きょうの社説 2011年2月10日

◎初の党首討論 すれ違いの印象ぬぐえぬ
 菅政権発足後、初めて行われた菅直人首相と自民、公明両党との党首討論は、ともに言 いたいことを言い合っただけで論点が深まらず、すれ違いの印象がぬぐえなかった。菅首相は、谷垣禎一自民党総裁や山口那津男公明党代表を「熟議の国会」の土俵に誘い込もうと、再三に渡って社会保障改革への協力を求めたのに対し、谷垣総裁は「マニフェストは破たんしている。この処理を後回しにしようというのは順序が違う」と取り合わず、解散を迫った。

 菅首相と谷垣総裁は、激しい論議を戦わしながらも、言質を与えないようガードを固め て臨んだ印象である。菅首相は何としても「与野党協議」への参加にうんと言わせたかったようだが、谷垣総裁は「マニフェスト違反を野党も一緒に協議して、片棒を担げという八百長相撲を、カド番だから取ってくれみたいな話には乗れない」と切り返し、言質を与えなかった。

 論議がかみ合わなかった責任の多くは菅首相の側にある。昨年6月、政権発足からわず か1週間後に予算委も党首討論も開かず、野党の反対を押し切って国会を閉じた。野党時代、民主党は党首討論を再三要求していたのに、政権交代後は手のひらを返したように開催を避けてきた。「政治とカネ」や政府内の足並みの乱れなどを突かれたくなかったからだろう。

 鳩山政権の発足後、初の党首討論まで5カ月かかった。菅政権は実に8カ月後である。 衆参「ねじれ」の状況下で、野党の協力が不可欠になってから、ようやく党首討論に応じ、その場で野党の協力を求めてにじり寄っても、疑いの目で見られるのが落ちである。与野党協議の前提となる社会保障の改革案について、菅首相がいくら「きちっと提案する」と言ったところで、普天間移設問題のように先送りばかりで実績が伴わないから信用されない。

 菅首相が党首討論を本気で充実させたいと思うなら、回数を増やすことだ。超党派の議 員から党首討論を2週間に1回、夜間に開催する案が出ている。党首討論の定例化とともに、時間延長も必要だろう。今回のように谷垣総裁が35分、山口代表が10分という配分では論議が深まりようがない。

◎性犯罪裁判 「全員女性」の検証はいる
 金沢地裁で行われた強盗強姦事件の裁判員裁判で、裁判員が全員女性となった点に関し 、法律専門家から男女の一方に偏ることによる判決への影響が指摘されたが、それは制度開始時から想定されていた課題でもある。

 とりわけ、性犯罪事件は性差で受け止め方が異なるとされ、裁判員が女性に偏れば、被 害者の心情を酌んで厳罰化が進むとの指摘や、逆に女性を意識するあまり、同情に抑制的になる可能性も言われてきた。「全員女性」という構成だけで疑問を挟まれては、凶悪犯罪に真摯に向き合った裁判員も不本意だろう。

 裁判員の労苦に報いるためにも、懸念が残っていれば、それをぬぐい去る必要がある。 今回は検察の懲役30年の求刑に対し、判決は懲役29年となった。このような「量刑相場」の変化も含め、裁判所は率先して検証し、改善点が見つかれば、選任の在り方を含めて弾力的に対応してほしい。

 裁判員の選任手続きは、候補者名簿から一定数をくじで選び、呼び出し状に同封される 質問票への回答などで辞退の希望があり、それが認められれば呼び出しを取り消す。当日は検察官、弁護人の不選任請求、くじを経て裁判員(原則6人)と補充裁判員が選ばれる。金沢地裁の公判では、補充を含めて9人全員が女性という異例のケースとなった。

 公判日程は金沢地裁では最長の8日間となり、辞退者や出頭拒否者の多くは仕事を持つ 男性だったのではないかとの指摘もある。さらに、不選任請求の段階で、女性の割合が高まるような絞り方がなされたのかどうか。

 性犯罪の裁判員が全員女性となった事例は、那覇地裁や札幌地裁など全国で出ている。 なかには裁判員から「一般男性の意見も聞きたかった」という感想もあった。

 増えてきた同種の事例を総合的に検討すれば、個別では見えない共通の課題が浮かんで くるかもしれない。男女の偏りが望ましくないとすれば、選任手続きの段階からバランスに配慮した見直しが必要になる。最高裁はぜひ検証を進めてほしい。