産経新聞の反共和国でっち上げ報道

グリコ・森永事件の共和国犯行記事


●「プロパガンダ」、新聞社の看板下ろすべき

 人それぞれ好き嫌いはあるものだ。しかし、いくら嫌いだからといっても、ありもしない話をそれらしく作り上げてデマを流し攻撃するなど、絶対にしてはならないことだ。それは、様々なタイプの人間の住む社会の最低の倫理でもありルールでもある。それが破壊されてしまえば、人間社会というのは力の強い者、ルールを無視した集団だけの論理がまかり通る獣(けだもの)の社会になってしまう。だから民主主義であり法治主義なのである。
 とくに社会に強い影響力を持つマスコミは、この点に最大の神経を払わなければならない。ところが最近、このマスコミの一部でこうした最低のルールさえも無視した論調が横行している。代表的なのがサンケイ新聞、現代コリアである。

 サンケイ新聞7月4日付は「『北』工作員グループの犯行 グリコ・森永事件 捜査関係者が確信 『キツネ目の男』特定していた 中心人物は死亡」という記事を掲載した。1面、社会面トップの非常に大きな扱いである。「『北』」とは朝鮮民主主義人民共和国を指す。見出しの通り共和国の工作員グループがグリコ・森永事件の犯人だった、というニュアンスである。

 事実なら、近年を飾る大スクープである。ところがこの記事、同日付の夕刊で「当時は最重要視」の4段見出しの記事が掲載された後、サンケイの紙面から消えてしまった。これほどの記事にもかかわらず他紙はまったく報じなかった。掲載しなかった理由について発行部数トップの新聞社記者は「荒唐無稽」と一笑に付し、また日本最大の通信社記者は「プロパガンダ」だと切り捨てた。つまり、サンケイの記事を裏付ける根拠はまったくなく、共和国と朝鮮総聯を攻撃するための意図的な記事だと断言した。

 とくに、この事件を取材してきた後者の通信社記者はつぎのように語っている。
 「サンケイの思考方式でいくなら、捜査の初期の段階に対象となった何千、何万の人間すべてが犯人に仕立て挙げられてしまう。事件直後、会社関係者、周辺に住む人間、縁故者、キツネ目顔の人間、赤いスポーツカーを所持する者など、事件に関わるあらゆる要素を持った人間が捜査の対象になった。それは彼らが事件の容疑者だからというのではなく、捜査というのはそういう作業から始めていくのが手順になっているからに過ぎない。サンケイもそうしたことは周知しているはずだ。だから、犯人以外の捜査対象者を活字にすることは、相手の人権を守るという観点からしても絶対にしてはならないことだ。それを守れないのなら、新聞社の看板を下ろすべきだ」 先に結論ありきの、共和国叩きの記事だから内容のでたらめさ、ひどさは言うまでもない。無理に「『北』工作員グループの犯行」に仕立て挙げようとするものだから、当然のごとく事実関係はあいまいで裏付けは一つもできていない。実はあまりのひどさに検証する側も閉口する始末だが一応、同紙の記事の流れに沿ってでたらめな部分の分析をしてみる。

 ●裏付けは1行もなし、すべて小説

 その1 「『北』工作員グループ」の中心人物、周辺にいた考古学者はいずれも死亡している。またこの記事の証言者である「警察当局首脳」は元関係者である。死人に口なしと言うが、反論もできない死亡した人間を対象に、これまた捜査とは無縁の、元関係者の話では事実関係の確認のしようがないのだから記事は成立しない。(唯一手段があるとすれば、犯行を断定しうる資料を捜査当局が公表することだ。是非やってもらいたい)

 その2 中心人物は昭和62年(1987年)に死亡しているが、なぜ死亡翌年の63年暮れから捜査を本格化させたのか、説明がない。容疑があったのなら死ぬ前に本格化させるのが常識だ。

 その3 金塊100キロを身の代金として要求されていたことと、死亡した中心人物が金塊を持っていたことが何の関係があるのか。何キロ持っていたという記述はなくただ金塊を持っていたことが捜査の対象になるのなら、何もこの社長だけが対象にはならないはずだ。特定する根拠がない。

 その4 考古学者が「江崎社長を恐喝してやるとたびたび漏らし、恨んでいた」というが、どういう理由からなのか。説明はない。

 その5 「(考古学者は)昨年8月から所在が分からなくなっている。この点について、捜査関係者は『病死した』とし、関係者は『北朝鮮に帰国した』と食い違った説明をしている」というが、彼は病死し都内の葬儀場で葬儀も行われた。役所に確認すれば済む初歩的な取材もせず、何かいわくありげな人物のように見せかけている。

 その6 社長の周辺グループにいたキツネ目の男は手配写真とは @あごが若干ふっくらしている A身長が低い、などの決定的な違いがあったというが、「確認した時期が事件発生から5年経過していることなどから、『その程度の微妙な違いはあり得る』」と捜査関係者の証言を引用している。体が肥えることはあるが、身長は伸び縮みするものなのか。

 その7 逮捕に至らなかった理由として、江崎社長誘拐が平成6年3月に時効を迎え…「中心人物とみられる貿易会社社長は死亡しており、周辺メンバーの行方もつかめず、捜査時期を逸した形となった」というが、彼らの犯行だと断定しているグループの足取りを確認していないかったとはどういうことなのか。足取りも追わずに犯行だと断定できる根拠は何なのか。サンケイは提示すべきだろう。

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 ざっと挙げても以上の通りだ。裏付ける根拠をストーリーで説明しているのだが、それでは小説だ。小説は事実ではなく、ましてや新聞記事にはならない。サンケイは4日の夕刊で、この話が刑事部ではなく公安部によるものであることを明らかにしている。誘拐身の代金事件を思想事件を担当する公安部の話を元に書いていること自体、共和国叩きという結論先にありきの構図を端的に示すものだ。 また、文中に警察関係者と使い分ける形でどこの人間か分からないただの「関係者」の証言が共和国とのからみで3ヵ所出てくるが、あの悪名高い元KCIA=安企部、その日本版=公安調査庁であることは論を待たない。(梁明哲)

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