3、安定
雨があがり、ようやく図書館で勉強することができた。
部屋に引きこもっていてはだめなのだ。
外に出て、五感に刺激を与えねば。
図書館には多くの受験を控えた高校生や年配が勉強している。
これが自分への刺激にもなる。
みんなが、俺よりも一回りもふた周りも小さいやつらもがんばっているのだ。
自分もがんばらねば。
自習室の利用時間が終われば、一般の読者となって、一般の人々が座る椅子で読書で済ませる勉強をする。
昼飯も近くのモールで一人、うどんやラーメンを食べて、すぐに図書館に戻る。
人に囲まれていると安心する。
俺は一人じゃないんだと。
そんなつながっているような感覚も気のせいかもしれないが。
図書館が休みの日にはスターバックスに行き、読書する。
これで、精神的に安定してきている。
自分や今までの思い出を考えれば考えるほど、不安定になるのだ。
たいした経験も人生も送っていないが、傷ついた心は時間だけが癒せると思う。
今はただ、がむしゃらになって、時間が過ぎるのを待とう。
そんな生活が続いている。
4、奇妙な関係
そして、例の彼女。
俺の彼女であり、恋人。
今まで、名前しか知らなかった。
お互い苗字を知らなかった。
やっと、聞くことができた。
だが、俺の苗字を聞いてはこない。
まだ、彼女への連絡方法もない。
連絡されなくなったら、この関係は終わる。
俺からなにも言えず終わってしまうこの奇妙な関係。
正直、長くない恋愛だと思っている。
だが、彼女から毎日、公衆電話から電話がかかってくる。
この前は彼女の両親の携帯から。(これには連絡はしないでと言われている。)
この前は彼女の友達から、電話とドコモメールがきた。
少なくとも、友達には俺のことは言えるようだ。
たぶん、俺は彼女に恋愛感情を持っていない。
彼女は俺のことをなにもしらない。
俺も彼女のことをなにもしらない。
お互い、顔も知らない。
この関係は0に近い。
そして、この関係は0から増やしていく関係だ。
そう、ちょうど友達を作っていく、学校のはじめの時期のような。
だから、いろいろ聞いていこうと思った。
趣味や夢を聞いた。
趣味はないそうだ。夢もないそうだ。
好きな音楽はあるそうだ。
やっと、彼女の人間らしさ?を1個ゲットできた。
高校を出てから、ずっとレストランで働いているそうだ。
兄弟姉妹はいっぱいいるらしい。
だが、趣味も夢もないなんて、なんてつまらない人生だろう。
いや、世の中にはそんな人いっぱいいるか。
ただ過ごしているサラリーマンやOLなんて五万といるに違いない。
俺のように夢を追っているやつらのほうが少数な気がする。
だが、彼女はきっと日々の生活をつまらないと感じているのだろう。
そして、俺は退屈しのぎの道具なのか?
彼女のこと、彼女の事情、彼女の思惑、謎ばかりだ。
これから、聞いていこう。
しかし、注意しなければならない。
知ることが、彼女との終りの可能性を秘めていることを。
それでもいいかと思っている。
そして、その時がきたらまた俺は傷つくのか?
こんな関係で傷つきたくはないな。
俺と彼女の関係、それは新鮮ではかなく、細い糸でつながれている。
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