エコカー人気で「低燃費」競争が激しさを増すが、カタログ上の燃費で実際に走る車はほとんどない。国産車の燃費はとりわけ現実離れしているとの指摘があり、国土交通省が4月から改善に乗り出す。実際の燃費に近い新試験の結果をカタログに表示するようメーカーに義務づける。
1リットルあたり38キロ。国交省が昨年、「もっとも燃費の良い乗用車」と認めたトヨタ・プリウスのカタログ上の燃費だ。ところが、ユーザーからは異議があがる。実際の走行距離から燃費を算出する携帯電話のサイト「e燃費」では、平均でガソリン1リットル当たり約21.7キロとの結果が出ているからだ。
e燃費の会員は全国約50万人。うち約10万人から携帯電話で実際の給油量と走行距離を入力してもらっており、車種ごとに「実燃費」を算出して公表している。国内で走る大半の車種のデータが集まるという。サンプル数が少ない車種もあり、限られたデータに基づく参考値にすぎないが、ネット上で一定の信頼を得ている。
プリウスの実燃費はカタログ値の6割に満たないが、ほかの車の実燃費はさらに劣るため、このサイトの低燃費ランキングでも1位だ。一方、輸入車部門で1位のフィアット500はカタログ値19.2キロに対して16.8キロ(達成率約88%)、2位のフィアット・パンダはカタログ値15.6キロに対して14.3キロ(同約92%)だ。
実燃費とカタログ値との差が国産車で目立つことには、海外の自動車メーカーからも批判が上がる。この理由を、国交省関係者は「性能テストの内容と、メーカーの取り組み方にある」とみる。
燃費の測定基準は国によってまちまちで、現在、日本では国交省が定める「10・15モード」と呼ばれる方式を採用している。国の試験場のローラーの上で、決められた一定の割合で加速したり、同じスピードを維持したりして燃費を調べるが、全体的に単調な動きが多い。不規則に加速や停止を繰り返す実際の走行パターンとは異なる。
日本に輸入される外国車も日本の試験を受けてカタログに燃費を表示しているが、国産車の方が実際との差が大きくなるのはなぜか。
国交省関係者は(1)国産車メーカーは試験で良い結果が出るようエンジンのコンピュータープログラムを調整している(2)メーカーが用意した専用のテストドライバーが運転している――ためと分析する。
輸入車メーカーは自国の測定法にあうようエンジンのプログラムを組んでおり、試験時に必ずしも特別なドライバーを用意しない。このため日本ではいい結果が出ないこともあるが、実際の走行とも大きな差は生じないというのだ。e燃費を運営するイード社の藤原央行(ひろゆき)さん(32)は、「(国産車は)試験対策は上手だけれど、実戦はそれほどでもない」と指摘する。
トヨタの広報担当者は「カタログ表示はあくまで基準にのっとって算出した結果。走行条件が違えば燃費に差が出るのはやむを得ない」と話す。米国の基準でもプリウスは低燃費1位で、相対的な性能の良さは揺るがないとの立場だ。一方、フィアット側は「燃費は現実に合った表示を心がけている。利用者に誠実であるべきだ」という。
10・15モードが実際の走行とかけ離れているとの利用者らからの指摘を受け、国交省は2007年、市街地での走行のように加速や減速を複雑に繰り返して測定する「JC08モード」という方式を導入した。今年4月以降の新型車は、新方式の結果をカタログに表示することを義務づける。すでにある車も13年までに表示を順次切り替える。新試験では従来より15%前後は燃費が悪くなり、実燃費との差が縮まる見通しだ。
一方、国連では13年を目標に、各国でバラバラな試験方法に国際的な統一基準をつくる動きが出始めた。国交省は「統一基準ができれば消費者に分かりやすい。車を輸出するにも試験は一度で済み、メーカーのコスト削減になる」と歓迎。基準づくりに積極的に参加する構えだ。(佐々木学)