作家デビュー(処女作)
ここ数年の間に、急激に発展してきたインターネット。
自宅に居ながら、世界中の人達と繋がっている不思議な架空の世界がそこにはある。
今まで全く知らなかった遠い場所の人とも、簡単に友達になれるブログもその中の一つだ。
そんなブログの世界に出会い、リタイア後の楽しみに始めたパソコンの前に座るジョンが呟いた。
「私の意図とは違う・・・」
ジョンとは、彼のハンドルネームである。
どう見ても日本人の顔立ちと、歳の事を考えると少し照れくさい気もしたが、
学生時代からのニックネームで、愛着があったので今でも使っている。
終身雇用が当たり前の日本を信じていた、団塊の世代でもあるジョンは、
自分が定年後に、ブログという架空の世界に夢中になるなんて想像もしていなかった。
世界経済の影響で、実力主義という考え方が日本にも定着しつつある。
ジョンは、そんな実力主義という、外国から来た黒船の被害者だったのかも知れない。
定年を数年後に迎えたある日、人事課の斎藤課長から呼び出された。
斎藤課長とは同期入社で、若い頃はよく飲みに行った仲であったので、
改まった斎藤の態度と呼び出しに、ジョンはその時が来た事を悟った。
「お前とも長い付き合いなので、非常に言いにくい事なんだが・・・」
会社の業績不振で、55歳以上の整理解雇で仲間が去って行くのを見てきたジョンは、
斎藤の言葉を遮った。
「分ってるよ!それ以上言わなくても」
「すまん、力になれなくて・・・」
「そんなに気にするなって、俺はこんな日が来るのを覚悟してたから副業を始めてるんだ」
「副業?」 斎藤はジョンの寂しげな瞳を前にそれ以上は聞けなかった。
同期入社が次々と去って行く中、ほんのお小遣い稼ぎのつもりで入会したAWシステム。
まさか、本業として個人事業主となるなんて、サラリーマンひと筋のジョンには、
不思議な感じだった。
整理解雇という事もあり、少し上乗せのあった退職金のせいか不安な気持ちはなかった。
AWシステムとは、空気清浄機・浄水器・サプリメントに洗剤と生活に必要なものを全般に扱う
ヨーロッパ発想のビジネスである。
子供を増やして、商品の販売を拡大して行く連鎖商法の一種である。
特に、ジョン自身が興味を持ったのは、鍋のセットである。
妻のラフィが、お料理上手という事もあり、
ホームパーティーを中心に販売を拡大して行く計画を立てたからだ。
ちょうど、退職頃のペットブームと重なった事と、AWシステムの仲間に勧められて、
ジョンとラフィは、トイプードルを飼う事にした。
名前を「セント」と名付け、ブログの主人公に抜擢した。
セントと名付けられた子犬には、これからの大変な生活が分るはずもなくスヤスヤと眠っていた。
犬を飼った経験がない二人には、ネットやブログの情報は本当に助かるものであった。
早期退職で、困るほど出来た自由時間のせいで、ブログ依存症に陥るのに時間は掛からなかった。
お小遣い稼ぎではなくなった、本業のAWシステム。
新規な顧客獲得に、ブログという世界は好都合と感じていたジョンは、
寝る間を惜しんでコメントを書きまくった。
もともと、几帳面な性格でもあるジョンは、コメントを全てコピーしてエクセルで管理した。
頂いたコメント・送信したコメント・回数・日時・顧客見込みとしてのランク付け等を、
細かく分析して営業の資料として保存管理した。
「頂いたコメントには必ず返信・訪問する」を自分に言い聞かせ頑張って結果、
ランキングも徐々に上がり、少しは有名になった自分に酔いしれた。
「輪の中心にいるって、気持ち良いですよね」なんて事も、
ブログに書いてしまうほど絶好調なジョンにも、二つ気になる事があった。
一つは、ランキングである。
一日中どころか、寝る間も惜しんで頑張っているブログのランキングであるが、
なぜか、頭打ちで伸びない。
「なぜなんだ?」 何が足りないのか自分自身に問いかけてみても、
答えがでる事はなかった。
「コメントだけではダメなのか?」 そう考えたジョンは、色んな所に足を運んだ。
しかし、答えは今でも出ないままである。
コメント欄を閉じているブログが上位を占めている事実に、少し苛立ちを感じながらも、
寝る間を惜しんでコメントを書きまくる事は止めなかった。
もう一つの問題は、本業となったAWシステムである。
住宅ローンも完済し、退職金もあるから、まだ少し余裕はあるのだが、
仲間内で良い顔をしたい性格のジョンには、売上が低いという事実は耐え難かった。
しかし、予想もしなかった不景気な日本に、ため息さえ漏れた。
そんなジョンに、名案が浮かんだ。
「ねえ、ラフィさん」 改まった口調でジョンは言った。
「何かしら?改まって」
「お鍋を宣伝する方法が浮かんだんだ」
「どんな方法?」 嬉しそうに語るジョンに、ラフィは聞き返した。
ジョンが考えた方法は、ブログを使った宣伝で、手の込んだ手法であった。
ラフィが、お料理上手な事に目を付けたジョンは、自分の考えた企画を語り始めた。
「シフォンケーキをお鍋で焼くんだ」
「オーブンじゃなくて、お鍋でシフォン?」
「そうだ!お鍋でだよ」 自信満々に言いきった。
ジョンの計画では、ブログにお鍋で焼いたシフォンケーキを紹介するものであった。
少し意味の理解出来ないラフィを気にせずに、ジョンは語り始めた。
「ブログでシフォンケーキを紹介して販売するんだよ」
「じゃあ、オーブンでもいいんじゃないの?」 この方が効率よいとラフィは考えた。
「お鍋の良さをアピールする為に、お鍋じゃなきゃダメなんだ」
ラフィも、ジョンの計画の意味がやっと理解出来て、少しほほ笑んだ。
「お鍋で焼いている事を前面にアピールすると、お鍋が気になる作戦だよ」
「どんなお鍋か気になって問い合わせが増えるって事よね」
「そうだよ!そしたらお鍋もバンバン売れるはず」
二人の計画が実行されるのに時間は掛からなかった。
ブログでシフォンケーキを紹介すると、思っていた以上の反響に、
少しビックリした二人であったが、出だしの良い計画に満足した。
次々と入る注文に、二人は心地よい疲労感を味わっていた。
ラフィも、自分の自慢のシフォンケーキが好評なのに悪い気はなく、
次々と新作を作り始めた。
しかし、ケーキ作りや梱包作業の忙しさの中で忘れかけていた、当初の計画を思いだした。
「ねえ、ラフィさん、忙しくて忘れてたけど、お鍋の問い合わせってあった?」
ジョンは、自分が毎日ブログを管理している事すら理解出来ないでいた。
「私は見てないけど・・・」
ジョンは、パソコンの前に駆け寄った。
シフォンケーキの注文ばかり気にしていたので、もしかしたら見逃していたのかも?
と自分に言い聞かせながら、ブログのコメント欄を再チェックした。
しかし、お鍋の問い合わせはなく、シフォンケーキの注文ばかりの画面にジョンは呟いた。
「私の意図とは違う・・・」
この物語はフィクションです。
登場人物は架空の名前であり、似たような方がいても気のせいです・・・
自宅に居ながら、世界中の人達と繋がっている不思議な架空の世界がそこにはある。
今まで全く知らなかった遠い場所の人とも、簡単に友達になれるブログもその中の一つだ。
そんなブログの世界に出会い、リタイア後の楽しみに始めたパソコンの前に座るジョンが呟いた。
「私の意図とは違う・・・」
ジョンとは、彼のハンドルネームである。
どう見ても日本人の顔立ちと、歳の事を考えると少し照れくさい気もしたが、
学生時代からのニックネームで、愛着があったので今でも使っている。
終身雇用が当たり前の日本を信じていた、団塊の世代でもあるジョンは、
自分が定年後に、ブログという架空の世界に夢中になるなんて想像もしていなかった。
世界経済の影響で、実力主義という考え方が日本にも定着しつつある。
ジョンは、そんな実力主義という、外国から来た黒船の被害者だったのかも知れない。
定年を数年後に迎えたある日、人事課の斎藤課長から呼び出された。
斎藤課長とは同期入社で、若い頃はよく飲みに行った仲であったので、
改まった斎藤の態度と呼び出しに、ジョンはその時が来た事を悟った。
「お前とも長い付き合いなので、非常に言いにくい事なんだが・・・」
会社の業績不振で、55歳以上の整理解雇で仲間が去って行くのを見てきたジョンは、
斎藤の言葉を遮った。
「分ってるよ!それ以上言わなくても」
「すまん、力になれなくて・・・」
「そんなに気にするなって、俺はこんな日が来るのを覚悟してたから副業を始めてるんだ」
「副業?」 斎藤はジョンの寂しげな瞳を前にそれ以上は聞けなかった。
同期入社が次々と去って行く中、ほんのお小遣い稼ぎのつもりで入会したAWシステム。
まさか、本業として個人事業主となるなんて、サラリーマンひと筋のジョンには、
不思議な感じだった。
整理解雇という事もあり、少し上乗せのあった退職金のせいか不安な気持ちはなかった。
AWシステムとは、空気清浄機・浄水器・サプリメントに洗剤と生活に必要なものを全般に扱う
ヨーロッパ発想のビジネスである。
子供を増やして、商品の販売を拡大して行く連鎖商法の一種である。
特に、ジョン自身が興味を持ったのは、鍋のセットである。
妻のラフィが、お料理上手という事もあり、
ホームパーティーを中心に販売を拡大して行く計画を立てたからだ。
ちょうど、退職頃のペットブームと重なった事と、AWシステムの仲間に勧められて、
ジョンとラフィは、トイプードルを飼う事にした。
名前を「セント」と名付け、ブログの主人公に抜擢した。
セントと名付けられた子犬には、これからの大変な生活が分るはずもなくスヤスヤと眠っていた。
犬を飼った経験がない二人には、ネットやブログの情報は本当に助かるものであった。
早期退職で、困るほど出来た自由時間のせいで、ブログ依存症に陥るのに時間は掛からなかった。
お小遣い稼ぎではなくなった、本業のAWシステム。
新規な顧客獲得に、ブログという世界は好都合と感じていたジョンは、
寝る間を惜しんでコメントを書きまくった。
もともと、几帳面な性格でもあるジョンは、コメントを全てコピーしてエクセルで管理した。
頂いたコメント・送信したコメント・回数・日時・顧客見込みとしてのランク付け等を、
細かく分析して営業の資料として保存管理した。
「頂いたコメントには必ず返信・訪問する」を自分に言い聞かせ頑張って結果、
ランキングも徐々に上がり、少しは有名になった自分に酔いしれた。
「輪の中心にいるって、気持ち良いですよね」なんて事も、
ブログに書いてしまうほど絶好調なジョンにも、二つ気になる事があった。
一つは、ランキングである。
一日中どころか、寝る間も惜しんで頑張っているブログのランキングであるが、
なぜか、頭打ちで伸びない。
「なぜなんだ?」 何が足りないのか自分自身に問いかけてみても、
答えがでる事はなかった。
「コメントだけではダメなのか?」 そう考えたジョンは、色んな所に足を運んだ。
しかし、答えは今でも出ないままである。
コメント欄を閉じているブログが上位を占めている事実に、少し苛立ちを感じながらも、
寝る間を惜しんでコメントを書きまくる事は止めなかった。
もう一つの問題は、本業となったAWシステムである。
住宅ローンも完済し、退職金もあるから、まだ少し余裕はあるのだが、
仲間内で良い顔をしたい性格のジョンには、売上が低いという事実は耐え難かった。
しかし、予想もしなかった不景気な日本に、ため息さえ漏れた。
そんなジョンに、名案が浮かんだ。
「ねえ、ラフィさん」 改まった口調でジョンは言った。
「何かしら?改まって」
「お鍋を宣伝する方法が浮かんだんだ」
「どんな方法?」 嬉しそうに語るジョンに、ラフィは聞き返した。
ジョンが考えた方法は、ブログを使った宣伝で、手の込んだ手法であった。
ラフィが、お料理上手な事に目を付けたジョンは、自分の考えた企画を語り始めた。
「シフォンケーキをお鍋で焼くんだ」
「オーブンじゃなくて、お鍋でシフォン?」
「そうだ!お鍋でだよ」 自信満々に言いきった。
ジョンの計画では、ブログにお鍋で焼いたシフォンケーキを紹介するものであった。
少し意味の理解出来ないラフィを気にせずに、ジョンは語り始めた。
「ブログでシフォンケーキを紹介して販売するんだよ」
「じゃあ、オーブンでもいいんじゃないの?」 この方が効率よいとラフィは考えた。
「お鍋の良さをアピールする為に、お鍋じゃなきゃダメなんだ」
ラフィも、ジョンの計画の意味がやっと理解出来て、少しほほ笑んだ。
「お鍋で焼いている事を前面にアピールすると、お鍋が気になる作戦だよ」
「どんなお鍋か気になって問い合わせが増えるって事よね」
「そうだよ!そしたらお鍋もバンバン売れるはず」
二人の計画が実行されるのに時間は掛からなかった。
ブログでシフォンケーキを紹介すると、思っていた以上の反響に、
少しビックリした二人であったが、出だしの良い計画に満足した。
次々と入る注文に、二人は心地よい疲労感を味わっていた。
ラフィも、自分の自慢のシフォンケーキが好評なのに悪い気はなく、
次々と新作を作り始めた。
しかし、ケーキ作りや梱包作業の忙しさの中で忘れかけていた、当初の計画を思いだした。
「ねえ、ラフィさん、忙しくて忘れてたけど、お鍋の問い合わせってあった?」
ジョンは、自分が毎日ブログを管理している事すら理解出来ないでいた。
「私は見てないけど・・・」
ジョンは、パソコンの前に駆け寄った。
シフォンケーキの注文ばかり気にしていたので、もしかしたら見逃していたのかも?
と自分に言い聞かせながら、ブログのコメント欄を再チェックした。
しかし、お鍋の問い合わせはなく、シフォンケーキの注文ばかりの画面にジョンは呟いた。
「私の意図とは違う・・・」
この物語はフィクションです。
登場人物は架空の名前であり、似たような方がいても気のせいです・・・
