鹿児島夫婦殺害:生死選択迫られ裁判員「眠れぬ日あった」

2010年12月10日 22時35分 更新:12月10日 23時23分

会見を終えて弁護士会館を出る白浜被告=鹿児島市易居町で2010年12月10日午後2時56分、遠山和宏撮影
会見を終えて弁護士会館を出る白浜被告=鹿児島市易居町で2010年12月10日午後2時56分、遠山和宏撮影

 「主文、被告人は無罪」。被告の生死の選択を迫られた市民の判断は、無罪だった。鹿児島地裁で10日にあった鹿児島市の高齢夫婦殺害事件の裁判員裁判。裁判員は「眠れない日もあった」と40日にわたって悩み続けた苦しみを語った。

 鹿児島地裁。裁判員と補充裁判員8人は判決後、緊張した様子で記者会見場に姿を現した。強盗殺人罪に問われ、検察側が死刑を求刑した白浜政広被告(71)に対して無罪判決を出した心境を問われ「判決の通りです」との答えが続き、評議の重苦しさが伝わるような空気が会場を支配した。「寝る時は思い返した。眠れない日もありました」。出席した1人は被告の生死がかかる重大事件を裁く重みをこう表現した。

 鹿児島地検の江藤靖典次席検事は判決後、約1時間にわたって報道陣の質問を受けた。「判決文を見てからでないと何とも言えない」。江藤次席検事は淡々と答えたが、途中から席に着いた主任検事は厳しい表情。

 「証拠構造が崩された感触はありますか」との報道陣の質問に「正直私は、ないですね」と答えた主任検事。「読んでないですから。判決文を読んでみないと」とあわてたように付け加えた。

 一般市民の裁判員らが下した判決は、捜査に多くの疑問を投げかけた。現場に警察官の足跡や手袋のあとが複数残っていたことを挙げ「試料採取が行われるまでの現場保存が完璧だったのか疑問がある」と指摘。ほかにも、重要証拠であるガラス片や網戸からの証拠の採取過程が写真撮影されていない▽侵入口付近の足跡の土砂など鑑定を実施した形跡がない▽足跡鑑定のために被告がいつどのような靴を使用していたのかの捜査が不明--と列挙した。

 「真相解明のための必要な捜査が十分に行われたのか疑問が残り、検察官が主張するように『徹底的に現場を調べ上げた』と評価することはできない」。自信を持って臨んだはずの裁判の結末は、事実上の捜査批判と言える内容だった。

 一方、白浜さんを逮捕した鹿児島県警。刑事企画課幹部は「判決文は読んだ。無罪が確定すれば捜査の改善点などの検討も必要だと思うが、現段階では何も言えない」と語るだけ。ある幹部は「DNAも指掌紋も認定しているにもかかわらず無罪になっては、今後どのように捜査をすればいいのか」と戸惑いを隠せない。

 無罪判決を勝ち取った白浜さんは午後3時すぎ、09年6月の逮捕以来初めて自宅に戻った。「ゆっくりしたい。ほっとしています。姉に『ただいま』と言いたい」と待ち受けた報道陣に表情を緩ませ、車に乗り込んだ弁護士には右手を挙げて「ありがとうございます」と言って見送った。

 宮崎地裁は3日前、義母ら家族3人を殺害した被告に死刑判決を言い渡した。裁判員を務めた宮崎市の会社員が10日、取材に応じ、鹿児島地裁の判決について語った。

 「否認事件で一歩間違えば冤罪(えんざい)を生みかねない。証拠が不十分であれば、裁判員の方が無罪だと判断したのも、まあそうだろうなと思います」

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