減税に抗する「職業議員」との激闘記:河村たかし(名古屋市長)
経済回復させるためには、まず「減税」を実現させて、行財政のムダを省くとともに、民間の手元に残るお金を増やして経済を活性化させる。そして民間の貯蓄過剰分を国や自治体の債券で吸収し、有効に使う(公務員天国をつくるのではなく、経済活性化のために使う)ことによって、活発なお金の流れを取り戻すことが肝要なのである。
議員が「悪い王様」に!
名古屋市は、率先して「減税」に取り組もうとしたのに、なぜ市議会が反対したのか。ここに、いまの日本の政治の大きな問題点がある。議員が「職業化」して税金議員になってしまっていることが、大変な弊害をもたらしているのである。
議員たちが「減税」に反対するのは、自分たちの既得権と真っ正面からぶつかるからである。まず、減税をすると、議員たちが使い途を決められる金額が減ってしまう。これは議員たちからすれば自分たちの権力の源泉の一部を手放さなければならないことになる。さらに、自分たちの報酬が減ることにもつながる。市の職員たちが身を削って行財政改革を進めているのに、議員だけが高額の報酬を貰いつづけるわけにはいかなくなるからだ。
議員の既得権固守を象徴する、もう一つの出来事が、名古屋で進めようとしている「地域委員会」への抵抗である。
これは名古屋市内の小学校の学区単位で、ボランティアの地域委員を住民の投票で選出し、彼らに地域の課題とその解決策を検討してもらい、実際にその取り組みに対して予算付けをしていくものである。「住民が協力して、自らの手で自分たちの町をよりよくしていく」ことで、地域コミュニティの活性化を図ろうというプランだ。すでに平成22年にモデル事業を行ない、「歴史的建造物を活かしたまちづくり」「健康パトロール」「安心安全なまちづくり」など、創意工夫あふれる取り組みがなされるようになった。
だが、市議会はこの事業を拡大させる予算案にも反対をした。議員たちからすれば、これまでは地域で選ばれるのは自分たちだけだったのに、そこに地域委員が現われた。考えようによっては、地域委員は、いつ自分の対抗馬になるかもわからない。家業を守るために、地域の民主主義の芽をつぶそうとするのである。
歴史的にみれば議会制の始まりは、かつて国王が勝手な税金を掛けてくるのに市民たちが対抗したことにあったはずだ。だが、日本では議員が職業になり、家業化することで、より税金を安くするにはどうするかを考えるのではなく、どうすれば自らの報酬と地位を守れるかということばかりに頭を働かせるようになってしまった。議員自体が、「悪い王様」と変わらぬ立場になってしまったのである。
私が議員報酬の半減を訴えたのは、このような問題意識があったからだ。議員はパブリックサーバント(公僕)であり、市民の給与と同じ水準でやるべきではないか、と考えたのである。
まずは「隗より始めよ」で、市長の給与を年額2,700万円から800万円に減らし、さらに4年ごとに4,220万円もらえる退職金を廃止した。そのうえで、議員の報酬も800万円にしようとしたのだが、それが猛烈な抵抗に遭うことになった。
日本は議員の数が多すぎるうえに、報酬が高すぎる。名古屋市は人口約226万人で議員定数75人、報酬年額(制度値)は約1,630万円。だが、シカゴは人口約283万人で、議員定数は50人、報酬年額は約910万円。ロンドンは人口約756万人で議員定数は25人、報酬年額は約690万円である。バンクーバーは、議員の給与を市内の平均所得に合わせているという。
このようなデータを示しても、「議員は選挙にお金がかかる。事務所にも経費がかかる」などという人がいる。しかし、そのようなものは本来、寄付金で賄うべきものではないか。
また、議員の報酬を減らすと庶民が議員になりづらくなる、などという議論もあるが、それも大きな間違いだ。海外のボランティア議員は、ボランティアだからこそ多選せずに早く辞め、そのぶん次々に庶民が議員になっていく。しかし日本では、議員が家業化しているので高齢になるまで選挙に出馬しつづけ、やがて世襲して議席を占拠しつづける。政治に参加できる人が結果的に限られてしまうのだ。
現実問題として、現在、お金も何もなくて選挙に勝つケースが、どれほどあるだろうか。新鮮感があるためか、ただ若いというだけで議員に当選する最近の風潮もあるが、それはそれで問題だろう。社会経験が未熟なのに正しい政治ができるのか、疑問な点も多々あるからだ。
いずれにせよ、「権力とは税金を取ること」であり、いまや職業議員たちがその急先鋒になっていることが、今回、私が提出した条例案の否決で明らかになったことは間違いない。
燃え上がった市民の怒り
自らの掲げる「一丁目一番地」の政策が否定されたとき、政治家はどうすべきか。私は、そこで市民に対して市議会の解散請求(リコール)を呼びかけ、市民もそれに応えてくれた。この私の行動に対して「市長も、市議会議員も、それぞれ市民に選ばれた代表であり、市長がその議会の声を聞かないのは、二元代表制の原則を踏みにじる、独裁的横暴だ」などという声が挙がる。だが、私はその意見は間違っていると思う。
議員が「悪い王様」に!
名古屋市は、率先して「減税」に取り組もうとしたのに、なぜ市議会が反対したのか。ここに、いまの日本の政治の大きな問題点がある。議員が「職業化」して税金議員になってしまっていることが、大変な弊害をもたらしているのである。
議員たちが「減税」に反対するのは、自分たちの既得権と真っ正面からぶつかるからである。まず、減税をすると、議員たちが使い途を決められる金額が減ってしまう。これは議員たちからすれば自分たちの権力の源泉の一部を手放さなければならないことになる。さらに、自分たちの報酬が減ることにもつながる。市の職員たちが身を削って行財政改革を進めているのに、議員だけが高額の報酬を貰いつづけるわけにはいかなくなるからだ。
議員の既得権固守を象徴する、もう一つの出来事が、名古屋で進めようとしている「地域委員会」への抵抗である。
これは名古屋市内の小学校の学区単位で、ボランティアの地域委員を住民の投票で選出し、彼らに地域の課題とその解決策を検討してもらい、実際にその取り組みに対して予算付けをしていくものである。「住民が協力して、自らの手で自分たちの町をよりよくしていく」ことで、地域コミュニティの活性化を図ろうというプランだ。すでに平成22年にモデル事業を行ない、「歴史的建造物を活かしたまちづくり」「健康パトロール」「安心安全なまちづくり」など、創意工夫あふれる取り組みがなされるようになった。
だが、市議会はこの事業を拡大させる予算案にも反対をした。議員たちからすれば、これまでは地域で選ばれるのは自分たちだけだったのに、そこに地域委員が現われた。考えようによっては、地域委員は、いつ自分の対抗馬になるかもわからない。家業を守るために、地域の民主主義の芽をつぶそうとするのである。
歴史的にみれば議会制の始まりは、かつて国王が勝手な税金を掛けてくるのに市民たちが対抗したことにあったはずだ。だが、日本では議員が職業になり、家業化することで、より税金を安くするにはどうするかを考えるのではなく、どうすれば自らの報酬と地位を守れるかということばかりに頭を働かせるようになってしまった。議員自体が、「悪い王様」と変わらぬ立場になってしまったのである。
私が議員報酬の半減を訴えたのは、このような問題意識があったからだ。議員はパブリックサーバント(公僕)であり、市民の給与と同じ水準でやるべきではないか、と考えたのである。
まずは「隗より始めよ」で、市長の給与を年額2,700万円から800万円に減らし、さらに4年ごとに4,220万円もらえる退職金を廃止した。そのうえで、議員の報酬も800万円にしようとしたのだが、それが猛烈な抵抗に遭うことになった。
日本は議員の数が多すぎるうえに、報酬が高すぎる。名古屋市は人口約226万人で議員定数75人、報酬年額(制度値)は約1,630万円。だが、シカゴは人口約283万人で、議員定数は50人、報酬年額は約910万円。ロンドンは人口約756万人で議員定数は25人、報酬年額は約690万円である。バンクーバーは、議員の給与を市内の平均所得に合わせているという。
このようなデータを示しても、「議員は選挙にお金がかかる。事務所にも経費がかかる」などという人がいる。しかし、そのようなものは本来、寄付金で賄うべきものではないか。
また、議員の報酬を減らすと庶民が議員になりづらくなる、などという議論もあるが、それも大きな間違いだ。海外のボランティア議員は、ボランティアだからこそ多選せずに早く辞め、そのぶん次々に庶民が議員になっていく。しかし日本では、議員が家業化しているので高齢になるまで選挙に出馬しつづけ、やがて世襲して議席を占拠しつづける。政治に参加できる人が結果的に限られてしまうのだ。
現実問題として、現在、お金も何もなくて選挙に勝つケースが、どれほどあるだろうか。新鮮感があるためか、ただ若いというだけで議員に当選する最近の風潮もあるが、それはそれで問題だろう。社会経験が未熟なのに正しい政治ができるのか、疑問な点も多々あるからだ。
いずれにせよ、「権力とは税金を取ること」であり、いまや職業議員たちがその急先鋒になっていることが、今回、私が提出した条例案の否決で明らかになったことは間違いない。
燃え上がった市民の怒り
自らの掲げる「一丁目一番地」の政策が否定されたとき、政治家はどうすべきか。私は、そこで市民に対して市議会の解散請求(リコール)を呼びかけ、市民もそれに応えてくれた。この私の行動に対して「市長も、市議会議員も、それぞれ市民に選ばれた代表であり、市長がその議会の声を聞かないのは、二元代表制の原則を踏みにじる、独裁的横暴だ」などという声が挙がる。だが、私はその意見は間違っていると思う。
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2011年2月号のポイント
失策続きの民主党政権、新興国企業に追い上げられる日本メーカー、将来不安を増大させる医療&年金問題……2010年は暗い話題が多く、なんとなく元気を失ってしまった日本人。そこで、今月号の総力特集では、『日本人を元気にする「10の特効薬」』と題し、政治&経済から結婚&育児まで、元気の出る「処方箋」を提示。特集は「近代史に学ぶ『政治の決断』」。併せて、ご堪能ください。
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