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2011年2月9日(水)付

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衆院集中審議―越えられない違いなのか

「熟議」への道のりは遠いと感じざるをえない。それでも他に道はないと与野党ともに腹をくくってほしい。衆院予算委員会できのう、民主党マニフェスト(政権公約)の財源問題を主題[記事全文]

対ロシア外交―対立断ち切り対話に戻れ

日ロ関係が激しい非難の応酬を繰り返す深刻な状態に陥っている。不毛な悪循環を断ち切らなければならない。菅直人首相は昨年11月のメドベージェフ大統領による国後島訪問を「許し[記事全文]

衆院集中審議―越えられない違いなのか

 「熟議」への道のりは遠いと感じざるをえない。それでも他に道はないと与野党ともに腹をくくってほしい。

 衆院予算委員会できのう、民主党マニフェスト(政権公約)の財源問題を主題とする集中審議が開かれた。

 自民党の質問者は政権公約の破綻(はたん)を指摘し、衆院解散・総選挙に踏み切るよう菅直人首相に迫った。

 確かに、無駄遣い根絶などで16.8兆円の財源を賄うという約束が実現不能なのは明らかだ。その非は責められてしかるべきである。

 とはいえ、民主、自民両党が掲げる政策そのものに、乗り越えられないほどの違いがあるだろうか。

 自民党は、子ども手当など公約した政策を撤回すれば国債増発の必要はなかったと追及した。しかし、子ども手当は従来の児童手当や、所得税、住民税の年少扶養控除などに代えて設けた制度である。新年度、3歳未満について月7千円を上積みするのも、従来より手取りが減るのを防ぐためだ。

 子育て支援に一定の財政支出をすることは自民党にも異論はないはずだ。それなら、高額所得者にも配るのか、現金給付と保育所などのサービス拡充のどちらに重きを置くのか、といった制度設計を論ずべきではないか。

 そうした議論を十分に深めないまま解散を求める質問が目立ったのは、政策よりも政略を優先する対応であり、見苦しい。菅首相を「口パク人形」、政権公約を「詐欺フェスト」などと罵倒するに至っては、品位がなさすぎる。国会論戦の劣化である。

 むろん熟議の前提を整えるのは政府与党側の責務である。首相は公約の見直しについて「秋までに検証を行う」と繰り返すだけだった。全般的な見直しには時間がかかるにせよ、野党が指摘した主要な論点で方向性すら示さないのでは、歩み寄りはおぼつかない。

 民主、社民両党はきのう、予算案と関連法案の修正に向けて、協議を始めることで一致した。自民、公明両党の協力を得るのは容易ではないとみて、関連法案の衆院再可決に必要な3分の2の勢力を確保するため、社民党に秋波を送ることにしたのだろう。

 自公に限らず幅広く協力を求め、接点を探ることは当然である。しかし、社民党との間には、米軍普天間飛行場の移設だけでなく、社会保障の財源となる消費増税や、環太平洋経済連携協定(TPP)など自由貿易推進でも大きな溝があるのを忘れてはならない。

 場当たり的に連携相手を求めても、政権の優先目標を遠ざける結果しかもたらすまい。そうなれば、いったい何をするための政権なのか、存立の根本を疑われることになろう。

 どんなに難しくても政策ごとに各党と丁寧な議論を重ね、一致点を探る。その姿勢を貫くべきである。

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対ロシア外交―対立断ち切り対話に戻れ

 日ロ関係が激しい非難の応酬を繰り返す深刻な状態に陥っている。不毛な悪循環を断ち切らなければならない。

 菅直人首相は昨年11月のメドベージェフ大統領による国後島訪問を「許し難い暴挙だ」と強く批判した。

 これに対し、ロシア側は「容認できない」「(北方四島への)ロシアの主権を見直すことはない」などと猛反発している。

 首相の論旨は理解できるとしても、その言葉遣いは尋常ではない。

 ロシア側は、大統領の訪問後も第1副首相や国防相らが国後島などを訪れた。そのなかで北方領土での軍事力強化や、韓国の企業も巻き込んで開発を推進する方針も打ち出した。

 これが四島の実効支配を固める動きとして日本側に警戒を呼び起こしたのは当然だろう。

 北方四島は交渉で帰属問題を解決すると日ロ両政府が何度も合意した場所である。ここで既成事実を積み重ね、ロシアへの帰属を無理やり認めさせるような乱暴な手法は許されない。

 しかし、これまでの対ロシア外交の流れから見れば、菅首相の発言はやはり唐突感を否めない。

 まず、日ロ間では正常な首脳外交がほとんど機能していない。首相とメドベージェフ大統領との首脳会談は2度きりだ。アジア・太平洋地域での安全や経済協力の問題で日ロが果たすべき役割といった重要な問題が、突っ込んで協議されたこともない。

 高いレベルでの政治対話がなく、日本政府はロシア要人の北方領土訪問を止める手だてを持てずにいる。両国間に不信だけがわだかまる中での強硬発言はいたずらにロシア側を反発させ、領土交渉もむずかしくする。

 首相が、新年度予算案審議にも苦労する弱い政権基盤のもとで声高に領土問題の早期解決を叫んでも、ロシア側に足元をみられるだけだろう。

 必要なのは、建設的な対話の回路を回復することである。

 11日から訪ロする前原誠司外相には、ラブロフ外相との会談をその最初の機会としてもらいたい。

 まず、これまでの領土交渉の経緯について何が認められ、何が認められないかを両国がきちんと確認し合うことだ。それがなければ、今後に実のある協議はとても期待できない。

 北朝鮮の核開発問題など国際舞台での協力や、経済協力をめぐる協議も重要だ。外相らとの協議で議題となるシベリア・極東での天然ガス田や炭田の開発、ウラン濃縮などのエネルギー協力で突っ込んだ協議を望みたい。

 ロシアも今年末の下院選と来年春の大統領選をにらんだ政治の季節に入ってくる。領土問題で進展が望めない時だからこそ、それ以外の分野で成果を積むことが大切だ。

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