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きょうのコラム「時鐘」 2011年2月9日
八百長の調査で携帯電話の提出を求めたら、「妻に踏まれて壊れた」と言い訳した力士がいたという。随分と慌て者で馬力のある妻である
壊れた携帯に疑惑のメールがあったなら、夫をかばったことになる。逆ならば、夫の潔白を晴らす機会を奪ったことになる。壊したのは内助の功(こう)か、それとも悪妻の振る舞いか 内助の功なら、わが加賀藩祖・前田利家の正室まつが代表選手。勇ましい逸話が幾つも伝わる。臨終の夫に死に装束を用意し、潔い往生を勧めたのもその一つ。戦国の世に殺生の罪を繰り返してきた、と夫を諭し、「これを着てエンマさまの前で悔い改めよ」と迫った 手荒い内助の功である。土俵の上は女人禁制、と大相撲の男たちは普段は勇ましい。が、世間の冷たい風をさほど知らぬ親方衆やご隠居みたいな理事連中が、いま大きな覚悟を迫られている。まつの言葉は、どこまで心に響くだろうか 愉快なことに、内助の功に鍛えられた利家は、最後にまつを言い負かした。「心配無用。あの世にも多くの家来がいる。一緒になってエンマをやっつける」。八百長退治もかく願いたいが、さて。 |