中川昭一ライブラリ

NAKAGAWA Shoichi Library

講演録・文書等
2011.02.09

【講演】わが国の安全保障、WTO Vol.2(2008〈平成20〉年6月10日)

わが国の安全保障、WTO Vol.2
2008年6月10日 第39回一柳アソシエイツ特別講演にて

わが国の安全保障、WTO Vol.1」のつづき


◆コメの輸入関税化
 私は、GATT・ウルグアイラウンドの交渉の最後を知っている数少ない議員の一人でございます。
 ウルグアイラウンド時には、アメリカとEUが最後に土壇場でお互いに言い合うことはやめようと話をつけて、そして韓国は、その時の大統領・金大中さんがアメリカの大統領に「自分たちのコメを守りたい」泣きついた。

 しかし、日本は若干出遅れてしまった。
 そして、日本だけがコメの義務的輸入というミニマム・アクセスという制度を受け入れました。
 このミニマム・アクセスは関税をどうこうするよりもいい、という理論だったのですが、結果的に要らないコメがどんどん入ってきてしまいました。その量は国内消費量の4%から8%まで毎年0.5%ずつ上がっていく。

 お米というのは100万トン備蓄するためには大体数千億円の費用がかかります。これはもちろん、国民の税金です。
 こうして入ってきたコメは、一部はおせんべいなど加工品の部分では売れますけれども、主食用では売れないんですね。日本人はやっぱり日本のお米を食べたい。これは消費者の嗜好だと思います。

 売れるあてはないのだけども、でも、76万7000トンのコメを無理やり買わされてしまう。

 私が農林水産大臣をやったときの最初の仕事は、もうこれ以上、義務的輸入をしないという判断をすることでした。

 もうその段階ではもう、さっき申し上げたように輸入量は国内消費量の7.2%まで上がっておりました。
 それから0.8%さらに増やすことは、財政的にも、あるいは、食糧政策的にも、さらにもっと言えば、世界中にいる約10億人の貧しい人がいるという問題から考えても、できないだろう、と。
 世界中の貧しい人への食糧援助という手法があるのではないかという判断で、これは関税化で対応するしかないという決断に達したわけでございます。


◆ミニマムアクセスから関税化へ
 最初は、農業団体の皆さん方から大きな反対を受けました。
 しかし、このまま義務的輸入を続けていてはダメだという我々のわれわれの説明を理解をしていただきまして、4%から7.2%まで来た時点でこれ以上は義務的輸入はしないというになりました。
 マスコミの人たちは非常に批判的でして、まあ、どっちに転んでも批判的なんですが、その決断に対して、すでに7.2%は入ってきている、76万7000トンは日本に輸入されてきているじゃないか、とご指摘は頂きましたが…。

 今、WTOで交渉のテーブルに上がっているのは、これをベースにしてどれだけ増やし方を少なくできるか、ということです。
 ミニマム・アクセスの議論はそのままだと思いますけども、今度のWTO農業交渉はすべての関税率を下げるんです。コメであろうが、工業品であろうが何であろうが。
 問題は下げ方なんです。

 農業の点では、平均の削減率54%が良いか悪いかという議論をしています。
 

 日本がしっかり頑張れば関税率を下げなくても済むんじゃないかと思っている人たちがいるかもしれませんが、全部下げなければならないんです。

 その条件の中で、コメに代表されるような日本にとって非常に大事なもの、例えばアメリカで言えば綿花、こういったものをどのぐらい守るか。これらの重要品目の関税率の下げ方の度合いをどのぐらいにするかという交渉になるんです。

 つまり、平均の下げ率は54%ですけれども、それら重要品目だけは別に考えつつ、全体としては54%にしましょうという議論を今、ギリギリの状況でやっております。

 どこの国でもそうなんですが、農業は、日本の場合、国内における経済比率は10%以下です。ですからこういう交渉事の際、農業はマスコミには批判的に報道されておりますけれども、農業というのは大事なんですよ、我々の食べ物なんですから。



◆WTO・ドーララウンド
 WTOのドーハ開発ラウンドは、2001年11月にカタールのドーハでスタートをいたしました。
 2001年11月、つまり2001年9月11日のあのテロ直後にスタートしたわけであります。
 テロ直後ということで経済界には行くのをやめまた方々がいらっしゃいましたが、我々はそういうわけにもいきませんので、家族4人で神社に行き、私がなんとか無事に帰ってこれるようお祓いをしてもらい、お札を持って行きました。

 ドーハ・ラウンドとよく言われますが、正式には、「ドーハ開発アジェンダ」(Doha Development Agenda)といいます。ドーハ・ディベロップメント・アジェンダとしたのは、開発途上国のためのラウンドにしようという意味が込められています。

 ドーハ・ラウンドの前身であるウルグアイラウンドは、初めて農業が交渉内容に入ってきた場なんです。
 そのせいもあって、農業については各国それぞれに不満が残りました。
 ですから、農業をもっと話しあおう、そして途上国のためにも、もっときっちり交渉を進めようとスタートしたのがドーハ開発ラウンドなんですね。

 途上国も含めた話合いですから、日本やアメリカやヨーロッパから見れば、どれだけ譲れるかが基本なんです。
 したがって、日本は農業分野に限らず、譲らなければならないところは譲るべきだ、と思っています。

 WTO加盟国は約180ヵ国ありますが、途上国には入らない、つまり先進国はEUを27とカウントして、アメリカ、カナダ、日本、豪州、ニュージーランド、そして、スイス、ノルウェーといった非EU加盟国で、残りの120数ヵ国が途上国とされます。

 その途上国の中には核兵器を持っている国もあれば、国連の常任理事国になっている国もある。そして、シンガポールのように一人あたりのGDPが日本よりも高いような国もあるんですね。これらもWTOでは途上国なんです。
 その一方で他、1日1ドル以下で生活している国々もいっぱいあるわけです。


◆WTOの真実
 私は、本当の意味で途上国を救済しようと、今度、駐米大使になる藤崎さんとずっとこの問題に取り組んでまいりました。

 しかし、現実のWTOの議論は「途上国のための」という部分がどこかへ吹っ飛んでしまっている。

 例えば、アメリカは綿花が政治的に非常に強い。他方、アフリカのベニン、ブルキナファソ、マリ、チャドなどのように1日1ドル以下での生活を強いられているの国の中にもも綿花でしか生きていけない国があるんです。
 
 そういうアメリカとそういうチャドが喧嘩してるんですよ、綿花の問題で。

 あるいは輸出のほとんどがコーヒー、あるいは銅鉱石、あるいはダイヤモンド鉱石と言った国々と、途上国と言われている中国、ブラジル、インド、南アフリカ、エジプトなどの大国が喧嘩した状態がもう6年も7年も続いているんです。

 こういう状況が今のWTOなんです。

 ですから結論的に言います。
 私は今回のWTO交渉はいったん、壊さなければいけないと思っています。

 本当のLDC(lesser developed country:開発途上国)のためにはなっていない交渉なんですよ。
 インドあたりの首脳がカッコイイことを言ってますけど、彼らは自分の国のことしかを考えていない。それしか目が行っていないんです。
 本当に困っている同胞のバングラディシュ、パキスタン、ブータン、あるいはアフリカの多くの国々のことを考えていないし、考えようとしない。

 WTOの今回の目的を理解しようとせず、そして、他国のことなどは考えていないことをバレないようにするために、彼らも一生懸命努力して来たのだと思いますけども、遂に化けの皮がはがれてきつつあります。

 そういう交渉はやはり壊さなければならないんです。

(つづく)

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