中川昭一ライブラリ

NAKAGAWA Shoichi Library

講演録・文書等
2011.02.02

【講演】わが国の安全保障、WTO Vol.1(2008〈平成20〉年6月10日)

わが国の安全保障、WTO Vol.1
2008年6月10日 第39回一柳アソシエイツ特別講演にて


◆はじめに
 今日は、「安全保障とWTO」という大きな課題を頂きました。
 実は慌てて朝7時に事務所に行って、一生懸命資料を作ったり、考えていることをメモして参りました。ただ、私は話があちこちに行きますので、お聞きづらい部分もあると思いますが、お許し頂ければと思います。


◆安全とはなにか
 まず、安全保障と申しますと、どうも「米・英・ソ冷戦時代」が我々の頭に残っているような感じですけれども、もう随分変わってきたんだろうと思います。

 例えば、「安全」という言葉を考えますと、食の安全、あるいは最近も大きな殺人事件がありましたが、そういう意味での安全、そして国家的な意味での安全保障もありますし、エネルギーの問題も安全保障の一つです。

 そういう意味では、「安全保障」というとなんだか石破茂が一人で頑張っているような印象もあるんですが、石破さんも一生懸命やっていますけれども、警察関係の方々、国交大臣も経産大臣も、あるいは環境大臣、そしてもちろん総理大臣が、みんなで安全保障をやっていかないと本当の意味の日本の安全保障というのは成り立っていかないと思うんです。
 その意識をみんなで共有していかなければいけないんだろうと。それが、「安全保障をみんなで考える」ことになるだろう、と思っています。

 つまり、保障すべき安全というのは、軍事だけではなくて日々、皆さん召し上がっている食事、あるいは、命の安全まで含まれる。
 私がこのホテルを出た瞬間、ひょっとしたらワッとやられちゃうかもしれないけれど、まあ政治家である私がやられるのは仕方がないこともあるかもしれませんが、そうではなく、政治家でもない皆さんまで危険を脅かされるような事態は、国、政治、行政が無くしていかなければならない、そして、それを今きっちりと考えなければならない大事な時期に来ていると思っております。


◆アリとキリギリス?-日本の現状
 さて、今日の私の話は悲観的な部分が多々あることを最初にお伝えしておきます。

 まず、戦後60年、つまり我々の多くが知っている60年は常に「右肩上がりだった」ということを確認しておきたいと思います。
 この60年の間にも、オイルショック、あるいはベトナム戦争などいろいろなことがありましたけれども、常に国民の皆さんのご努力で全体としては右肩上がりでした。
 しかし、バブル崩壊以降の日本というのは右肩下がりが前提であると感じています。
 そういう右肩下がりの中、「日本の経済は世界第二位だ」とか「世界一の長寿国家である」、あるいは「国民の個人資産が1540兆円あって素晴らしい国だ」、「国富が3000兆円もある」などと、外国人から言われることに、私は最近非常に反発を感じております。


 なんかこう、「日本は別にそのままでもいいんでしょ」と言われているような気がする。でその間に、BRICs、ヨーロッパ、あるいは南米やアフリカなど、みんな一生懸命頑張っている。
 我々も決して遊んでほうけているわけじゃないから、ちょっと違うかもしれませんが、「アリとキリギリス」のキリギリスのようなイメージなんじゃないか、と。外国にとっての日本が。

 世界経済はつい最近まで5%成長をしていた。世界全体が5%成長をしておりました。その間、日本は1%か2%です。
 外国から見れば、「日本は適当にやっているね。まあ、ほどほどにしていればいいんだよ、その間、俺たちが頑張るからね」ということなのではないか、と。
 そして、日本は、残念ながら、原料高、食糧高、原油高、いろんなことで皆さん方が大変苦労している。
 アリとキリギリスだとするならば、キリギリスは最後に飢えてしまうんです。

 今の日本は右肩下がりが前提になってしまうけど、それを理解した上でキリギリスにならないような策を取らなければならないんです。


◆WTOを考える前に
 今日もこれからある経済人とアナリストの方と、サブプライムローン問題はいったいどのぐらい大きな影響があるのか、についてお昼にじっくり話をする予定なのですが、私は、サブプライムローン問題は、ある意味では1930年代のアメリカの大恐慌と似た形なのではないか、と思っております。
 したがって、これからますます、金融だけではなくて実体経済のほうに大きく影響してくるのではないか、と恐れています。

 もうここまで話すだけで、中川は相当な悲観主義者だ、と思われるのかもしれません。まあ、私が間違っていればそれに越したことはないと思いますが。

 昔、私が在籍しました今はなき日本興行銀行という銀行がございました。
 そこでの私の友人3人によく話を聞いているのですが、その3人は去年の8月あたりから経済の今後を非常に厳しい目で見ている。
 「経済への強気論」を展開する方々もいらっしゃるのですが、現実には、残念ながら私の友人の言う通りになってきていまして、私自身、その強気路線を進もうとしている方々を非常に心配しているわけであります。

 あとでお話しするかもしれませんが、今の日本は水すら非常に厳しい状況ですから、本気でもう一度みんなで考えることをしないと、気がついた時にはキリギリスになってしまうかもしれない。
 企業的にいうと、資産はいっぱいあるのだけど流動性の面で全然負けちゃって、そしていいようにやられてしまう、黒字倒産になってしまう。
 こういう日本にならないためにも、思い切った対策を今こそとっていかなければいけないと考えています。

 確かに日本はいま非常に厳しいです。
 私の地元北海道をはじめ全国どこへ行っても非常に厳しい。
 そういう中で原油が上がっていく。経済の第一線にいらっしゃる皆さんはすでにお聞き及びかもしれませんが、有名な世界的なエコノミストたちの中には、原油は200ドルまで上がるんじゃないかと言い出す人もいる。


 食糧問題も価格は上昇しているし、根本的な問題を解決できないでいる。
 アメリカやブラジルは「自分たちのバイオエタノールは食糧価格にそんなに大きな影響は与えていない」と言っておりますが、もちろん価格は大事なんですが、食糧問題の最大のポイントは、世界で10億人の飢餓人口がいるという事実があり、これをどうやって解決していくか、なんですね。
 これを、食糧価格が上昇した、あるいは変わらないなどの議論とだけ結びつけるのは、ある意味、私は、「それは議論のすり替えだ」と申しております。

 食糧問題、あるいはバイオエタノールの問題だけじゃないですね、エネルギー・原油問題にしても、経済問題にしても、すべて、「根本的な問題は何なんなのか」をしっかり見据えた上でないと、WTOの議論にせよ、サミットにせよ、外交において、アメリカ、あるいは一部のヨーロッパ、一部の国の国益だけのために振り回されてしまう、といつも考えています。

 以上のことをご理解して頂きまして、WTOのお話をさせて頂きます。

(つづく)

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