状況において、企業が生き残るためにはグローバル市場に打って出るしかない。そこで必要とされるのは第一に語学力であり、事実上の公用語である英語は社員誰もが習得しているべき必須のスキルとなる。その上で第二外国語への対応が求められる時代になりつつあることは間違いない。
TOEICで一喜一憂していられる古き良き時代は終わろうとしている。