銀輪の死角

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銀輪の死角:スタントマンが事故再現、交通安全教室 恐怖体感し効果

スケアード・ストレート方式による自転車教室で、自転車事故を再現するスタントマン=JA共済連提供
スケアード・ストレート方式による自転車教室で、自転車事故を再現するスタントマン=JA共済連提供

 ◇高額費用、普及のネック

 スタントマンが自転車事故を再現して恐ろしさを体感させる「スケアード・ストレート方式」による交通安全教育が東京都を中心に広がっている。都内では今年度に142回予定され、前年度126回から13%増。警察庁は「中高生の安全教育に効果的」と実施を勧め、参加者にも好評だが、費用が1回30万~40万円と高額で、自治体の厳しい財政状況が更なる普及のネックになっている。【馬場直子、北村和巳】

 警察庁は07年、自転車事故防止に向け「ルール違反の危険性を体感させる安全教育」を都道府県警に通達。07~08年度にスケアード・ストレート方式の効果を調査、研究し、全日本交通安全協会とともに教育マニュアルやDVDを作成。09年5月に全国の全中学・高校計約1万6500校に配り、文部科学省を通じて都道府県教委に活用を促した。

 スタントマンが再現するのは「携帯電話を使いながらの運転」や「見通しの悪い交差点でのバイクとの出合い頭事故」「トラックの左折時の巻き込み」など。警察庁の担当者は「実際の事故に近い現場を見せることで、説明を聞くだけよりルールを守る必要性が意識される」と話す。

 同方式の自転車教室は都内では主に中学生を対象に実施され、09年度に全62市区町村のうち34市区町が計3290万円の予算を計上し開催。10年度は35市区町が計3924万円をかけて行う。

 最も回数が多いのは世田谷区。09年度は区立中11校と自動車学校など6カ所で開催し、10年度も17回の実施を予定。31校ある区立中に在学中、1度は体験できるようにする。市内の交通事故の4割が自転車事故の府中市は、予算を09年度の25万円から10年度は79万円に3倍増とした。

 だが、実施拡大には厳しい財政状況が壁になっている。都市長会は昨年7月、都に財政支援を求めたが、都は「各自治体の予算で対応してほしい」との立場。都によると、消極的な自治体は財政難に加え「子供に事故を直視させるのはショックが大き過ぎる」と考えているという。

 同方式の自転車教室はほかに全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)が警察と協力して09年度から全国各地で始めた。JA共済連は保険を扱うため、以前から交通安全活動に力を入れており、担当者は「通学で自転車を使う中高生が交通安全に関心を持ってくれると考えた」という。09年度は32都道府県で計43回実施し、10年度は43都道府県で計75回行う予定だ。

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 情報やご意見、体験談をメール(t.shakaibu@mainichi.co.jp)、ファクス(03・3212・0635)、手紙(〒100-8051毎日新聞社会部「銀輪の死角」係)でお寄せください。

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 ■ことば

 ◇スケアード・ストレート方式

 スケアード(scared)は「怖がる」「おびえる」という意味。「恐怖を直視させる」ことで、受講者に結果の恐怖を実感させ、それにつながる危険行為や望ましくないことを行わせないようにする教育手法。事故現場を再現する交通安全教室のほか、米国では非行少年に刑務所を訪問させ、受刑者の話を聞かせて犯罪防止を図る取り組みなどが行われている。

毎日新聞 2011年1月21日 東京夕刊

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