2011年1月6日 21時16分 更新:1月7日 0時59分
携帯電話などの周波数帯の割り当てについて、政府は所管する総務省の判断で割当先を決める現行方式を見直し、希望する業者による競売(オークション)を可能にする。背景には、総務省が全面的に割当先を決める現方式に「不透明」と批判があることに加え、「周波数帯に高値が付けば、国の財政も助かる」(政府筋)との思惑がある。ただ、競売を導入する欧米では、落札価格が高騰、業者の経営が圧迫され、利用者へのサービスにも影響が出ている。【赤間清広】
「電波(周波数帯)オークションを日本に導入する議論を進める」--。総務省は昨年末の「光の道」構想に関する基本方針で、競売導入の検討を表明した。携帯電話はアナログ(第1世代)からデジタル(第2世代)、大容量デジタル(第3世代=3G)と高速・大容量化。多機能携帯電話(スマートフォン)の普及などで国内の通信量は今後10年で200倍以上になる見通し。入札導入論が浮上した背景には、通信量急増に対応するため、新たな周波数帯の割り当てや、割り当て済みの周波数帯の交換など、電波利用の効率化・再編が急務となっていることがある。
7月のテレビのアナログ放送停波・デジタル放送移行で、電波が途切れにくい「プラチナバンド」と呼ばれる周波数帯域に余裕が生じる。総務省は同帯域を現在利用するタクシー無線などの業者も他の帯域に移し、周波数帯に空きができた跡地を携帯電話各社に割り当てる方針だ。
総務省は従来「公共財の電波の配分を売買対象にするのは好ましくない」と主張。有識者で構成する電波監理審議会(総務相の諮問機関)の議論を経て、割当先を決めてきた。しかし、この方式には「選定過程が不透明」との批判も根強い。また、タクシー無線など現在、プラチナバンドを使う業者が他の周波数帯に移るには2000億円程度のコストが必要で、これを誰が負担するかも難題だった。そこで、政府は選定過程が明確で、巨額の落札額が見込める競売の導入にカジを切った。
競売は2段階で実施。プラチナバンド帯の再編では、移転費用を上限に、年内に競売を行い、12年中に割当先を決める。大手携帯3社で唯一、プラチナバンド帯を持たないソフトバンクモバイルなどが名乗りをあげるとみられる。
同時に、落札額に上限を設けない欧米型の本格的な競売方式の制度設計にも着手。15年以降に実用化が見込まれる動画などをより高速に送受信できる第4世代携帯電話(4G)の周波数帯割り当てに適用することを検討している。
通信会社にとって、周波数帯の確保は死活問題。このため、競売方式を導入した欧米では入札競争が過熱、落札額が急騰し、利用者に悪影響が及ぶ混乱も起きた。
例えば、00年代に実施された第3世代携帯電話(3G)の周波数帯オークション。落札総額が米国では約1兆9000億円、英国は3兆9900億円、ドイツは5兆600億円(当時のレートで計算)と兆円単位にのぼり、話題となった。しかし、その後、巨額の負担に耐えられず、取得した帯域を返上したり、事業停止に追い込まれる例も続出。ドイツでは業者の経営悪化で3Gのサービス開始が遅れた。
日本が4G帯域の割り当てで本格的な競売を導入する場合も、欧米同様、落札額の高騰が予想され、利用料への転嫁などでユーザーに悪影響が及ぶ懸念がある。
財政難にあえぐ政府内には新たな「埋蔵金」として周波数帯の競売に期待する声もあるが、制度設計を誤れば、欧米のような混乱が起きかねない。民間有識者からは慎重な対応を求める声も出ている。
音やデータを送る電波は周波数帯によって伝わりやすさに差があり、送信できる情報量にも濃淡がある。また、混線などを避けるため、帯域の利用には限界があり、総務省は現在、帯域を特性に応じて、放送や携帯電話向けなどに割り振っている。帯域利用の対価として業者は毎年、国に電波利用料(年間約700億円)を支払う。