私事で恐縮だが、帰国後、すっかり風邪を引いてしまった。

ドーハ滞在中からかなり怪しかった。現地のあまりに激しい気温差に、毎日風邪薬を服用する身の上で、ギリギリのところで耐えてきたのだが、真冬の東京に戻れば、完璧にやられそうなことは分かりきっていた。

予想されたことが予想通り起きたわけだ。声はガラガラ。会話も困難なほどだ。打ち合わせも2つほどキャンセルさせてもらった。世の中的には静かで助かるという話になるのかもしれないが、その分キーボードを打つ手には力がこもる。スギヤマの口に戸は立てられないのである。というのは冗談だが、ともかくスポーツライターとして一言いいたくなるのは大相撲問題。
一番滑稽なのは、この前まで八百長はないと言い続けてきた専門家、そしてメディアだ。大相撲に星の貸し借りがあることを、いま新鮮に驚く姿に、僕はこれ以上ない嘘臭さを感じる。常識的に考えてあるはずのもの。それは7勝7敗の力士の勝率を見れば一目瞭然。僕には何十年も前、それこそ小学生の頃から察しが付いていた。

100%フェアなスポーツにはとても見えなかった。スポーツと呼びたくなかったし、スポーツニュースの枠の中でも紹介することに、激しい抵抗を覚えた口だ。

突っ込もうと思えば突っ込めたはずだ。だが、敢えてそれをしなかった。発覚したときの混乱を、誰もが恐れていたからだ、なあなあにしておいた方が得策とばかり、敢えてないものとして、みんなで隠してきた。

専門家ほど、事情に詳しい人ほど、知らぬふり、見て見ぬふりをしてきた。

みんなで隠してきた箱の中身が、ふとした弾みで開いてしまった。で、それを見た識者たちが、へーとみんなで驚いている。けしからんヤツがいたものだと嘆いている。

世の中に嘘臭いことはいくらでもある。とりわけ日本にそれは多い気がするが、大相撲はその象徴だ。この問題を報じるなら、それ相当の覚悟が必要だ。報じる側も、国民にいままで取ってきた嘘臭い態度を、まず謝る必要がある。それをしないものだから、ますます嘘臭くなる。

そもそも国民だって、八百長について知りたがっていたわけではない。なあなあにしておくべきものだと思っていたはずだ。

去年、八百長について踏み込んだ記事を書いた某週刊誌は、結局敗訴し、ウン千万円もの支払いを命じられたが、そうした正義感溢れる姿勢を、その他のメディアは支持しようとしなかった。逆に胡散臭そうな目で、その週刊誌を眺めていた。態度はめちゃめちゃ冷たかった。

出版社にウン千万円の支払いを命じた裁判官は、今頃、穴があったら入りたい思いでいっぱいだろう。明らかなミスジャッジが、白昼のもとに晒されてしまったのだから。

不謹慎を承知で言えば、大相撲の八百長報道は、八百長をしたと言われる親近感の抱きにくい知名度の低い力士より、それを報じている知名度の高いコメンテーターの方が、僕には切なく感じる。何倍も滑稽に見える。

説得力ゼロ。出演者全員が嘘臭く見えるところが大相撲の八百長問題最大の特徴だ。

その傍らで、二階級特進どころかそれ以上の昇進を果たし、日本スポーツ界希望の星となったのが長友佑都選手。僕が寝込んでいる間、インテルに移籍を決め、さらに途中交代ながら、セリエAデビューまで果たした。

インテルは何と言っても昨季の欧州チャンピオン。クラブW杯の覇者でもある。長友は世界ナンバーワンのチームに移籍したわけだ。日本人選手の中で、これ以上のチームでプレイした選手はいない。長友は、まさに一夜にして日本人の出世頭になった。

本田でも香川でもなく長友であるところがミソ。攻撃的MFでなくサイドバックであるところ、実質160㎝台の選手(おそらく?)であるところがミソである。中田英、中村俊、小野なども含め、これまで活躍した選手は中盤選手だった。サイドバックが、栄えある日本ナンバーワンの座に就くことは想定外。もちろん良い意味でだ。

サッカーはサイドバックで決まる。サッカーはいま確実にそう言われている。そうした背景があるだけに、このニュースはなおさら画期的。猫も杓子も中盤選手になりたがる日本の中盤幻想が、これを持って終焉を迎えることに期待したい。少なくとも、向こう5年ぐらいは、猫も杓子もサイドバックに憧れる世の中であることを期待する。

ところで、メルマガでも触れたが、長友の目標は「世界一のサイドバック」だとのことだが、彼的に得意なのは右、左どちらなのだろうか。暫定的に見える左なのか。利き足に準じた右なのか。「世界一のセンターバック」ではないところが、この話のポイント。左右両サイドで、同じ力を高次元で発揮する選手はそういない。長友はいかに。