きょうの社説 2011年2月9日

◎北陸道無料化実験 輸送業界には恩恵あるが
 6月から北陸道全線で始まる大型車を対象とした夜間の無料化実験は、経営が厳しい輸 送業界にとって、「干天の慈雨」になるだろう。経済的な恩恵だけでなく、国道8号の騒音や事故の減少につながる期待も膨らむ。

 ただ、惜しむらくは、対象をトラックなど大型車に限定し、夜間のみの実施としたため に、これまで北陸道で積み重ねてきた割引実験の成果が反映されず、一般県民への恩恵はほとんどない。また、あくまで民主党のマニフェストに盛り込まれた「高速道路の無料化」を前提とした社会実験だから、マニフェストの修正が避けられそうもない現状では、いかなる結果が出ようとも絵に描いたモチに終わりかねない。そもそも政権与党のメンツのために1200億円を投じて社会実験を行う意義を見いだしにくいのである。

 国土交通省が2011年度の高速道路の無料化実験で、夜間の大型車を対象に無料化す るのは、北陸道の全線(新潟中央―米原間)とこれに接続する磐越道の一部区間(新潟中央−郡山間)などである。期間は半年間で、高速料金を節約するために夜間に国道8号を走るトラックを北陸道などに呼び込む効果は絶大だろう。

 だが、物流コスト引き下げの効果を検証できたとしても、その成果を生かす道筋は不透 明だ。財政事情を考えれば、年間1兆3千億円かかる高速道路の無料化は難しい。実現性が乏しいにもかかわらず、無料化を前提とした実験を続けるのは税の無駄遣いにほかならない。

 北陸道では、これまで高速料金の割引実験を重ねてきた。割引料金で北陸道に一般車両 を呼び込み、通行量を増やすことで料金収入を減らさず、同時に国道8号の渋滞解消を目指す試みである。

 2004年の割引実験では、富山の滑川−朝日間を50%割引した結果、通行量が前年 同月比の2・2倍に増えた。美川−金沢東間は30%割引で1・8倍である。安くなったうえに料金収入の目減りもなく、国道8号の渋滞が緩和する一石二鳥の効果があった。料金体系を見直すなら、無料化にこだわらず、地域の実情に合った方法を考えるべきである。

◎勢いづく地域政党 危うさぬぐえぬ単一争点
 地域政党の「減税日本」を立ち上げた河村たかし氏とその推薦を受けた大村秀章氏が、 それぞれ名古屋市長選と愛知県知事選を制し、4月の統一地方選に向けて、各地の地域政党を勢いづかせている。

 民主党や自民党など既成政党に対する不信の強さを示すものでもあるが、河村名古屋市 長や橋下徹大阪府知事が率いる、全国注視の地域政党は「市民税減税」や「大阪都構想」の実現を目標にした、いわゆるシングル・イシュー(単一争点)を特徴とする政治団体である。単純明快な政策目標を掲げて住民の意思を問う選挙は分かりやすく、支持を得やすいが、自治体の政策課題は多種多様であり、単一争点の選挙で議員を選ぶことには危うさもぬぐえない。

 全国組織の政党(ナショナル・パーティー)によってもたらされる中央集権的な政治、 政策に飽き足りず、地域に根ざした政策の実現を図ろうという地域政党(ローカル・パーティー)は以前から各地に作られている。国会議員を擁しない政治団体がほとんどながら、きちっとした「党綱領」を持つ地域政党もある。

 地方分権の進展に伴って、地域政党はさらに増えると予想されているが、河村、橋下両 氏の「首長政党」は、めざす政策が既存議員の抵抗で実現できないため、自らの力で与党議員を作りだそうという狙いであり、これまでの地域政党とは趣を異にする。「大阪維新の会」の旗揚げを「都市改造のための政治闘争」と位置づける橋下氏の言葉は象徴的である。

 議会を支配下に置こうというこうした取り組みは、首長と議会が車の両輪となって自治 体を運営する「二元代表制」への野心的な挑戦とみることもできる。小泉政権下の「郵政選挙」のように、単一争点の選挙は政策実現の政治手段としてもあり得よう。ただ、首長の用意した一つの物差しだけで選ばれる議員によって、議会が本来の機能を十分に発揮できるかどうか。争点となる政策の是非だけでなく、候補者の資質、能力を判別する有権者の能力も厳しく試されることになる。