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陸山会事件:初公判 「裏金主張は空中楼閣」 弁護側が検察批判

 小沢一郎・民主党元代表(68)の資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡り、政治資金規正法違反(虚偽記載)に問われた元私設秘書の衆院議員、石川知裕被告(37)ら元秘書3人の初公判は7日午後も東京地裁(登石(といし)郁朗裁判長)で続き、弁護側は、ゼネコンからの裏金授受があったとする検察側主張を「具体的証拠が全くない空中楼閣だ」と批判した。(24面に冒頭陳述要旨)

 陸山会の政治資金収支報告書に記載されなかった資金は計21億円余。弁護側は違法性を否定するが、検察側は初公判で、この資金移動は、土地購入の原資となった小沢元代表の手持ち資金4億円を隠すための偽装工作だとの構図を描いた。

 ゼネコンからの裏金授受が立証されれば、虚偽記載の動機は明確になる。このため検察側は冒頭陳述で、水谷建設元幹部が調べに対し「04年10月15日に石川議員に現金5000万円を手渡した」と証言した点を強調。元幹部が元公設第1秘書、大久保隆規被告(49)を料亭で接待したり、「お中元」「お歳暮」と称して現金100万円を渡し小沢事務所と親密な関係を築いたなどと具体的に述べた。

 同社が一部工事を下請け受注した小沢元代表の地元・岩手県の胆沢ダム本体工事の入札は10月7日。18日には陸山会の銀行口座に5000万円の入金があった。3億円を超える土地購入費が支払われたのは同29日だった。こうした事実と元幹部の証言を結びつけ、検察側は「4億円の出所を詮索されて5000万円授受が発覚することを恐れた」との論理を組み立てた。

 一方で、元秘書らは裏金を受領したとして起訴されているわけではない。検察側は冒頭陳述でも4億円に裏金5000万円が含まれるかどうかは明言を避けた。弁護側は「4億円が裏金的な資金だったという具体的な証拠はない」と反論。「起訴されていない余罪を処罰する趣旨で審理が行われようとしている」と強く反発した。

 公判では予定される証人12人のうち少なくとも6人を水谷建設関係者が占めており、裏金の存否が事実上最大の争点となる。

 また、検察側は4億円の原資について、小沢元代表が特捜部に説明した供述調書3通も読み上げた。元代表は「89~02年に自分と家族の口座から引き出し、事務所に残っていた4億数千万円が原資。いつ、どこで出金したかはっきり覚えていないが、自己資金なのは間違いない」と説明していた。【伊藤直孝】

 ◇「誘導」「自供?」の記録再現--聴取録音、ICレコーダー

 午後の法廷では、石川議員が昨年5月に受けた任意の再聴取の様子を録音したICレコーダーの記録の一部が読み上げられた。検事が自白供述を維持するよう石川議員を「誘導」する様子が再現された一方、石川議員が虚偽記載を認めたとも受け取れる発言をしたことが紹介された。

 「ベストなのは『今までの供述は事実です。小沢先生の認識は分かりません』だよ」「小沢先生が組織ぐるみで口裏合わせしているとかっていう印象は絶対良くない。小沢さんの影響を受けて話していることは一切ないということを示すしかないよね」

 検事は、小沢元代表が強制起訴されないためと説明し、石川議員に自白供述を維持するよう求めていた。

 一方、検察側も5時間に及ぶ録音のうち読み上げてほしい部分を地裁に請求。石川議員が検事に「無罪になるわけじゃない。百も承知」「不動産登記の時期をずらすことが出発点。そのためにどのような(記載の)操作をするのかというのが2番目」などと説明したことが明かされた。【伊藤直孝】

 ◇融資不記載なのに返済は記載 被告主張に矛盾

 初公判では元秘書の衆院議員、石川知裕被告(37)らの主張に大きな矛盾も浮かんだ。

 陸山会が04年10月に土地を購入した際、小沢一郎・民主党元代表は原資として4億円を提供したほか、銀行から同額の融資を受け、これを陸山会が借り入れた。この計8億円のうち04年分政治資金収支報告書に記載されたのは「借入金 小澤一郎 4億円」のみ。これは銀行からの融資分とされ、元代表の提供分を隠したとして石川議員らは起訴されたが、石川議員の弁護側は「記載した4億円は融資分ではなく元代表の提供分で、虚偽記載ではない」と主張した。

 だが、05、06年分収支報告書には2億円ずつ融資分の返済が記されている。融資を記載しないのに返済だけ記載するという矛盾が生じる。しかも、石川議員が「記載した」とする提供分は07年5月、元私設秘書の池田光智被告(33)により元代表に返還されているが、これも未記載で起訴対象。池田元秘書の弁護側は「提供分の4億円は元代表の個人資産で陸山会口座で一時預かっただけ。返還は陸山会の支出ではなく記載は不必要」と、提供時と返還時で全く食い違う主張をしている。

 また、融資の際、陸山会は元代表の関連政治団体から計1億4500万円を集めて定期預金を組み融資の担保としたが、この1億4500万円も収支報告書に記載せず、起訴対象となっている。石川議員の弁護側は「関連団体間の一時的な資金のやりくりで、上着の左ポケットから右ポケットに移し替えた程度の意識」と違法性を否定。しかし、政治資金を所管する総務省は「同一政治家の団体であっても資金移動は正確に書かなければならない」と指摘している。【杉本修作】

毎日新聞 2011年2月8日 東京朝刊

 

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