マラソン:好記録はペースメーカー次第 福岡国際では珍事

2010年12月11日 10時49分 更新:12月11日 12時4分

福岡国際マラソンの30キロ地点で係員に制止されてレースをやめたキプタヌイ=2010年12月5日、矢頭智剛撮影
福岡国際マラソンの30キロ地点で係員に制止されてレースをやめたキプタヌイ=2010年12月5日、矢頭智剛撮影

 5日に行われた福岡国際マラソン(日本陸上競技連盟など主催)で、関係者が「前代未聞」と口をそろえる珍事が起きた。レース途中まで一定のタイムで選手を先導する役割のペースメーカーが途中から暴走、大荒れの展開となった。ペースメーカーの実態とは?【井沢真】

 福岡国際には4人のペースメーカーが登録されていた。ところが、15キロを過ぎた直後、エリウド・キプタヌイ(ケニア)が急激にスピードを上げた。「5キロを15分10秒を切るペースで31キロ過ぎの折り返し点まで走る」という主催者側との約束を無視し、15~20キロまではなんと14分15秒。30キロ地点で赤旗を手にした係員が進路をふさぎ、ようやく“暴走劇”は終わったが、日本陸連の沢木啓祐専務理事は「みっともない動きのせいで波乱になった」と嘆き、日本の有力選手たちも「全く聞いていない」と困惑顔だった。

 ペースメーカーには、選手がけん制し合ってスローペースになるのを避け、好記録の誕生を「演出」する役割が求められている。海外では80年代、国内では90年代から存在が知られ始めた。主にギャンブル目的で犬を競走させる「ドッグレース」がうさぎの模型に先導させることから「ラビット」とも呼ばれた。日本陸連は「記録の挑戦に必要な条件」として03年福岡国際から公認した。

 かつては選手側が個人的にペースメーカーを雇う例もあったが、現在は大会主催者が主に海外の代理人を通じて契約し、報酬を支払う。設定タイムは出場選手の実力や希望、気象条件などを加味して主催者側が決める。国内では2時間7分台を狙える5キロ15分程度に設定し、中間点や30キロまででレースをやめるケースが多い。距離ごとにペースメーカーの役割も異なり、今回の福岡国際では15キロまでを日本の松村康平(三菱重工長崎)が引っ張り、その後はキプタヌイらが集団を先導する予定だった。

 キプタヌイは出場選手の中で優勝したジャウアド・ガリブ(モロッコ)に次いで速い自己ベスト記録(2時間5分39秒)を持つ。だが、21歳と経験が浅く、主催者側によると、レース前に「完走してもいいのか?」と聞いてきたといい、「絶対にダメだ。報酬がなくなるぞ」とクギを刺したという。

 ルール上は他選手と同様に完走しても記録は認められ、過去には主要マラソンでペースメーカーが優勝した例もある。だが通常は、完走の場合は報酬を支払わないと規定する契約が多く、途中で棄権する。キプタヌイの胸の内はわからないが、主催者側は「代理人から本人に指示が十分に伝わらなかった可能性もある」とみる。

 最近はペースメーカーを若手育成に活用する動きもある。日本陸連は世界選手権の女子代表選考レースとなる来年の3大会で、強化の一環として日本選手を起用する予定だ。スピードを体感させ、マラソン挑戦へのステップにする狙いがある。男子では既に同様の試みが行われている。

 日本陸連長距離・ロード特別対策委員会の河野匡副委員長は「マラソンのスタートラインに立つためのカベを取り除ける」と選手育成にも役立つ効果を認める。しかし、記録より勝負が重視される五輪や世界選手権ではペースメーカーは認められておらず、ランナーが作られたペースに慣れることには「駆け引きなどを学ぶ経験値が少なくなり、勝負強さを養いにくい面もある」とも指摘する。

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