減税に抗する「職業議員」との激闘記:河村たかし(名古屋市長)
私は、年収800万円とはいえ、市民の血税をいただいている。しかも、市長に当選するうえでの最大の公約が「減税」であった。それを否決されて、「議会の意向なので、どうしようもないんです」といって済む問題だろうか。しかも市議会は、私の政策を実行すれば既得権を侵される立場にある「当事者」だ。その議会に否決されて、諦めろというのか。
総理大臣ならば、衆議院を解散して民意を問うことができる。ならば、市長が信念を貫き、市議会リコールの旗を振って、何の悪いことがあるだろうか。しかも、それは民意に問うことなのだから、けっして「暴君」などといわれるいわれはない。
まことにありがたいことに、5万人弱にも及ぶ方々が署名を集める受任者として必死に走り回ってくださり、リコールの署名は、約466,000人分集まった。だが、思わぬ抵抗に遭うことになった。市選挙管理委員会が、署名の審査を厳正に行なうとして、審査期間を1カ月延長したうえに、結果的に11万人分以上を無効としたのである。このため、一時は、住民投票成立に必要な365,795人に届かない、ということになった。
むろん私とて、その審査が適正なものならば異論はない。だが、その審査はあまりにも「度を越した」ものであった。これまでの審査では、市民の直接請求権を尊重する意味で、比較的緩い基準が取られていた。今回の署名活動も、それに準じて行なわれていた。だが、署名の提出が終わった9月30日に開かれた市選挙管理委員会の議事録に、「今回の署名の目的は市議会の解散であり、署名の審査はより厳格にしていく必要がある」とあるように、基準が厳しくされたのである。
そして、とてつもないことが行なわれた。11月29日付の『中日新聞』によれば、住所の地番「20-3」が「20・3」にみえるという理由で無効にされたり、受任者の住所欄に書き損じて2平方ミリメートル程度の点が残ってしまっていたものを、請求代表者の「訂正印なし」という理由で無効とするなど、やりたい放題だったというのだ。高齢のため字を上手に書けず、それを無効だといわれて「わしも長く生きすぎた」と肩を落とした方がおられるという話も聞いた。「電話帳を写した可能性がある」などと、ひどいことをいう人がいたが、生年月日を書かなければいけないのだから、そんなことができるわけがない。
なぜ約11万人分の署名は、無効にされたのか。市選挙管理委員四名のうち、3名が市議会OBだといえば、疑念を抱く人もいるかもしれない。審査基準も、前出の『中日新聞』が報じるところによれば、選挙管理委員会事務局長が「事務局としては、これまでの実例・判例からそこまで明確にしてよいものか疑問は残ります」といったのに、委員がそれを遮って厳格化させたという。
議員の立場を守るために、そこまでして、市民の権利を踏みにじる「署名の虐殺」が行なわれたのだ。民主主義の仮面を被った独裁政治のような恐ろしさを肌身に感じた思いがした。
当然、このような審査に、市民の怒りは燃え上がった。署名を無効にされたことへの異議申し立ては3万件を超えたのである。かくて2010年12月15日に、リコールを問う住民投票のため必要な署名数が確定したのであった。
この場合でも、即解散になるわけではなく、議会解散の是非を問う住民投票を経て、解散となる。民意を問う場が署名審査の次の段階に控えていることを考えれば、「署名虐殺」に走った今回の名古屋市選挙管理委員会の対応は、どう考えても異常であった。署名の審査に際して選挙管理委員が優先すべきは、「市民の政治活動の自由を守ること」であるはずだ。
私は市長就任以来、「民主主義発祥の地ナゴヤ」という言葉を掲げてきた。だが、まさにいま「民主主義の真価」が問われているのである。
首長経験者の力をもっと国政に
いま「中京都構想」を掲げ、来る愛知県知事選に立候補予定の大村秀章氏や、同じく「大阪都構想」を掲げている橋下徹大阪府知事と連携することを考えている。これは、愛知県と名古屋市を一体化し、現在、県と政令指定都市とで重複している行政を効率化することによって、減税を全県規模に拡大していこう、という考えである。
ここで気を付けねばならぬことは、この構想の主たる目的は「県と政令指定都市の一体化」という間仕切りの話ではなく、あくまでその結果実現される「減税」にある、ということである。
市民からすれば、間仕切りの話だけでは、何の意味もない。「減税」こそ、本稿でみてきたように大きな抵抗に直面する可能性が大きいが、市民の幸せに直結するものであり、全力で取り組むべき課題なのだ。
私は衆議院議員を経験したのちに市長を務めたわけだが、国のためにお役に立とうと思ったら、「地域を経営する」という地方自治体の首長の経験はきわめて有意義なものだと実感している。首長経験者の力をもっと国政に反映させることができれば、日本の政治も、いまのように改革にも取り組めず、大事なことを何も決められない状況から脱することができるのではないか。橋下徹氏ら改革派首長や日本創新党などの首長経験者と連携し、声を挙げていきたいと考えている。
いちばんの近道は、首長や地方議員と国会議員の兼職を認めるようにすることだ。すでにフランスなどでは行なわれており、十分に実現可能である。いま家業を継ぐ「職業政治家」ばかりになり、政界へのリクルート力が大幅に低下してしまった。それを打開するためにも、有効な一手だ。
二番目は首長グループをつくっていくことであろうが、やはり旗印は「減税」であるべきであろう。世界の政治をみても、たとえば「アメリカの共和党が減税で民主党が増税」というように、ここが最大の対立軸になっている。私も日本の民主党を「減税民主党」にすべく努力してきたのだが、いまや国会は右も左も、みな「増税勢力」になってしまった。これではいけない。
実際に改革に取り組んできた首長は、「納税者のみなさん、ありがとう」という実感を強くもっている。この得難い実感を結集し、増税勢力と対抗できれば、日本の国は見違えるような元気な国になるはずだ。ぜひ、それをめざしたい。
総理大臣ならば、衆議院を解散して民意を問うことができる。ならば、市長が信念を貫き、市議会リコールの旗を振って、何の悪いことがあるだろうか。しかも、それは民意に問うことなのだから、けっして「暴君」などといわれるいわれはない。
まことにありがたいことに、5万人弱にも及ぶ方々が署名を集める受任者として必死に走り回ってくださり、リコールの署名は、約466,000人分集まった。だが、思わぬ抵抗に遭うことになった。市選挙管理委員会が、署名の審査を厳正に行なうとして、審査期間を1カ月延長したうえに、結果的に11万人分以上を無効としたのである。このため、一時は、住民投票成立に必要な365,795人に届かない、ということになった。
むろん私とて、その審査が適正なものならば異論はない。だが、その審査はあまりにも「度を越した」ものであった。これまでの審査では、市民の直接請求権を尊重する意味で、比較的緩い基準が取られていた。今回の署名活動も、それに準じて行なわれていた。だが、署名の提出が終わった9月30日に開かれた市選挙管理委員会の議事録に、「今回の署名の目的は市議会の解散であり、署名の審査はより厳格にしていく必要がある」とあるように、基準が厳しくされたのである。
そして、とてつもないことが行なわれた。11月29日付の『中日新聞』によれば、住所の地番「20-3」が「20・3」にみえるという理由で無効にされたり、受任者の住所欄に書き損じて2平方ミリメートル程度の点が残ってしまっていたものを、請求代表者の「訂正印なし」という理由で無効とするなど、やりたい放題だったというのだ。高齢のため字を上手に書けず、それを無効だといわれて「わしも長く生きすぎた」と肩を落とした方がおられるという話も聞いた。「電話帳を写した可能性がある」などと、ひどいことをいう人がいたが、生年月日を書かなければいけないのだから、そんなことができるわけがない。
なぜ約11万人分の署名は、無効にされたのか。市選挙管理委員四名のうち、3名が市議会OBだといえば、疑念を抱く人もいるかもしれない。審査基準も、前出の『中日新聞』が報じるところによれば、選挙管理委員会事務局長が「事務局としては、これまでの実例・判例からそこまで明確にしてよいものか疑問は残ります」といったのに、委員がそれを遮って厳格化させたという。
議員の立場を守るために、そこまでして、市民の権利を踏みにじる「署名の虐殺」が行なわれたのだ。民主主義の仮面を被った独裁政治のような恐ろしさを肌身に感じた思いがした。
当然、このような審査に、市民の怒りは燃え上がった。署名を無効にされたことへの異議申し立ては3万件を超えたのである。かくて2010年12月15日に、リコールを問う住民投票のため必要な署名数が確定したのであった。
この場合でも、即解散になるわけではなく、議会解散の是非を問う住民投票を経て、解散となる。民意を問う場が署名審査の次の段階に控えていることを考えれば、「署名虐殺」に走った今回の名古屋市選挙管理委員会の対応は、どう考えても異常であった。署名の審査に際して選挙管理委員が優先すべきは、「市民の政治活動の自由を守ること」であるはずだ。
私は市長就任以来、「民主主義発祥の地ナゴヤ」という言葉を掲げてきた。だが、まさにいま「民主主義の真価」が問われているのである。
首長経験者の力をもっと国政に
いま「中京都構想」を掲げ、来る愛知県知事選に立候補予定の大村秀章氏や、同じく「大阪都構想」を掲げている橋下徹大阪府知事と連携することを考えている。これは、愛知県と名古屋市を一体化し、現在、県と政令指定都市とで重複している行政を効率化することによって、減税を全県規模に拡大していこう、という考えである。
ここで気を付けねばならぬことは、この構想の主たる目的は「県と政令指定都市の一体化」という間仕切りの話ではなく、あくまでその結果実現される「減税」にある、ということである。
市民からすれば、間仕切りの話だけでは、何の意味もない。「減税」こそ、本稿でみてきたように大きな抵抗に直面する可能性が大きいが、市民の幸せに直結するものであり、全力で取り組むべき課題なのだ。
私は衆議院議員を経験したのちに市長を務めたわけだが、国のためにお役に立とうと思ったら、「地域を経営する」という地方自治体の首長の経験はきわめて有意義なものだと実感している。首長経験者の力をもっと国政に反映させることができれば、日本の政治も、いまのように改革にも取り組めず、大事なことを何も決められない状況から脱することができるのではないか。橋下徹氏ら改革派首長や日本創新党などの首長経験者と連携し、声を挙げていきたいと考えている。
いちばんの近道は、首長や地方議員と国会議員の兼職を認めるようにすることだ。すでにフランスなどでは行なわれており、十分に実現可能である。いま家業を継ぐ「職業政治家」ばかりになり、政界へのリクルート力が大幅に低下してしまった。それを打開するためにも、有効な一手だ。
二番目は首長グループをつくっていくことであろうが、やはり旗印は「減税」であるべきであろう。世界の政治をみても、たとえば「アメリカの共和党が減税で民主党が増税」というように、ここが最大の対立軸になっている。私も日本の民主党を「減税民主党」にすべく努力してきたのだが、いまや国会は右も左も、みな「増税勢力」になってしまった。これではいけない。
実際に改革に取り組んできた首長は、「納税者のみなさん、ありがとう」という実感を強くもっている。この得難い実感を結集し、増税勢力と対抗できれば、日本の国は見違えるような元気な国になるはずだ。ぜひ、それをめざしたい。
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2011年2月号のポイント
失策続きの民主党政権、新興国企業に追い上げられる日本メーカー、将来不安を増大させる医療&年金問題……2010年は暗い話題が多く、なんとなく元気を失ってしまった日本人。そこで、今月号の総力特集では、『日本人を元気にする「10の特効薬」』と題し、政治&経済から結婚&育児まで、元気の出る「処方箋」を提示。特集は「近代史に学ぶ『政治の決断』」。併せて、ご堪能ください。
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